053 ☉ 能力大会・昼食① *
順調に勝ち進んだ私は、迎えに来てくれた紗穂里と一緒に大食堂に向かった。
普段は中学生の利用は禁止されていたものの、授業が無い土日と祭日だけは(食堂の売り上げが悪い所為か)先生方にも黙認されている。
すると、既に窓際の景色が堪能出来る場所に永瀬と如月が座っていた。
紗穂里がその席に向かうから私も向かう。
「もう体調は大丈夫?」
紗穂里の永瀬への発言から、永瀬が体調不良だったのだと悟った。
恐らく一緒に来た如月が看病をしていたのだろうと思って少しだけ妬みそうになったものの、永瀬が信頼をしているのは如月しか居ないのだろう、とどこかで認めて言葉を飲み込んだ。
「あぁ、まぁ …… どうにか」
永瀬の曖昧な返事でも紗穂里は安堵したようで、鞄を永瀬の隣の席に置くなり、昼食を選びに行こうと誘われた。
それに習って私も如月の隣に置いて席を離れる。
しばらくして席に戻れば、私の椅子の隣に違う鞄が置かれてあった。
どうやら紗穂里の隣にも置かれてあるようで、先に気付いた紗穂里が如月に訊ねる。
「誰か来たんデショ?」
「あぁ、千尋と花菜子だよ」
如月はそう答えつつ、持参したらしいお弁当の包みを弄って遊んでいた。
次第に食堂は混み始めていたようで、他のグループの試合も終わったのだと感じた。
この大会は学園に無関係の一般の人でも身分証があれば入れることになっているためか、毎年かなりの数の観客で賑わいを見せてくれる。
とはいえ、一般で人気があるのは白熱する男子校側なので、女子校側は専ら両親や親戚ということの方が多い。
中学1年生の時の大会は、他の子と同じようにパパも見に来てくれていた。
だけどその時は3位に食い込むことしか出来なくて、帰宅してからパパに散々怒られたことを不意に思い出す。
でも、紗穂里とご飯を一緒に食べた記憶もある。
―― あれ? でも、パパと食べた気もするような ……
「えらい仰山おるなぁ」
思い出に浸っていたら山田の一言で壊された。
私が振り返ると、そこには千尋と山田が御盆を持って立っている。
いつの間にか座って食べ始めていた紗穂里が顔を上げて、頭だけで軽く2人に会釈していた。
「何や、もう食っとるんかい」
山田はそう言って、紗穂里が適当に放置した鞄を立て、自らの鞄を隣に置いてから座った。
そのすぐ後に私の隣に千尋が来る。
「隣、良い?」
「え? あぁ、どうぞ」
一瞬、何を言われたのか解らなくて驚いたものの、すぐに私も自分の席に着いた。
良く見回してみれば、食堂の席は大半が埋まっていたり、鞄が置かれてあったりしていた。
このことから、永瀬と如月が確保していたテーブルに知り合いが集まって来ることはごく自然な流れだと思い直す。
永瀬以外のご飯が揃ったところで、私らは食事を始めた(一部は再開だったが)。
如月がお弁当ということに違和感は無かったものの、その中身がただの海苔弁一色というところで私は笑ってしまっていた。
が、如月も、そんな私らを見ていた千尋も失笑している。
「咲九のお弁当、珍しく海苔だけとか ……」
「作ってもらっている立場だから文句は言えないけどねー」
如月はそう答えつつも、どこか仕方なさそうに食べ始めた。
なので気になって訊ねる。
「誰が作ってくれているの?」
「弟だよ?」
「神主さんの方じゃ無かったのか ……!」
「千尋にも言っていなかったっけ?」
千尋の呟きに答えた如月は周囲を見回して、しかしすぐにお弁当に視線を落とした。
「本人が居たら紹介したのだけど、まぁ女子校側の食堂には絶対に来ないわよね」
「この学校?」
「うん。風見さんの弟さんと同じクラスで仲良くしてもらっているみたい」
紗穂里の質問に答えた如月は手元にあった紙コップのお茶を飲んでいた。
