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さくらは善か悪か(仮)・輪廻篇  作者: 葉月雷音
休暇の過ごし方
42/254

042 ☉ 休暇の過ごし方④

 優艶で甘美な女性の声を電話の向こう側に聞きつつも、私はどこかで溜め息をついていた。


『じゃぁ、パパは忙しいから切るよ』


 ―― "行為" の最中に電話をかける必要は無いのに。


「うん。お仕事、頑張ってね」


 そう答えて即行で受話器を置いた。


 幼い頃から海外出張が多いパパは、私が気付いた時にはもう、最中に電話をしてくるようになっていた。

 流石に嫌気が差し始めている私はほぼ即行で切るようにしている。


 屋敷には専属の、超能力者でもあるメイドが2人も居た。

 この2人もパパに見初められて使用人をしているのだと思っている。


 でも、悪い人では無かった。

 住み込みでは無かったものの近所には住んでいるし、私の多少の我儘も聞いてくれる。


 今日のような土曜だとメイドは片方しか来なかったが、代わりに今日のように子供を連れて来ることがあった。

 だから基本的には、話し相手にも、遊び相手にも困らなかった。


 もっとも、そんな子供も大きくなると来なくなるのは当たり前だし、パパの気に入らなくなったメイドは急に来なくなることもある。

 だから家に関わる重要なことは話せない。


 それでも、今雇われている2人は過去に居た他のメイドに比べてもかなり長い間、黙々と通い続けてくれている気はする。



 パックの梨ジュース片手にソファーの背凭れ越しに、そんな片方のメイドが仕事をしている状況を眺めていた。

 今は台所の掃除をしてくれている。慣れた手つきで奥から手前、上から下に真っ白の布巾で磨く様は、本当に絵のように美しかった。

 ちなみに、連れてきた子供はまだ赤ちゃんなので、そんなメイドの背中に揺られながら寝ている。


「ねぇねぇ、今野さん、」


 私が声をかければ、すぐに手を休めて畏まってくれた。


 メイドの今野さんは狐の妖怪と人間とのハーフ …… つまり半妖なので素晴らしく長い金髪をしている。

 体のラインも綺麗ではあったが、狐の妖怪という世間一般的な悪い印象の所為でなかなか長期の仕事に就けなかったことはパパから聞いて知っている。


「パパとどこで出会ったの?」


 素朴な質問だった。

 が、今野さんは嬉しそうに目元を緩ませ、ウフフと両手を合わせている。


 一見、今野さんは凄く賢そうなウーマンに見えるが、こう見えてかなりの天然気質。

 しかも、本来は主の分しか用意してはいけないはずなのに、メイド自身の分まで主と同じ紅茶を用意してしまうちゃっかりした性格。


 だが、笑顔で謝りつつ証拠を堂々と提出して誤魔化そうとしないあたりが逆にパパのハートを撃ち抜いてしまっているらしい。

 パパのことを、私と同じように( "パパ" と)呼んでくれとパパは願っているが、今野さんの希望はパパとの結婚らしく、下の名前で "章太郎様" と呼んでいるような、ちょっと面白い人。


「章太郎様との出会いは …… そうですね。話しは長くなると思うので、先に紅茶をお入れしますね」

「それ、今野さんが飲みたいだけじゃない …… いや、紅茶は好きだから、別に良いけどね?」


 言葉の途中で今野さんが『いらない? いらないの?』というしょんぼりした表情をしていたので訂正してしまったものの、まぁ間違いなくカップは2つ用意するだろうなと思っていた。


 それに、もう片方のメイドよりも今野さんの方が紅茶の入れ方は上手いと思う。

 今野さんがお母さんになってくれたら良いだろうな、とは思うものの、パパには既に何人もの愛人が居る。まして異母兄弟も多い。

 故に、今更再婚はしないだろうなと思っている。


 手際良く掃除道具を片付けて、早くも紅茶の茶葉を取り出した今野さんは、その茶葉を機器にセットして綺麗にカップの揃う棚を開けていた。

 取り出すカップはやはり2つ。


 私はそれを見届けてから梨ジュースを一気飲みして、少し離れた場所にあるゴミ箱に投げ入れた。


 ナイスシュート。


 そしてソファーにしっかりと座り直して、紅茶が出来上がるのを静かに待つことにする。


 その間に携帯を見れば、いつの間にかメールの着信が来ていたらしい。

 開いてみれば、それは如月からだった。


 内容を見て、やっぱり凄いと感心する。


 あの記事は原文から全てを消してくれたらしい。

 また、円と瞳の記憶にも残っていないことは確認した、とのことだった。

 そこに紫に関しては書かれていなかったものの、まぁ同様に消してくれたのだろうと思う。


 問題は、どれほどの神器を情報の報酬として奪われるかだったが …… 背に腹は代えられない。

 また奪えば良いだけの話しか、なんて思いながらも、今野さんがこちらに来る足音がしたので考えるのを止めた。


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