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050 ☈ 能力大会・遠音の覚醒

 こんなことになる前の、家を出る前の話し。


 学校に行く準備をしていた私は、丁度母さんが帰って来たことに気が付いた。

 普段なら私が家を出てから帰宅するのに、今日は珍しく早い。


 そんな母さんは、どこかで買って来たらしい荷物を奥に運ぼうとしていた。


 その途中、洗面所の鏡越しに顔を合わせる。


おかえり(おあえい)


 歯を磨いていた所為でそうなってしまったが、通じたのか母さんは返事をしてすぐに奥に行ってしまった。


 ある程度で歯磨きを終わらせている最中に、荷物の一部を冷蔵庫に入れ終えた母さんが洗面所にやって来る。


「久々に、()()()にしてあげようか?」


 酒臭いが、どうやらご機嫌らしい。


 しかし、もうそのくらいなら自分でも出来るわ!なんて心の中でツッコミを入れた為か、口の中に含んでいた歯磨き粉と水を飲み込みそうになる。

 少し鼻に逆流した気もするが …… そこは気にせず吐き出してから答えた。


「いや …… 良いよ。というか、今日は授業じゃないから、多少なら適当でも、大丈夫だし」


 そう答えて洗面所から撤退した。

 母さんは機嫌が相当良かったらしく、リビングで芸能ニュースに目を止めていた私に、すれ違いで使い始めた洗面所から声をかけて来る。


「そう言えば、仲良くなった子とはどうなの?」

「どうなの?って …… いや、普通だよ、普通」


 そう答えつつ、私は母さんが買って来てくれたらしい飲み物の中から今日の飲み物を選んでいる。


「仲良く出来ているの?」

「んー …… まぁ、色々と教えてもらっているかな」

「どんなことを?」


 そこまで聞かれることが珍しかったことに加え、心のどこかではやはり、母さんと話したい思いが強かったらしい。


 つい、嬉しくなって話し出す。


「…… いやぁさ、」


 そう言って私はペットボトル1本を取り出し、母さんに見せた。

 一瞬だけ振り返った母さんが手で『持って行けば』という風にやってくれたので、問題無く、リビングの椅子の上に置いてあった鞄の中に滑り込ませる。


「前に親父が、美島の超人の話ししてたじゃん? そいつ、その美島の超人らしくって。まぁ、そういう系統の話しとか……そのあたりのことを教えてもらっているんだけどさ」


「…… 遠音、」


 やけに静かな声が母さんから発せられていた。


 続きを話そうとしつつ、不思議に思って洗面所を覗き込む。


 すると、母さんは私の方に1つの手鏡を伸ばしていた。


 面倒だな、と思いつつも歩いてその手鏡を受け取りに行く。


 何てことはない、母さんが普段使っている手鏡だった。


 だけど、母さんは私の持っている柄の方を指している。

 その通りに柄を見ても、何も無かった。


 すると、今度は裏っ返せと何故か行動で示される。


「…… 母さん?」


 何だ何だ?と疑問に思いつつも手鏡をひっくり返して柄を見た。


 そして、私は目を丸くさせる。


 そこには "如月 琴音" の文字が入っていた。

 琴音は母さんの名前だが、その上は如月になっている。


「…… え? ということは、」

「母さんの結婚する前の名前よ。そして今、如月の名前を継いでいるのは、世界中で私の母さんのお姉さんの娘 …… つまり、私の従妹しか居ないの」


 この瞬間、今までの謎の全てが繋がった気がした。



 咲九は如月の名前を継いでいる者で、私もその如月の血筋だったから、咲九は私のことを知っていた。

 過去に私は祖母の元で暮らしていたし、咲九も事情があって私の祖母の所に身を寄せていた、と言っていた。


 きっと、あの森で咲九は幼い私と出会っていたのだろう。

 森の記憶は、薄らとだったが残っている。


 となると、白いピアノを送ったのは咲九の祖母と私の祖母で、それはあの森の守護神の魔力を蓄えておくためだった。

 即ち、それは私の祖母が森の守護神だったということ。


 私は祖母から守護神の証しでもある "何か" を受け取ってしまっているのだろう。

 だから咲九は事情を知っていても守護神では無いから、本来の守護神である私に森の現状を見せたかった。


「やっぱり、(私の)母さんが選んだのは遠音だったのね」


 諦めた様子で母さんがそう呟いたので首を傾げれば、私の持っていた手鏡を取って、私にその鏡を見せてきた。


 そこには普段通りの私の顔では無く、金色の目をした私の顔が映されていた。


 驚いて目を擦っても、その金色の目だけは治りそうにも無い。


「ちょっと待ってくれ! 母さん! 何でオレがアイツと同じ目を持っているんだよ?!」


 ―― 金色の目は、神様の証し。


「いやいや、そもそも、何でこのことを知っていて今まで黙っていたんだよ?!」




 ――『家族の畏怖は、神童を悪に染め上げる』


 記憶の奥底に居たばあちゃんが、過去に何度も私に言っていた言葉だった。

 そのばあちゃんが悲しそうな金色の目で真っ直ぐに私を見つめている。


『だから遠音、お前は今日から平常心を保たねばならない。

 それ故の記憶の封印であって、決してお前が憎くて施す訳ではない。

 お前はもう少し、大人になりなさい。

