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さくらは善か悪か(仮)・輪廻篇  作者: 葉月雷音
休暇の過ごし方
41/252

041 ☈ 休暇の過ごし方③

 せっかくの振替休日だというのに、如月の住む神社に来ないかと如月に呼び出された私は、わざわざ都の隣の県の更に奥の山際に存在する美島市までやって来ていた。


 美島駅前で待っていると、目の前に明らかにショタ …… 小さな男の子が真っ直ぐこちらへやって来る。

 小さいとは言っても背が低くて可愛いの意味で、眼光含めた顔立ちだけは恐ろしいくらいに大人びていた。


「永瀬 遠音さん で間違いないですか?」


 その男の子は私に問いかけていた。私は頷きつつ警戒する。


「私は 如月 蓮 と申します」


 その蓮という名前を聞いて、すぐに如月の弟だと理解した。

 前に何度も如月の口から名前が出ていて知っている。だから少しは警戒心を解く。


「如月 …… の姉の方は?」


 同じ氏であることに気付きつつそう訊ね返せば、蓮は首を横に振っていた。


「姉さんは貴方に紹介したい相手が居るということで呼びに行ったので、代わりに私が来ました。でもまぁ、貴方は知らないと思いますが、美島(ここ)ではこのような手口で騙し討ちに遭う方も多いので、」