予想もしていなかった人物の名前があがったことに驚いたが、それはどうやら紗穂里も同じ気持ちだったらしい。
「そう言えば、お姉さん達の結果はどうだったの?」
如月は逆に私らにそう訊ねてきた。
ということは、今は他人の心の声は聞こえていないらしい。
この答えには山田が即行、左手でグッジョブと表示していた。
「もちろん、香穂里も決勝戦進出デショ!」
途中から見に来てくれていたらしい紗穂里が私の代理で返答してくれていた。
が、千尋だけは浮かない表情をしている。
「私の所は紫に持って行かれちゃったかなぁ」
「言った通り、強かったでしょ?」
私の一言に千尋は頷き返していた。
山田がふーんとばかりに適当に流す中、如月が何かに気付いて振り返る。
「噂をすれば何とやら ……」
「ご一緒しても良い?」
不意にテーブルの脇に紫が現れた。
その斜め後ろにはもう1人、桃色の三つ編みをした女の子が立っている。
その女の子は私らに頭を軽く下げていた。
黒い仮面や修学旅行の一件による私と紗穂里の睨みとは裏腹に、如月が笑顔で、
「どうぞ」
と答えている。
もっとも、席を取っていたのは如月だったので決定権は如月にあるし、便乗しているのは私らも同じなので否定は出来ない。
ましてや、紫は敵対されていると理解していない可能性もあったので、下手に無視は出来ないだろうなと思っていた。
「あ、こっちはウチの妹の、」
「羽生 黄です。いつも姉がお世話になっています」
そう言った黄は、あまり迷う様子も無く山田の隣を選んでいた。
千尋は何て思っているのか解らなかったものの、そんな千尋の隣に紫が御盆を置く。
「席が埋まることは解っていたけど、初参加で初めて食堂を利用する妹を放ってはおけなくて。迎えに行ったら、まぁ、この有様で」
いつの間にか食堂の席はほぼ満席になっていた。所々、1人くらいは空いているようには思える。
だけど、確かにバラバラになって食べることにはなりそうだった。
そう考えたら、同じクラスの山田に私らの繋がりで紫がここにやって来てもおかしくは無い。
「そうだ、花菜子、」
不意に紫が鞄の中から1冊の本を取り出し、山田に渡した。
山田はそれだけで理解したらしく本を受け取っている。
「結構おもろかったわ」
「 "えまてん" デショ!」
そう言ったのは何故か紗穂里だった。
流石に本のこと ―― 紗穂里が食い付かないはずは無かった。
そういう私も、"えまてん" は有名だから良く知っている。
が、裏表紙を見ただけで解るとは流石というべきか。
「『閻魔転生』かー。元はゲームだよね?」
「そや。紫がおもろい本を探しとったから貸したんよ」
「大元はゲームなのかぁ」
山田の返答に紫の呟き。
更には千尋も思い出したように口を挟む。
「今度、そのキャラのコス写真撮る予定だった気が ……」
「えっ、何やるの?」
「 "天野雪子" …… あぁ、丁度、この表紙になっている、髪の長いキャラね」
「一番人気があるキャラじゃん! それだけ千尋が認められている証拠じゃん! 羨ましい!」
「そうなんだ? 曲は知っていたけど、どういうキャラか解ってはいなかったかも」
「勿体ない! ここは是非ゲームをオススメするよ!」
「キャラの雰囲気だけなら小説より漫画がオススメデショ! 学校には持って来られないけど」
「ふーん」
「ゲームは時間、忘れるんよね」
なんて会話で私らは盛り上がる。
大人しそうな黄はただ話しを聞いているだけで参加はしてこない。
永瀬はどこか落ち込んでいるらしく溜め息ばかりついている。
如月はボケーとしながらも、私らの会話は耳に入れているようだった。
26.3.29改修:香穂里の「遠音→永瀬」呼びへ変更




