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さくらは善か悪か(仮)・輪廻篇  作者: 葉月雷音
休暇の過ごし方
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045 ☈ 休暇の過ごし方⑦

 悪鬼に取り憑かれて殺された体は、骨すら残らずに真っ黒の砂と化すらしい。

 その砂のことを、元の体に戻った咲九は "死の証し" と呼んでいた。


 猫の妖怪だったサーニャの死の証しを集めたアコは、皆を代表して川に流してくると言っていた。


「ちなみに、アコはこの森の近くの神社に住む狛犬の妖怪ね。全く同じ顔立ちだけど、体格の違う弟がウンシという名前だから誰も名前では呼ばないのよ。通称が "アコの相方"」

「…… あ、大便と混ざるからか」


 何て答えつつも、私はジャンプをしてみている。

 しかし、既に咲九の憑依が解けた今、いつも通りのジャンプしか出来ないでいる。


 溜め息をつきつつ、大きな切り株に座る咲九の隣に座って訊ねた。


「皆で打ち上げとか言っていた気がしたんだが ……」

「言わずとも、今回は無しになるわね。あまりに被害が過ぎるわ」


 咲九はそう答えたので残念に思いつつも、咲九と共にその目の前の惨状を見つめる。


 アコが言っていた他にも被害はあったらしい。

 様々な妖怪が様々な死体を悲しそうな表情で広場に運んでいた。



 結局はリュウ様の覚醒した能力で周囲の悪霊諸共、悪鬼に進化したサーニャを無事に倒し終えたものの、咲九がブレスレットを元の形に直してリュウ様に装着すればリュウ様は転倒してしまうし、蓮は魔力を空にしてしまったらしく咲九の凄く硬い結界の中で眠ってしまっていた。


 しかも、リュウ様が倒したのは悪霊をまだ祓える段階の妖怪を含んでいたらしい。

 咲九曰く、悪鬼なら死体は残らないものの、悪霊では憑き方が浅い為に死体が中途半端な状態で残ってしまうのだという。


 故に、運ばれて来る死体の中には、明らかに頭が無かったり、不自然な胴体だけだったりしている。


 ただし、あの天狗よりマシだったことと言えば、あの青い血が全く出ていないことだった。

 この点だけは凄く有難かった。


「何、有難いとか思っているのよ」


 咲九にそうツッコミを入れられて私は黙り込む。


 解ってはいる、つもりだった。

 それでも、妖怪相手に同情して悲しむことはまだ出来なかった。


 今だって咲九が居るから一緒に居られるだけで、私独りだけここに残されるようなことがあれば恐怖心から居ても立ってもいられないと思う。


「でも、まだ安心はしないでね。森の中の全ての悪霊と悪鬼が死んだ訳じゃないから」


 咲九は表情一つ変えずに淡々と話し出す。


「中には結界を抜けて逃げ出した悪鬼も多いはずよ」

「あの迷宮結界を、か?」


 私の驚きに咲九は平然と答える。


「そうよ。そもそも、悪霊や悪鬼にとって迷宮結界があることは問題無いの。だってこの地域の結界は地界の〝生物の悪しき心〟を受け付けないというだけで、特殊な生物区分にされている悪霊や悪鬼などの "憑依された悪" そのものには対応出来ないのだから」

「そうなのか」


 とは答えても理解は出来ていない。


「じゃぁ、如月があれよりもデカイ結界を作って、全てを弾いてしまえば良いんじゃないのか?」

「そうね。でも、結界は範囲が大きいとどうしても薄くなってしまうの。それで1匹にでも凶悪な悪鬼に結界を破られたら、それまで足止めを食らっていた悪鬼が一気に流れ込んで来て …… それこそ大変なことになるわ」

「結果的には無理なのか」

「命を懸ければ作れるかもしれないけど、元々は私の森ではないもの」


 そう言った咲九は少し悲しそうな表情をしていた。


「この森を含めて、点在する森のことを "悪森" と呼ばれているの。悪霊や悪鬼が集まるくらいに美しい自然が残っているから "悪森"。

 そこには森を守る "土地守神" …… まぁ所謂、守護神が居るのよ。守護神と言っても、まだ神では無い場合が多いのだけど。

 でも、その守護神が消えた森は人間による開拓や地域開発によって人里と化してきた。

 この森が残っていたのは、先代の守護神が沢山の魔力を残してくれていたために、その魔力が、死んだ守護神の代理としてこの森を守ってくれていたからなの。

 もっとも、この森の場合は、美島市を含む千波県が妖怪保護区みたいにされている影響もあるけど」


「…… でも、オレが守護神だとか言って無かったか?」

「守護神は "受継がれるモノ" だから、今のその受継がれたモノを遠音が持っている、ということよ。もちろん、遠音は何も知らない。それは遠音が失った過去に受継がれたモノなのだから」