 そう言いながら蓮は私に如月の旧型の携帯を見せてきた。

 パスワードを解除して待ち受け画面まで見せて来る。


「その証拠品として姉さんの携帯を持ってきました」

「まぁ、まさかパスワードまで知っている襲撃者は早々居ないでしょうね!」

「ですね」


 蓮はそう答えつつ、金色の目で私を真っ直ぐに見つめている。

 そのあまりに凄過ぎる目力に押され、私は目を少しだけ背けていた。


「その、貴方も、神様なんですね?」

「敬語じゃ無くても良いですよ?」


 蓮は敢えて私の質問には答えず、そう言って私から離れて歩き始めた。

 なので私も仕方なく蓮の後に続くことにする。



 駅の通りから右に曲がって大きめの通り沿いに進む。


 しばらく歩くとその大きな道は右に曲がっていたが、そのまま真っ直ぐ続く細い方の道を進んだ。


 やがて木々が増えてゆく。


 すると、急に蓮が私の手を握った。

 驚いて立ち止まれば、蓮は平然と説明してくれる。


「ここから先には迷路状になっている結界が張ってあります。これを越えないと僕らの神社には辿り着けません」


 確かに良く見れば、半透明の薄い膜のようなモノが、数メートル先の地域を覆っているのが見えていた。しかも、良く良く見れば結界は外側地域を鏡のように映しているだけ。

 つまりは、中の様子が見えている訳ではないらしい。


 一度でも結界だと理解すれば目が慣れるのも早いモノで、後ろを振り返れば後方十数メートルの位置にも結界と思わしき一線がアルファルトに引かれているのが解った。

 どうやら気付かない間に1つ目の結界の中に足を踏み入れていたらしい。


「…… アンタの姉を含め、スゲー場所に住んでいるんだな?」


 私はそう答えつつ蓮を見れば、蓮は不思議そうに首を傾げていた。


「そんなに凄い場所ですか?」


 答えつつ、蓮は歩き始めた。

 だから連れられて歩き出す。


「僕は生まれた時から最近まで、この結界の奥地で何も知らずに住んで居ました。だから逆に、今でも外の世界が恐怖で仕方ないですよ」


 蓮がそう言ったかと思えば、勢い良くジャンプして結界の中に飛び込んでいた。

 その一蹴りで、私は足を強制的に地から離される。


 下を見れば、確実に3階分以上の高さを跳んでいるように思えた。


「ひええぇぇぇぇぇぇぇっ?!」


 あまりに驚いてそんな悲鳴を上げたが、それでも蓮は私の理解出来ない空中を進んでいるようにしか思えなかった。


 実際、地に足が着かなくなってから、重力という圧力を感じなくなってから、かなりの時間が経つ。

 それなのに、私の身体はどこにもぶつかってはいなかった。


 無限に続く浮遊感。

 なのに、体に感じる速度。


 あまりに恐怖過ぎたらしく、いつの間にか目を閉じていたらしい。


 不意に蓮が止まったのが、私にも感じ取れていた。


「ここなら大丈夫ですね。目を開けて見て下さい」


 そう言われて、私は恐る恐る目を開けた。


 すると、本当にここは同じこの国なのかと思うくらいに真っ白い空間が広がっていた。


 真っ白と言っても、薄らと遠方の景色は見えている。

 ただ、その景色は水玉のように全て円状の中だけに映しだされていた。


 ある円状ではビルと信号機と、そこを歩く人々や車などが湾曲して映っている。

 その隣の少し欠けた円状では濃い緑色の木々が映っている。


 幽かに見える円状の足元には、見慣れているアスファルトの灰色が映っていた。

 が、その上にはまるで透明な床があるかのように、私はその上に立っていた。


 足を動かせば、確かにそこには床があるかのような感覚が体に伝わって来る。


「何 …… ここ ……」

「これが結界の中ですよ。あ、手は絶対に放さないで下さいね」


 蓮はそう答えつつ、残りの右手で1つの円を指す。

 その円状には、如月(姉の方)が真剣に誰かと話しているらしい光景が映し出されていた。


「ああっ?!」

「美島の珍名所の1つで、一般的には "迷宮結界" とか言われていますね。この結界内は様々な大きさの泡のような結界が集まって、1つの巨大な結界の上下に貼り付いて合わさっていることから、僕らの間では "結界の泡" 何て言っていますが」


「でも、何で全く違う景色が映し出されているんだ?」

「1つの結界の泡に入ると、隣り合う結界がどこに繋がっているかを見ることが出来るようになっているのですが、その結界もまた隣り合う結界を映しているだけにすぎないのですよ」


 良くは解らなかったものの、床にも壁にも天井にも窓があるマンションを思い描いていた。

 窓には繋がった到着先の写真が貼ってあるものの、その窓の先が到着先とは限らない。


 要はそういうことだろうか、などと勝手に解釈した。


「それだと、永久にゴールの映し合いが続くんじゃないか?」

「ということです。だから正しい結界を通らないと、ゴールには辿り着けないようになっています」


 蓮はそう答えて違う円状を指した。

 その円状には、何故か水面らしき青色だけが広がっている。


「しかも、この結界の一部は川も含んでいるので、通る結界の泡によっては息が出来ない、なんてこともあり得ますね」

「おいおい ……」

「だから、この結界を知っている者以外の美島の住人は、例え超能力者や研究者であっても滅多に入りませんね。必要あれば案内業者に頼みます。不便と言えば不便ですが、知り尽くせば誰にも邪魔されないので良い環境にも成ります」


 蓮はそう答えつつ、私の右手を掴んでいる左手に視線を落とした。


「ちなみに手を放さないでと言ったのは、僕の固有の能力で、地面の上にあったガラス片を大きくさせて、貴方にも解るように地面を作っているためです。ただ、僕の魔力だけでは強度不足になるので、貴方のオーラから出ている魔力を、この手を通じて少し借りています」

