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さくらは善か悪か(仮)・輪廻篇  作者: 葉月雷音
休暇の過ごし方
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044 ☴ 休暇の過ごし方⑥

 休日は凄く暇だった。部屋の中でいつも通り巻物や本を読みつつ、たまに貴と雑誌の美味しそうなお菓子や可愛らしい洋服の話しで盛り上がる。


 だけど、そのくらいだった。


 私も洋服はいくつか持っている。

 その全て、円が私にプレゼントしてくれたモノだった。


 部屋にある鏡で合わせた限り、私に良く似合っている洋服の数々 …… 本当はそれらを着て、遊びに出掛けたいと思っている。


 でも、兄上の許可は下りない。

 兄上の命令で外に出る時は忍者の恰好ではなければいけなかったし、隠密に動く時は目立ってはいけないという理由から色のある服の着用は禁止されていた。

 だから今も兄上に渡された服だけを着ている ―― まるであの病院に居た時のように。



 しばらくして、何事も無く夕暮れが近付いていた。


 部屋毎に支給された野菜や果物、肉類を見て、貴と一緒に鍋にしようと決めた。


 作って、食べて、お風呂に入って。


 明日に備えて21時には寝床に入る。



 夜遊び何て夢のまた夢……私には無縁の単語。




 野菜を食べ過ぎたらしく、私は夜中に珍しく目を覚ましていた。

 すると、隣で寝ているはずの貴の姿が無い。


 でも、玄関あたりに気配はあることに気付き、そっと寝室の壁に耳を当てた。


 この里でも、一応携帯は通じる。

 が、持っているのは一部だけだったので、使用は最低限にするように言われている。


 しかし、貴も年頃の男子……まだ彼女は居ないとしても、友達とメールくらいはしているのだろうと思っていた。


「…… はい…… はい……」


 幽かに声が聴こえていた。

 が、どう考えても友達では無いと悟る。


「解りました ……はい、……です …………さい」


 そうして携帯が切れたかと思えば、私は一気に背筋を凍らせていた。


 背中に刃が当てられていることが解る。

 そして、その刃を通じて貴のオーラを感じていた。


「聞いていたのですね」


 恐ろしいほどに冷徹な一言だった。


 貴の全てを知っていると思っていた私は瞬時に全てを理解する――私が無知であったと。


 しかも、今の貴の動きは尋常では無い。


 忍者と言えど、どこも開けないで密室に戻って来ることは不可能。

 まして、部屋の開閉時に発生するはずの風が無かった。


 なのに貴は、先程まで部屋の外側の、玄関の傍に居た。

 そして携帯を切ってすぐに密室に戻って来て、私の背中に刃を突き付けている。


 忍術や陰陽でも魔術でもない …… それらではなく、全く知らない術。


 そんな術をいつ覚えたというのだろうか。

 いや、そもそもそんなことが出来るのであれば、兄上の部屋にも気付かれずに出入りすることは可能だろう。

 ましてや、姉である私に刃を向けることなんて今まで一度も無かった。


 あまりにもショックだった。


 私が知らないところで、私を置いて貴は成長をしていたと考えられた。

 誰かに導かれたのか、独りで成長の壁を上がったのかは解らない。


 でも、まさか弟に抜かされるとは思っても居なかった。


 だからショックで私は涙を流す。


「姉上、泣かないで」


 私の涙を感じ取ったのか、刃を下ろした貴は、そう言って私の背中を擦ってくれる。


 だけど、私に空いてしまった穴はどうにも埋められるものではないだろうと思った。


 私はきっとどこかで貴に甘えていたのかもしれない。

 貴が居るからこのままで良いと思っていたのかもしれない。


 でも今、こうして貴が見えない壁の向こう側に行ってしまったのだと思ったら、私は何て愚かなのだろうと思っていた。


 貴の成長を止めていたのは私だった。

 兄上だけじゃない。


 負の連鎖を私も担ってしまっていた。


「…… 姉上、泣いているところ申し訳ないのですが、お願いがあります」


 涙で見えにくくなっていたものの、改まった貴は私に深々と頭を下げているようだった。


 今までに無い貴の態度に驚愕し、困惑し、私は涙を止める。


「宮本神社には、兄上の持つ巻物よりも遥かに古い巻物が多く眠っているという情報を掴みました。今の連絡がその内容です」


 宮本神社と言えば、宮本さんの住んでいる家だったはず。

 そう思った私は、次の言葉を待たずに目を丸くしていた。


「しかしながら、あの神社を中心とした地域には、黒い仮面を着けて立ち入ることは出来ません。また、所持をしているだけでも結界に弾かれてしまいます。それは姉上もご存じかと思います。しかも、宮本家は風見家とは古くからの敵対同士 …… なかなか手強い相手となりましょう。

 そこで、偶然にも同じクラスになり、また多少は心を許していると思われる姉上に、宮本神社に潜入調査をして頂きたいのです」


「…… 宮本さんとは、確かに話したことはあるけれど …… 大した内容ではなかったわ。それに、そう簡単に兄上は許可しないと思うのだけど」

「その巻物に、雷神以外の属性の神様の情報がある可能性が高いとしたら?」


 属性の神様の情報を欲しがっている兄上には、何としてでも欲しい情報になるかもしれなかった。


 だけど、今までの命令とは条件が違う。


 黒い仮面がダメなのだから、恐らくは胸の宝石だって結界に弾かれるだろう。

 しかし、だからと言って、私以外の全くの無関係者では相手にもしてくれないだろう。


「姉上が了承してくれたら、この案を兄上に進言するつもりなんだ」


 私が情報の取得に失敗したら、間違いなく私も貴も殺されるだろう。

 恐らくは、それでも貴は進言をするつもりでいる。


 その覚悟で私に訊ねている。


「…… 解ったわ」


 今まで貴に苦労をかけた分、私が貴の為に何かしなければならない。

 貴の成長に繋がるなら、兄上の成長のお役に立てるなら、私の命など惜しくはない。


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