061 ☈ 能力大会・建て前と現実③
勝負は、1ポイント差で先に岸間が上限に達して勝利していた。
咲九が言っていたように、かなりの長期戦だったと思う。
本人達が楽しんでいるような攻防に、私はただ目を丸くして様々な複合技を眺めていた。
終わった後に山田は悔しそうにしていたものの、岸間には良い戦いが出来たと感謝していたらしく、最終的に2人は硬い握手を交わしていた。
「前の試合のお陰で凄く助かったわね」
ふぅと安堵の溜め息をついていた咲九が次の時には失笑する。
「それにしたって前の時の術が残るとは …… 流石に完璧な核を持つだけあるわね」
「なぁ。次の最終試合にも影響出るんじゃねぇの? ソレ」
「多分、もう伝えているから大丈夫よ」
そう言って咲九が岸間を指せば、なるほど。
確かに岸間は審判に何かを話しているように見える。
「でもまさか、岸間さんが残るとは思っても居なかったけど」
「って、お前、岸間を舐めていたのか?」
「そういう訳じゃないわ。むしろ、花菜子が単純馬鹿で助かったわね。本気が出せないと思い込んで本気を出さなかったのだから」
「まさかのハッタリ?!」
「んー、ハッタリってほどでもないわよ? 本気が出しにくいとは遠回しに言ったけど、出せないとは私、一言も言ってないもの。岸間さんは気付いて、後半は本気だったみたいだけどね」
咲九は笑ってそんなことを言っていた。
本当に言い回しが上手い奴だ、なんて素直に思いながら私は座り込む。
だんだんと、建物や結界の修復系だけではなく試合中の魔術が飛んで向かって来るこの空間にも慣れてきていた。
感覚が変になる、という咲九の発言にも今なら納得できる。
「それよりも、今日の試合を棄権した子のことが気になるのよね」
「棄権 …… した奴なんて居たのか?」
「うん。さっき鍵を渡される前に貰ったのだけど、」
そう言って咲九は私に折り畳まれたプリントを渡して来る。
受け取って地図のように広げれば、赤字で『風見 貴・本日棄権』の文字が書かれてあった。どうやらトーナメント発表の前だったらしく、変更されてその相手だっただろう1人だけが優遇されていた(結果は予選敗退のようだが)。
「かざみ ……」
「ふうみ、ね。同じクラスの風見さんの弟よ」
言われた瞬間、私はあの修学旅行のことを思い出していた。
――『私の弟に、〝宮本神社の森〟に行くよう、伝えて欲しいの』
「なあ!」
私はそう言って咲九を見た。
咲九は驚いて私を不思議そうに見ている。
「お前はこの風見の弟と知り合いなのか?」
「え? 何を急に ……」
「良いから答えろ!」
あまりの私の気迫に咲九が仕方なさそうに肩を竦ませる。
「私自身は知らないけど、弟が同じクラスだし、仲良くしてもらっているみたいだし?」
「風見との約束があって、その弟に伝言を頼まれているんだ。だから、」
「今の彼とは会えないよ」
厳しい口調で咲九がそう言い放った。
金色の目で私を睨んでいる。
「というか、絶対に遠音を会わせない。下手すると遠音が殺されるかもしれないから」
「…… は?」
咲九の一言で私は目を丸くしてしまっていた。
「殺される …… って、どういうことだよ?」
「彼は今、体内にかけられた呪詛と戦っているの。その状態の彼が遠音と出会って、普通に会話が出来るとは思えない。下手するとその呪詛に彼が飲み込まれる可能性がある。だから今の彼と遠音を近付ける訳にはいかない。それは彼を助ける為にも、という意味ね」
「呪詛 ……」
思わず身震いした。
咲九は厳しい目のまま、続ける。
「呪詛は心が病んだ時点で飲み込まれ、やがて悪鬼に完全に憑依される厄介な呪い。解除には様々な条件と環境が必要だから、正直難しいわ。でも、私は彼を救いたい。…… この気持ち、解ってもらえるかしら?」
素直に頷いた。
しかし、このまま伝えられないのは困る、と思っていれば、咲九がいつもの笑顔に戻った。
「今、その彼に私から遠回しで伝言なら出来るけど、どうする?」
「というと?」
「ちょっと折り入った事情があって、ね」
咲九がこう言う時は情報屋絡みか、と素直に思って独り納得する。
そして、頷いて答える。
「旅行中に風見がぶっ倒れただろ? あの直前に、何故か麻生らから隠れるようにして、オレに伝言を頼んだみたいなんだ。自分の弟に、宮本神社の森に行ってくれと伝えて欲しいって」
「なるほどね …… 解ったわ」
と、急にそう答えた咲九が私の手を掴んで来た。
驚いていれば、咲九の声がする。
『聞こえていたでしょ? 彼に伝えてもらっていい?』
『面倒だなー』
リュウ様の声だった。
私が目を丸くしていれば、咲九が口元に手を当ててシーッとやっている。
どうやら私は喋ってはいけないらしい。
『つーか、そのくらい、アイツからでも良くね?』
『いや、そもそも彼、学校に通える体じゃないでしょ?』
『あー…… 確かに。でも、説明が色々と …… メンドーだな!』
『面倒、面倒、連呼していないで伝えて頂戴』
『チッ。解ったよ ……』
そう答えたのを最後に、咲九は私から手を離した。
そして喋って良いよ、とばかりに口元の手を何度かパッパッとやっている。
「い、い、今のってテレパシーじゃないのか?!」
使ったらダメだって言っていただろ!?と思いながら咲九に食ってかかった。
が、咲九は平然とモニターを見回している。
「テレパシーみたいなものだけど、そもそも今は会場に転送されても誰も聴こえないわよ」
確かに隅の方には居ても、中央には審判の影すら映り込んでは居ない。
「それに、今のは普段使っているテレパシーとは全く違うモノね。そうね …… 強いて言うなら固定電話と同じよ。ある共通するモノを通じて喋っていたの。でも、これで遠音の伝言は完了したわ」
「いつから電話かけてたんだよ ……」
思わず呆れて呟いたものの、咲九はそれ以上には教えてくれないらしく、ただ失笑されて終わってしまった。
が、これで伝言は終わった。
あまりに時間が経っていただけに慌てたが、会場に変化は無い。
安堵して溜め息をつく。
「なぁ。オレはいつになったら皆みたいに魔法?が使えるようになるんだ?」
「近いうちには使えるわよ。そもそも、もういくつかは使えているじゃない」
「…… 何か使えたっけ?」
「お札を使った除霊に、オーラを目に集めた結界の識別に、テレパシーに金色の目に気休め程度の結界。それは全部、遠音が体で覚えていたことでもあるのよ?」
それだけか、なんて素直に思って失笑した。
咲九は嬉しそうに微笑んでいるが、内心ではもっと大きなことを期待していただけに、残念にしか思えない。
「言っておくけど、ごく自然に状況を弁えて使えるって、本当はとっても凄いことなのよ? 普通は魔力暴走で命を落としたり、状況を把握出来なくて使えなくなってしまったり。まぁそれが一般的なの。だから遠音は、普通の人よりは上手いということ。そもそも、除霊もテレパシーも普通の超能力者じゃ使えないし、ね。むしろ、今の私達の回りが特殊過ぎるのよ」
「変人の集まりみたいなモンだからなぁ」
思わず私が呟けば、咲九はつられて失笑していた。
「一番変な遠音がそれを言っちゃう?」
「おまっ …… それはお前にだけは言われたくないわ!」
こうして私らは笑い合った。