 つまり、咲九が私の過去を知っている事は間違いないことらしい。

 しかし、今の私にとっては守護神だと言われても、そもそもこの森が無ければならない理由を知らないし、まして無くても良いのではないかと思っている。


 だから、どうして咲九が森を守ろうとしているのか理解出来なかった。


「森が必要な理由は解るか?」


 不意に声がして振り返れば、驚くことにリュウ様が立っていた。

 リュウ様の面倒を見ていたはずの妖精が何やら白い光を放って傍に付いている。


 起きてすぐにここに来たのか、妖精が心配そうにリュウ様を見つめていた。

 咲九はリュウ様を振り返ることもなく私の答えを待っている。


 解らない私はそのまま黙り込んだ。


 しばらくして答えを捻り出す。


「動物を人間から守って、悪霊を人間から離すため …… とか?」

「それも強ち、間違いではないけどね」


 咲九はそう答えて失笑する。


「森は新しい神を生むの。神は人間を守り、悪霊を祓ってくれるから必要なのよ。徳が高くなった神は天界に向かってしまうけど、そうしたらまた新しい神が生まれれば良い」

「その森が不足したら、地界の神はどんどん少なくなるだろ? 実際、都内は既に森が消えつつある。それなのに、都内に引っ越す人口は増え続けている。それに伴って人間の願いの数は増えてゆく。すると、叶わない確率が増えて神への信仰心が無くなっていく。信仰心が少なくなれば、神ではない守護神はいつまでも神に昇格できず、しかも叶わない願いだけが溜まっていく ……」

「神にもストレスはあるから、それで一気に悪鬼に堕転してしまう場合があるのよ」


 リュウ様の説明の後に付け加えた咲九は、そう言ってから溜め息をついていた。


「神が悪鬼に堕転したら、それを悪鬼と呼ばずに悪神と呼んで区別しているわ。悪鬼の憑依の時点で既に祓える状態では無いの。それを誰も気付かず放置した結果が、一国が滅びた "悪魔の部屋" 事件」


 事件のことは小学校の授業の一環で調べたことがあったから知っている。


 何でも帝王が信仰心を集めた神童だったらしい。

 しかし、ある年のクリスマスイブの夜に帝王が悪魔と秘密裏に契約。しかも、農作物の不況で信仰心が下がっていたところに契約のことが公になり、信仰心が無くなった国民のデモで帝王の怒りが爆発したらしい。その一晩にして一国の何もかもが消えていたと伝え聞く。

 その後の調べで帝王が悪鬼と化していたことが判明して、この国でも大々的なオカルト・ニュースになっていた。


 もっとも、詳しく調べていなければ今までの話しを理解すら出来ていなかったと思われる。


「国王は既に神だったけど、本人も国民も気付いて居なかったのよ。その結果、国王に魔が差した時に悪魔と偽った悪鬼が契約をしに来た。そして結果的に悪神と化した国王 ……」

「これは国王が200年くらい生きていた為の特殊な例だが、もしも過去のお前が守護神になってすぐに堕転する可能性があったとしたら?」


 リュウ様の質問の意図に私は目を丸くする。

 そして、咲九を見た。


 咲九は表情に影を落としている。


 つまり、幼い私は既に守護神で堕転する可能性があった。

 だから守護神としての記憶を、つまり過去の記憶を咲九、もしくはリュウ様によって封じられたのではないか。


「…… は、はは ……」


 私は失笑していた。

 何てことだ …… 咲九が私を巻き込む以前から、私は咲九の世界に巻き込まれていたらしい。

 そういうことだとしたら、咲九が私を知っているのは当然なのだろう。


 どうして咲九が私を気にかけているのか、やっと理由が解った気がした。


「本当は見守っていようと思ったのだけど、先代の守護神の残した魔力が底を尽きそうだということが解ったの。校内にあった白いピアノを覚えている?」

「あぁ。…… って、まさかあの白いピアノが?」

「そう。先代の守護神が魔力を蓄えるために選んだ器なの。あの部屋には結界が張ってあったと言ったでしょ? あの結界はこの森の結界と同じように出来ているのよ。今まであの部屋が秘密に出来たのは、あの結界が呪われた部屋だとわざと印象付けて誰にも取り壊されないようにしていたからなの」


 咲九はそう言いながら私の背中に軽く寄り掛かって来る。

 岸間と違って嫌な感じはしなかったので、そのまま寄り掛からせてやった。


「でも、あのピアノって、確か如月のばあちゃんが ……」


 白いピアノの底には "如月" の文字が入っていたはず。

 咲九は声に出してうふふと笑っていた。


「ここから先は言えないなぁ~。ね? 厳ちゃん」


 パッと背中が離れて行ったので振り返れば、リュウ様の隣に咲九が立っていた。

 リュウ様が悪い、という表情で私を見つめている。


 私は徐々に頭に血が上るのを感じた。


「な、な、なっ……?! そこまで言っておいて続きは言えないとか、そりゃないだろ?!」

「だって厳ちゃんが魔力を使えない今、この場で堕転されても困るもの!」


 咲九はそう答えてリュウ様の後ろに隠れていた。

 リュウ様が溜め息をついている。


「さっきコイツに憑依されたことでアンタの記憶の封印が大分解けたから今の話しが出来たんだ。これ以上は俺らじゃ手伝えない。アンタ自身が自力で鍵になる "単語" を探すんだな」

「鍵になる "単語"?」


 そう呟けば、確かに今日聞いたばかりなのに、すんなり理解出来た単語はかなり多かった気がする。何故か脳内で漢字にも変換出来ていた。


「そうそう、」


 咲九はそう言ってから、目を閉じる。


『テレパシー、使ってみて』


 私は咲九を真似て目を閉じた。


 意識を脳天に集中させる。

 そして、憑依中の咲九のイメージを思い浮かべながら思いを脳天に放つ。


『お・な・か・す・い・た』



 しばしの沈黙。



 目を開けてドヤッとばかりに胸を張る。

 が、リュウ様は私を冷やかな目で見つめ、咲九は不思議そうに首を傾げている。


「…… な、何かツッコミを入れておくれよう!!」


 あまりの恥ずかしさに赤面すれば、リュウ様だけが解りやすく大きな溜め息をついてくれた。


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