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056 ☈ 能力大会・建前と現実①

 会場は既に選手とスタッフの熱気で溢れていた。

 私らは一般生徒だったので2階席の、出入り口からかなり離れた場所の前方に陣取った。


 紗穂の言った通り、ここまではエレベーターではなく階段を使って正解だったらしい。私らの後からは一気に生徒と先生が流れ込んで来ていた。

 もっとも、扉の近くに飲み物とお菓子の自販機がある影響で出入り口付近に陣取る人が多かったが。


 紗穂が進んで奥に来たのは少ないからという理由の他にもあるらしい。


「このあたりは誰にも邪魔されないから良いのデショ」


 紗穂はあっさり答えを教えてくれた。

 宮本が不思議そうに紗穂を見ている。


「そもそも、一番前なら邪魔されない気がするけど ……?」

「そういう邪魔じゃなくて、最終試合だから審判が2人に増やされるデショ? そうなると審判という邪魔が入る確率が上がるけど、この位置なら審判の定位置でもなく、選手の出入り口でも無いから ……」


「あ、最初は羽生さんみたいね」


 紗穂の説明の途中で咲九がそう言った。

 確かに、向こう側の選手口に紫が立っている。


 が、その所為で紗穂は黙ってしまい、宮本は失笑している。


「もう、咲九ったら」

「ん?」


 咲九は理解をしていなかったのか、不思議そうに紗穂を見ている。

 紗穂は諦めた様子で溜め息をついていた。


「如月さんのマイペースには諦めるしかないデショ ……」

「んー …… 何だかごめんね?」


 理解しないまま咲九はそう謝っていた。



 しばらくしてアナウンスが入り、そして司会の女性が選手の紹介をしている。



 しかし、隣に座っている咲九はそれどころでは無かったようで、自分の鞄の中を何やら漁っている。


「どうかしたのか?」


 私の質問に答える間も無く、咲九はやっと探し当てたらしい宝石を取り出していた。


 それを見た私は、その宝石のオーラを感じ取る。

 一度は親父が持って帰って来たことがあったからそれを知っていた。


「魔法石 …… お前、どうやって ……」


 名称は体育館とはいっても、どちらかと言えば闘技場に近い作りの施設だったために、施設の入り口では魔法石や武器の持ち込みが無いかは一通り調べられたはずだった。機器にも引っ掛かるように出来ていたはず。

