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059 ⛩ 能力大会・どっちであっても

 紫の本気に唖然としてしまって、私は言葉を出すことも出来なくなっていた。


 どうやら隣の紗穂里も、そして周囲の観客も同じ気持ちではあったらしい。

 ただ茫然と会場を眺めている。


 凄い風圧で舞い上がってしまった砂煙がやっと治まりつつある会場では、1人の審判が黄にポイントが入ったことを伝えているように見えた。


 ところが、それは黄の勝利を示していたらしい。

 ノックアウトされて伸びてしまっている紫が救護班に囲まれていた。

 が、もう1人の審判も、恐らくは風圧でノックアウトしてしまっている。


 黄は平然と、そんな救護班の後ろから紫を覗き込んでいた。


「凄い ……」


 不意に紗穂里がそう呟いた。


 そう言うということは、去年の香穂里の最終試合の比では無かったのだろうと悟る。

 同時に、次の試合で勝利した方の身を案じてしまう。

 まるで化け物だった。


「あんなの相手に、戦ったことなんて無いかも」


 ふとそう思って呟けば、紗穂里は隣で溜め息をついていた。


「あったら怖いって! …… でも、もし紫が敵だったら戦うこともあるのかもしれないデショ?」

「…… 紫が敵とは、思えないのよね」


 本心を言ってしまってから、私達は思わず黙り込む。


 香穂里と紗穂里は紫を敵だと思っている。

 それは黒い仮面の集団が何度も、香穂里の持っている母親の形見を狙っていることの他に、もしかしたら私や紗穂里に能力を使わせるために校内に入り込んだことも関係しているだろうと思う。


 その紫が黒い仮面の集団と関係があることは、花菜子だけではなく咲九も知っていたことだった。


 ただし、咲九の意見は花菜子と違っていた。

 花菜子は紫を現状では敵だと思っているらしいが、咲九は敢えて黙っていたように私には思えた。


 長年の仲から即ち、敵でも味方でも無い、というのが咲九の答えなのではないかと思っている。


 ああ見えて、咲九は敵と判断したら自分から近付いていく。

 そして本当に敵かどうか確認し、敵だと判断したら不可侵条約を結ぶ。


『敵とか、味方とか …… 多分、紫がどっちであっても大した問題ではないのよ』


 私は咲九の行動を思い出しながら紗穂里を見た。

 紗穂里が不思議そうに首を傾げている。


『どういうこと?』

『さっき、食堂で紫が来た時、咲九は問題無いとばかりに席を貸していたでしょ? あの時、何故か解らないけど不思議に思ったのよ。咲九は警戒心が強いけど、思えばいつもの結界を張っていなかった』

『結界を? …… 確かに、2つ足りなかったかも。…… じゃぁ、紫に警戒しなかったってこと?』

『私の推測だけど、咲九にとっては紫も "例の黒い仮面の集団の内の1人" としか見ていないんじゃないかな? そう考えたら、属性神ではない咲九にとっては敵でも味方でも無い "ただの雑魚" 』

『…… つまり?』

『紫が真のボスではない、ということじゃないかな? 恐らく "ただの雑魚" はボスに操られているだけで、本来なら敵では無い可能性があるということよ』

『…… でも "推測" でしょ?』


 キツイ一言が私の胸に突き刺さる。

 紗穂里は私を睨みつけていた。


『憶測とか推測とか …… 確かに先には進めるけど、それが間違っていた時の方がボクは恐ろしいと思う。だから、今は紫を敵と認識しておいた方が自分の身の為だと思うのだけど?』

『それは、そうだけど ……』

『それに属性神の核が狙われている以上、ボクは香穂里を守りたい。香穂里が "炎神" という可能性がある限り、次に進むという選択肢は無いよ』


 私は思わず目を丸くしていた。紗穂里はどこか嫌そうな表情をしている。


『何となくは嫌い。絶対的な根拠が無い限り、先に動いた方が負ける』


 私とは違う考え方だった。

 紗穂里とは解り合えると思っていただけに、少し悲しくなる。


 でも、これが現実。

 相手に無理強い出来ない以上、このことについて話し合っても無駄だと思った私は、それ以上に紗穂里が何も言わない雰囲気だったので打ち切ることにした。



 話し終わった今はもう、それがどっちであっても良かった。


 神様だとか、敵だとか、黒い仮面だとか。

 別に大きな問題ではない気がする。


 問題なのは私達が能力について殆ど知らないということ。

 それに実践不足だということ。


 でも、こればかりは修行するしか方法が無い気はする。


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