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062 ▲ 能力大会・紫の悪い予感 *

 最終試合の合間に、あまりに千尋の隣に座っていられなくて席を立っていた。


 あれから、千尋とは一言も喋ってはいない。

 ただ2人で試合を眺めていただけ。


 香穂里が楽しんでいたことにはすぐ気付けたから、最後まで安心して見守っていた。

 それだけに、最後の試合に不安が募る。



 パックの梨ジュース片手に1階の選手控室入口に何となく向かえば、そこで偶然にも紫と出会った。


 先程まで担架で運ばれていたくらいなのにもう傷口が塞がっているような気がしたが、そのことは敢えて気にしないことにした。

 如月さんのように治癒の術でも使えるのだろうか。

 もしくは、治療班の対応が早かっただけか。


 そんな紫も、その選手口で誰かを探していたらしい。

 ちょっと警戒しつつ、聞くことにする。


「黄さん探し?」


 思わず訊ねたら、紫は全く私の気配に気付いていなかったらしく驚いて、更に横に大分ズレていた。

 その動きがダサくて逆に驚いていれば、紫はやっと私だと解ったらしい。


「あ、あぁ …… ビックリしたぁ」

「傷は平気なの? かなり血を流していたような気がしたが ……」

「うん、傷は大丈夫。高度な治療班が来ているみたいでね。滅多に居ない治療の術を持った看護師のお陰で、もうすっかり元気にはなったよ~」


 と答えながらも軽く準備運動のような行動をとって大丈夫なことを伝えてくれた。


「その時に、黄が付き添ってくれていたみたいで。一言、お礼を~と思ったんだけど」

「まぁ、次出番だし、無理じゃない?」

「およよ? ってことは、もう香穂里と山田の試合、終わっちゃっていたのかー」


 どうやら何も知らずに来たらしい。

 私はうん、と頷いてから壁に寄り掛かる。


「次の試合まで20分間の休憩中デショ」

「じゃぁしょうがないね」


 そう答えた紫は、どこか悲しそうにしていた。

 何かが引っ掛かって思わず訊ねる。


「妹さん、一緒に住んでいる訳ではないのデショ?」


 付添ってくれたのなら家でお礼を言えば良い。

 だけど、私達のように複雑な事情があれば、離れて住んでいるのではないかと考えた。


 予感は当たっていたのか、


「うん。まぁ、色々と深ぁい事情があって、ね」


 話しをにごわす紫にハタと気付き、私は頭を軽く下げた。

 そこまで深く聞く気は無かったのに、紫は悩んでいるようにも思える。

 だから両手を横に振った。


「言わなくて良いデショ。ごめん、変なこと聞いて」

「別に気にしてないよ。もう、慣れっこだもん」


 そう答えた紫は、どこか空笑いをしているように思えた。


 きっと誰しも、色んな事情を抱えて生きている。

 それは私と香穂里だけじゃない。

 如月さんにも、恐らく遠音にも、私達には言えないような深い事情があるのだと思う。


 きっと紫も同じ。

 それを訊ねてしまったのだから、やっぱり申し訳なく感じた。


 紫が敵だったとしても、今の言葉に嘘偽りは感じ取れなかった。


 そもそも、紫との仲は大して良い訳ではない。


 だけど、何と言うのだろうか。

 こうして一緒に居るだけで不思議と安堵してしまう、そんな紫ならではの空気を持っていた。

 開けっ広げで秘密が無いかと言えば、そういう訳でも無いだろうけども、そんな感じの …… ちょっと独特な雰囲気というか。


「黄に会いたかったのは、単純に次の試合 …… 嫌な予感がするんだよね」


 不意に紫はそう言って声のトーンを落とした。


「あの子も香穂里と同じ。ウチと出会う前に魔力暴走を起こしたことがあるって言っていたから ―― 何も無ければ良いのだけど」


 ―― そういえば、前に円が言っていた気がする。


『紫の悪い予感って、意外と当たっちゃうから困るのですわ』


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