 なのに、咲九は平然とそれを取り出している。


『こういう時に便利なモノを持っているのよ』


 不意に咲九はそう言って私に咲九の手帳を渡してきた。


 私が開けば、そこには1枚の紙が挟まれてある。

 が、その紙の文字は読めなかった。

 英語や仏語とも異なる象形文字に印鑑が押されてある。


『これは、何だ?』

『これを見せて軽く説明するだけで特別席が用意されている権利証、と思えば良いわ』


 そう答えた咲九は、私の脇を突いたかと思えば低めに腰を上げている。

 どうやら付いて来いと言われたようだったので、私も渋々、立ち上がる。


 千尋と紗穂が不思議そうに私らを見たことに気付いた咲九が口を開く。


「ちょっと用事があるから出るね」


 小声で2人にそう言った咲九は、早くも通路に出ようとしている。

 なので、私も慌ててその後に続いた。


 ちなみに毎度のことなのか、宮本が何か事情を知っているらしく、またか、という表情で手を振っていた気がした。



 1階に降りた咲九は歩いて会場を一度出る。

 やがて選手用の入り口で待機した。


 しばらくすると、そこから如何にも偉そうな女性が出て来る。

 どこぞのシスターなのか、修道女の服装だった。


 咲九がその手帳を見せて説明すると、一瞬にして女性の表情がやんわりと変化した。

 女性は何かしら咲九に説明をした後で、1本の金色の鍵を渡す。


 それを持って咲九が、距離を置いていた私の所に戻って来る。


「遠音も良いって許可もらったから」

「いやいやいや …… お前、何する気だよ?」

「説明すると長くなるのだけど …… 試合、見たいでしょ? とりあえず向かいながら説明するわね」


 そう言った咲九は、闘技場とは逆の方面に既に歩き始めていた。



 今回の大会に山田が参加することは、咲九が事前に学園の理事長に説明をして、学園から国際超能力委員会という、この大会を許可してくれている委員会に伝わっていた。

 前の学校でも様々な傷害事件を起こしていた山田らしかったので、当然ながら委員会は厳重なる結界を用意しなければならないと思っていたらしい。


 が、今回の参加者の中には岸間も居る。

 過去に岸間が魔力暴走を起こした際は、人知れず委員会の数人が命を落としているらしい。

 そのため、手帳の権利を使って更に頑丈な結界を張ろうということらしい。


「そのために遠音を連れてきたのだけどね」


 そう言った咲九は、既にその特別席の入口に来ていたらしい。

 先程の金色の鍵を差して、ドアを開く。


 すると、そこにはただの真っ白い空間が広がっていた。


「何でオレ ……?」

「その内、嫌でも解るわよ」


 咲九はそう答えつつも、私を中に招き入れてドアを閉める。

 暗くなるかと思ったが、然程暗くは感じられなかった。


 咲九は徐に、もう1つ取り付けられていたドアノブに内側から鍵を差し込んでいる。


 すると不思議なことに、一瞬にして空間に会場の様子がプラネタリウムのような部屋一面に映しだされていた。


「なっ?!」


 あまりに驚き過ぎて私は周囲を見回す。


 まるでそこは会場の中央に立たされているようだった。


 遠くには紫の姿がある。

 反対側を見れば、既にこちらに等身大 …… よりは若干小さめの、半透明の黄が近付いてきていた。


 が、本人達からは私が見えていないらしい。

 黄は私を通り抜け、会場がどのくらいの大きさなのか確認をしている。


「なっ ……」

「驚いた?」


 咲九はそう言って笑っている。


「最新の魔術と技術で3D投影しているのよ。でも、ここに長く居続けると、感覚がおかしくなるのでしょうね。ここから出て、自分の身に危険が迫った時に反応が若干だけど遅れるの。だからあまり好きにはなれないのだけど …… 会場にこれがあって助かったわ」


 そう言って咲九は中央で魔法石を上空に放り投げる。

 魔法石はまるで意思を持っているかのように綺麗な弧を描き、指定位置に舞い降りた。


 若干の長方形らしく、四方の隅に各2個ずつ。

 その間くらいに1個ずつ。

 ただ、大きめのは2個で1個の役目を担えるようで、1個の箇所もある。


「結界は、基本的に自分を中心に置いて発動させた方が強固なの。つまり、観客席に花菜子の魔法を届かせない為には、まずは会場の中心付近で客席付近に結界を張らなければいけないのよ。でも、実際にそんな場所に立っていたら私の身が危険でしょ? そこで、代わりにこの施設を利用して結界を張って、その力だけを魔法石を通して会場に転送するの。委員会の人達は、通常は四方に1人ずつ、合計4人で会場を守るみたいだけど」

「そんな難しそうなことに、オレも参加しろと言うのか?!」

「いや、そこは要らない」


 咲九はそう答えながらも、着々と結界を作る準備をしているらしい。


 ちなみに、先程の修道士のような恰好の人らが2人1組で、咲九が放った魔法石の近くに移動している姿は見えている。

 向こう側にも受信用の魔法石を置いているのかもしれない。


「遠音の場合は、ここで観戦していれば良いわ。遠音には私の近くにいてくれたらそれで良い」

「…… それだけ?」

「うん。それ以外には何も求めて無いわ」


 予想外ではあったものの、ここに居るだけで良いのなら、確かに悪くは無い場所だろうと思えた。


 ここから試合を見れば、審判よりもかなり間近で見られることになる。

 臨場感は観客席よりも倍増。

 内心ではワクワクしている。


 とはいえ、それだけでは私を呼んだ意図までは解らない。


「にしても、何でオレ? 結界なら宮本の方が良かったんじゃ?」

「第一試合で負けたとはいえ、試合に出た後のちっひーから魔力を借りれる?」

「なるほど。魔力ってのは、すぐには戻せない感じなのか」


 思わず呟いたが、咲九は失笑している。

 もっとも、私らが立ち上がった時の宮本がすぐに理解を示していたのは、今の私のように経験したことがあった為だと思われた。


「ちなみにお手洗いはあっち …… 今、岸間さんが座っているあたりの右側にあるし、給湯室もそこにあるはずよ」

「おいおい …… じゃぁ何でここ、一般に解放しないんだ?」


 そんな便利な場所を利用しない手はないはず、何て思っていたら咲九は頭を横に振った。


「良く考えてみて。ここで私が結界を、魔法石を通して転送出来るということは?」

「もしかして、ここでの攻撃技まで転送出来る …… のか?」


 確かに、そんなことが出来るのであれば大問題になる。

 咲九は頷いて、早速結界を張り始めている。


「あと、ここでテレパシーを含む、魔力を使った術を使ったら強制的に転送されちゃうから気を付けてね。自分への結界程度なら、今の遠音ならそこまで影響はないと思うけど」

「何だと ……」


 言いかけた私を他所に咲九が黄を見る。


「本当は2人の試合の直前に動けば良いと思っていたのだけど、」


 今にも黄と紫の試合が始まりそうな気配を漂わせていた。


「彼女、私の予想が正しければ、恐らく最初から全力で紫を倒しにかかると思うの。彼女のオーラの量を見て、もしかしたら花菜子よりも酷いことになるかもしれない、と思っちゃったのよね」

「それって、強いってことじゃ ……」

「強いとは限らないわ」


 あっさり答えて咲九は結界を強固なモノにしている。

 既に壁際まで結界の半球体が広がっていた。


「どんなにオーラの量が多くても、それを応用する術を知らなければ普通の超能力者と同じよ。でも、普通の超能力者より耐久度は高いわね。それだけのオーラを纏っているということだから」

「??」

「それに、彼女は完全な核を持っている」


 さりげなく呟いた咲九の一言に驚けば、試合を始める銃声が鳴り響いていた。


 瞬間、黄が巨大な紫色のオーラを右手に集結させて紫に殴りかかろうとしている。

 紫は避けられないと思ったらしく、結界と両腕でその黄のパンチを軽減している。


「今、何て言った?」


 思わず咲九に訊ね返していた。

 咲九は黙ったまま2人の試合を不安そうに見つめている。


「完全な核って …… それって ……」


 ―― 黄も神ということ。


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