 それまでは、私の残りの魔力でお前の大好きなこの地は守ってやる。

 安心しろ。ここはもう、お前の場所モノだ』




 私の周囲を漂っていたオーラが、不意に黄色に変化するのを感じた。


 ゆっくり目を開けて、しっかりと母さんの方を見る。


 だけど、その途中にあった手鏡には、私のオーラの所為でヒビが入ってしまっていた。

 母さんは力なく手鏡を下げる。


 母さんはただただ、ごめんと言って泣いていた。




 私の記憶が封じられたのは、母さんの私への畏怖が解けなかったから。


 その時の記憶は無い。


 でも、母さんはきっと私の能力を知って畏怖してしまったのだと思う。

 だから育児放棄をした。


 その能力を知った祖母が私を引き取った時に、母さんは私が祖母の後を継ぐことになるだろうと思っていた。


 そして案の定、私は祖母の森の守護神の核を譲り受けた。


 ところが、その時には既に母さんの畏怖を感じ取ってしまっていた私は悪神へと堕転しそうになって、それを祖母が全力で私の記憶ごと封印を施した。


 でも、その時には既に守護神は私だったので、私の意思で譲らない限りは守護神を変えることは出来なかった。

 だから祖母は学園に寄付した白いピアノに残りの魔力を注いで亡くなった。


 恐らく祖母に頼まれて、咲九はリュウ様と蓮と一緒にあの森の治安を守っていたのだと思う。




 全てを走馬灯のように思い出した私は、あの時とは違う温かさに包まれていた。


 黒い結界の時に感じていた堕転は本当に怖かったし、冷たい所に堕ちて行く感覚があった。


 当時の私は、何度も母さんを恨んだ。

 母さんを殺せば一緒に居られると思ったこともあった。


 でも、今なら解る。

 母さんが畏怖していたのは当たり前ではないかと思う。


 あの森での咲九に憑依された経験は、明らかに私の感覚を鈍らせてはいた。


 ただし、悪鬼の恐怖だけは今でもすぐに思い出せる。

 その恐怖を常に子供から感じていたらどうだろう。

 それは育児放棄もしたくはなるだろう。


 でも今、その畏怖と戦っているのは母さんだ。

 母さんは私に勇気を出して少なからず話してくれたではないか。



 ―― 母さんを安心させるためにも、この溢れ出るオーラを抑えなければ。



 私はあの森で咲九がやっていたことを思い出し、真似てみる。


 咲九ほど上手くはいかないものの、少なからずオーラの量を抑えることは出来た。


 一度目を閉じて、咲九に憑依されていた時の感覚を思い出す。


 オーラを抑えて、目頭の熱いモノを飲み込んで、目をゆっくりと開ける。

 それは涙を我慢することに似ていた。


「母さんは、末期のガンに侵されていたの」


 不意に話し始めた母さんの言葉に、私は少し目を丸くさせてしまった。

 母さんは既に涙を拭って、泣くのを止めている。


「それまでに次の守護神を見つけなければならなくて、その間に如月さんを見つけたみたい。でも、訳があって如月さんは守護神に成れなかった。そもそも、あの森には守護神が2人必要だったらしいの」

「2人?」

「悪森の土地守神と、神社の方の守護神よ」


 神社の方にも守護神が必要と言われて、すぐにリュウ様を思い出していた。

 そう言えば、咲九がリュウ様のことを神主とか、神社の土地は隔離されている、的なことを言っていた気がする。


「だから遠音のことを母さんが引き取った後で、気付いて後悔したわ。でも、普通に戻って来た遠音は何事も無かったように生活をしていて …… てっきり如月さんに引き継いだのだと」

「如月曰くオレが守護神らしいけど、それまではばあちゃんの残した魔力で森を守ってくれていたらしい」

「なるほど。母さんなら出来るかも知れないわね」


 あっさり納得した母さんが残りの涙をティッシュで拭きながら頷いていた。

 そして腕時計を見る。


「そういえばアンタ、学校行く時間は?」

「…… え?」


 急に現実に戻されて、私は母さんの時計を覗き込んだ。そして顔を真っ青にさせて叫ぶ。


「もっと早く教えてくれええぇぇぇぇぇ!!」




 駅のホームで待ち合わせをしていた私は、そこにまだ咲九がいたことで安堵した。

 しかし、そんな咲九が私の目を指して訊ねる。


「抑えられない?」


 その一言で悟り、私は慌てて目を閉じた。

 また金色になってしまっていたらしいが、人が多い所為か集中しにくい。


 すると、咲九が私の左手を握ってきた。

 驚いて目を開ければ、その瞬間に目元の熱が引いて行くことに気付く。


「あ、あれ ……?」

「ホント、コントロールが下手なのは変わらないのだから」


 そう言った咲九は来た電車の方に私を引っ張っていた。

 そう ―― 昔にも咲九にこうやって助けられたことがあった気がする。


「でもまぁ、自力で鍵が開けられたみたいで良かったわ」


 その一言で咲九が私の変化に気付いたのだと解り、同時に赤面する。


「恥ずかしがっている場合じゃないでしょ」


 呆れた様子で咲九は電車を指している。

 既に出発の合図がホームに鳴り響いていた。


 なので私も咲九に引っ張られるがまま、慌てて電車に乗り込んだ。


車掌「駆け込み乗車はおやめください」

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