「そ、そんなことも出来るのか ……?!」

「貴方が強く望めば魔力供給を止めることは出来ますよ?」


 そう言って蓮は足元の床を消したらしい。

 が、私はその場に留まる事が出来ていた。


 浮遊感はあるのに、何故か体が異様に軽く感じられて、且つ、何故か風が足元にあることが解る。

 これが私の魔力分、つまり強化した床の分を減らしたという状態なのだろう。


「もっとも、そんなことをしてきたら、僕も貴方を無限に広がる結界の泡に落としますけどね」


 ブルリと大きく身震いをしていた。

 が、それを見て蓮は楽しんでいたらしい。


 ニヤリと不敵に笑った。


「今はしませんよ。姉さんに怒られてしまいますからね」

「今は …… だと ……?」

「そうですねぇ。貴方がもっと僕達のことを知ってくれたら、やらせてもらうかもしれないです」


 嬉しそうにそう答えた蓮は私を引っ張って次の結界の泡に向かっていた。



 慣れ始めていた結界の泡を抜けると、急激に自身の体重を感じてよろけそうになっていた。

 それを蓮が支えてくれる。


「大丈夫ですか?」


 あまりのタイミングの良さに惚れそうになったところで、目前の現実を見た。


 そこには如何にも深そうな森が広がっていた。

 振り返れば、すぐ後ろに入口と同じような結界が張ってある。


 つまりは、長かった迷宮結界をやっと抜けて来たらしい。


「僕やお兄さんは慣れていますけど、やっぱり慣れないと転びますよね。姉さんは滅多にコレを使わないから、使うとしょっちゅう転んでいますし」


 使わない選択肢もあるのか、なんて思いながらも呟く。


「アイツらしいな ……」

「ですよね。さて、ここからは歩かれて平気ですよ」

「だろうな!」


 とツッコミを入れつつ、私は一歩、前進してから背伸びをした。


 森の澄んだ空気が清々しい。

 少し湿った土の匂いが懐かしくて、私はハタと何かを思い出す。


『この匂いは "天界" と同じだと思う神も多いよ』


 ばあちゃんに言われた言葉だった気がする。


 だけど、過去の私は大好きなばあちゃんの顔すら出て来なかった。

 なのに、何故か今、その声を思い出していた。


「"天界" と同じ匂い ……」

「ん? …… あぁ。そう思う神も居るみたいですね」


 そうとは知らずに答えた蓮は、しかし、何故か周囲を見回していた。

 そして何故か溜め息をついている。


「少し先を急ぎましょう。ここはあまり長居をしない方が良さそうです」

「何かあったのか?」

「いえ、まぁ …… 簡単に言えば、ここは最近、悪鬼の目撃が多い場所です」

「何だって ……?!」


 と言った私は、戦闘が見られる!と思っていたためか、どこかワクワクした表情をしていたらしい。

 蓮はそんな私の表情を見つつ、呆れた表情をしていた。


「あのですね? 悪霊と対戦することは問題無いですが、姉さんのように貴方を守れる自信、僕には無いですよ?」

「…… え?」

「悪霊にも依りますが、目撃した者の話しによれば、僕の苦手な幻影を使うようですね」


 そう言いながらも蓮が足早に歩き出したので、私もその後を追う形でついて行く。


「それに悪鬼だと、貴方ではまだ普通の妖怪と見分けがつきにくいと思いますよ」

「そもそも、悪鬼って妖怪が堕落した奴のことじゃないのか ……?」

「正しくは堕 "転" です。次、堕 "落" と言ったら怒ります」


 先を進む蓮がそう言って軽く私を睨んで来た。

 ヒヤリとして背筋を伸ばしてから答える。


「あ、はい ……」


「貴方は人里に長く居たから知らないと思いますが、"地界" と呼ばれる地球上には、人間という種族の他に、動物、妖怪、幻獣という種族が居ます。動物にも猫や鳥という種類があるように、妖怪や幻獣にも種類はあります。妖精や妖魔は、妖怪の種類だと思ってもらって良いです」


 "幻獣" の単語はすぐに脳内で変換することが出来ていた。幻の獣と書くだけあって個体数は神よりも少ない、とは親父が言っていた気がする。

 が、その単語には少し期待した。


「ふむふむ」

「動物も妖怪も幻獣も、人間と同じように心があります。しかしながら、中には悪しき心を持つ者も居ます。人里にも犯罪者と呼ばれている罪人が紛れ込んでいることと同じです。もっとも、それだけなら命までは奪われませんし、そもそもただの罪人 …… いくらでも更生することは出来ます」


 森の中には獣道があるようで、蓮の進む先を良く見れば、何度も踏まれて固められた1本の道になっていた。

 が、その先は予想外に曲がりくねっているのか、深い木々の所為で見えそうには無い。


「ですが、そんな罪人よりも性質が悪いのが、”悪霊" と "悪鬼" です。先程、"幽霊" という特殊な分類を言わなかったのを覚えています?」

「そういえば、言っていなかった気もするが ……」


 "幽霊" が特殊な分類なのか、何て素直に驚いた。

 蓮はこちらを振り返ることもないまま説明を続ける。


「僕らは主に "死霊" と呼んでいます。その名の通り、死んでも尚、やり残したことがあって地界に留まる存在ですね。最も解りやすい例は自縛霊ですが、鎖で土地に繋がれた自縛霊は大概()()()なので問題はありません。逆に最も()()()は浮遊霊 …… まぁ、一般的に言われている "幽霊" ですね。分類せずに "悪霊" と呼んでいる者も多いですが」


