057 ☉ 能力大会・後半1戦目 *
食堂で出会ってすぐに、黄という紫の妹が神であることには気付いていた。
美しい橙色の球体の核を持つ黄に、私は震え上がる思いを堪えて試合の様子を見ている。
『紫の妹、完全な神だと思う』
そしてすぐ、向かいの紗穂里にはそう伝えていた。
紗穂里は怪しまれないように黄をチラリと見てから、手元のご飯に視線を戻して答える。
『何でそう思うの?』
『何となく。純粋に、足が震えているから …… 私、相当怖いみたい』
自分が神になったということは、薄々気づいてはいる。
アンクと契約してから、普段は見えなかったモノが見えるようになっていた。
人間に化けている妖怪、魔術を使って泥棒しようとしている超能力者、神器に含まれた魔力の量、などなど。
そしてある日、違和感に思って触れた首元から出てきた、半球体の橙色の塊。
恐らくは、それが神の核なのだと瞬時に悟った。
今もその違和感はあるものの、核のある場所を知られることが妙に怖くて、未だに如月にも聞けてはいない。
神になると相手や神器の核の状態を読み取ることが出来るらしい。
ただし、恐らくは条件が揃わないと難しいらしく、神器の場合はすぐに見られたものの、如月の核はその核の持つオーラですら見ることは出来ていない。
しかし、何故か黄の核は見えている。
『何の神か解る?』
不意に紗穂里が思ってもなかった質問をしてきた。
私はじっくり見ようと心の目を凝らす。
ところが、そのことに気付いたらしい黄がシャッターを閉じてしまった。
平然と食べているように見えたが、どこか怒っているようにも感じられる。
『いや …… 解らなかった。というか、見ていたのがバレたみたい』
『あれまぁ』
『でも、紫の妹ってことは ……』
『属性神の核を狙っているかもしれないし、接触は避けた方が良いね』
『うん』
そんな会話を紗穂里と交わしていた矢先に、同じ選手控室になってしまったのだから少し悲しく感じていた。
とはいえ、黄から接触することも、会話をされることもなく試合は始まった。
紫は防戦一方だったが、黄は早く勝負を決めたいらしく、明らかに紫を責め続けていた。
しかし、紫も相当な結界術を持っているらしい。結界が壊される度に内側に作っていた結界で何とか耐え凌いでいる。
すると、急に間を離した黄が空気中のオーラをかき集めている。
空気中には様々なオーラが混じっていることは知っていたので、私も魔力が足りない時には行うこともあった。
が、今の黄は明らかにオーラが不足している訳ではない。
「紫、避けて!」
慌てて紫に声をかけるが、もう遅い。
今までの何十倍にも膨れ上がった黄のオーラは1つの紫色の球体と成り、それは紫に向けて放たれていた。
紫はあっという間に球体の餌食になる。
しかし、流石は紫というところだろうか。
球体にヒビが入るのが見えた。
そして何故か爆発する。
「っ?!」
破片がこちらにも飛んで来る!と思って身構えたものの、ほぼ目の前に張られていた結界のお陰で当たることは無かった。
驚いて私が結界に触れれば、それが如月の、普段から出しているオーラで構成されていることを知る。
「(流石、音神だわ。こうなることを解っていて張っていたとしか思えない ……)」
なんて思っている間にも、観客方面に飛んで行って結界に当たった壁の破片はバウンドし、すぐに消滅。
観客の悲鳴だけが残っている。
紫は何とか無事だったらしく、目の前に伸ばしている腕を戻していた。
が、審判の1人が手を上げて、ポイントが黄に入ったことを伝えていた。
ポイントが入った直後から30秒間は勝負を続けてもポイントは入らない。
良く見れば紫は今の影響で火傷をしたらしい。痛そうに擦っていた。
が、それだけで傷は綺麗に消えている。
「(一瞬で?! 如月じゃあるまいし)」
前に聞いた話だと、如月の治癒は結界を作り、その結界の中の時間を加速させつつ、その中に治癒専門の妖精を入れるから、ある程度ならものの一瞬で治すことが出来るらしい。
が、その術はあくまでも妖精が応えてくれた時だけしか使えないらしい。
時間を加速させるということは、妖精の時間も当然ながら進んでしまう。
妖精がどれほど生きているのかは知らないが、それでも歳を取ることに変わりはないのだろう。
だから如月自身が治癒の術を使える、ということでは無いらしい。
そもそも、治癒の術は人間ではあり得ないという研究結果が出ている。
部分的な時間の加速や痛覚の緩和ならあり得ても、治癒そのものが出来る訳ではないと言われている。
そんなことを思っている間にも、諦めたらしい紫が先制して黄に突っ込んで行っていた。
その勢いで出来た風が結界にぶつかって振動している。
一瞬、驚いていたらしい黄はそれでも紫の攻撃を両腕に巻いた結界で抑えているように思えた。
だが、紫のそれはダミーだったらしい。
紫は(恐らくオーラの気配を消していた)右足で黄の左足を思い切り蹴っていた。
咄嗟には防御出来なかったのか、黄の体がこちら側の上空に飛んで来る。
『黄はパワーだけやから、空中では何も出来へんやろ!』
不意に紫の声が飛んで来た。
が、その途中で黄がオーラを巨大化させている。
『何も出来ない? 違う。ここならお客さんのオーラを奪える』
―― オーラを奪う?
そんなことは、普通は出来ない。
いや、しかし固有能力ならあり得ることだとすぐに思い直す。
治癒もそんな固有能力ならあり得るかもしれない。
でも、それは今の私が知ってもどうしようもないことだった。
実際に観客からオーラを貰った黄はどんどんオーラを巨大化させている。
しかし、紫も諦めている訳ではないようで、溜めに溜めたオーラを右手に集約させている。
『これで終わり!』 『これが最後!』
ほぼ同時に黄と紫の声がした。
かと思えば、その瞬間を見ることなく凄い風圧が結界すらも貫通して選手控室の中にも入り込んで来る。
あまりの風圧で壁まで飛ばされる、控室で選手の世話をしていた委員会の人までいたくらいだった。
とはいえ、これでも結界で大分軽減されているはず。
去年の私の術に魅入ってしまって大怪我をした審判が居たという体験から、すぐ傍に居ただろう審判の無事を案じてしまったくらいだった。