 そう言った蓮は分岐点に来ていたらしい。


 獣道が終わり、人がすれ違えるくらいは十分に出来るくらいの幅の道に出た。

 そこを今は右に進んでいる。


「悪霊は生きている者の体に鎖を繋いで取り憑いて、その者を凶悪犯に仕立て上げます。面倒なのは、普通に生活をしているだけでは見えないという点ですね。

 だから、貴方のように無防備でこのような人里から離れた場所に来る者は、絶好の憑依目標になる訳です」


 話しを聞いた私がブルッと震えると、蓮はクスリと笑っていたように思えた。


「大丈夫ですよ。今は僕が貴方に結界を張っている挙句に、この道に入れば、僕の他にも貴方を守ってくれている方が居ますからね」


 そう言った蓮は進みながらも上を指す。

 なので進みながら見上げれば、確かに遥か上空を旋回しているらしい ―― 大きな人の塊が木々の合間から見え隠れしていた。


「天狗 …… 妖怪ですよ」

『妖魔だ!』


 急にそんな低い声が聴こえてきて私は目を丸くさせていた。

 蓮が肩を竦めている。


『すいません …… 天狗が妖魔で、烏天狗が妖怪、でしたね』


 蓮の可愛らしい声が脳裏に届いた。

 テレパシーだと思っている間にも蓮と天狗の会話は続く。


『いい加減に覚えないと、その首、引っこ抜くぞ!』

『そんなこと言わないで下さいよー。こう見えて、頑張ってはいるんですから』

『何を頑張っていると? 瞑想中に居眠りしたり、悪霊相手に逃げ出して神主様に助けを求めたり …… そんなお前には似合わぬ言葉だな』

『う、うう …… ね、姉さんに言い付けますよ!?』

『巫女さんだってワシの味方をすると思うが ……』


 そう言われた蓮はそれが正しいと思ったらしく、歩きつつも頭を抱えているようだった。

 私には、天狗が空で旋回しながらも笑っているように感じた。


『巫女さんから事情は聞いた。まぁ、急ぐことは無い。ゆっくりとしてゆきなさい』

「…… あ、はい」


 自分に言われたのだと気付くのに、少しだけ時間がかかった。

 天狗はフンッと鼻で笑う。


『なぁに。そこの黒猫よりワシらは警戒心が強いからな。何かあればすぐに警戒発令を出すから、その時は巫女さんに来てほしいと強く願えば良い。君の心の声なら必ず巫女さんには届くだろう』


 そう言った天狗は旋回を止めたのか、見え隠れしていた影が見えなくなってしまっていた。

 と、普段通りに体勢を戻した蓮が失笑しながら私を振り返っている。


「あの天狗の管轄ではなくなったんですよ。まぁ、容姿の似ている違う天狗が既に上空に居ますけどね。話しかけて来ないだけで、テレパシーの内容や管轄内での会話は全て聞かれていると思って良いです」


 つまりはこの森をいくつかに分けて、数匹(人?)の天狗がその地域を管轄しているのだろうと思った。

 人間と同じで個性があって、良く喋る天狗と全く喋らない天狗が居るらしい。要するに地域の警察官のような存在か。


「事実、僕よりも天狗の方が警戒心は強いですね。姉さんのように尊敬される存在であれば天狗の警戒心も多少は解いてくれるのでしょうけど、まぁ妖怪の僕では難しい話しです」


 私はすんなり今の言葉を頭の中でループさせ、とある単語の意味に気付いて一気に嫌な汗を掻いていた。

 思わず足を止める。蓮はそんな私を振り返って驚いていた。


「どうかしましたか?」

「い、今 …… 妖怪の、僕って ……」

「あぁ …… って、えぇぇぇ?! 今まで気付いていなかったんですか??」


 何て蓮まで驚いている。

 私の嫌な汗は一気に森の冷気を受けて寒気に変換させていた。


「よ、よ、妖怪って …… ってことは、如月も ……」


 様々な憶測が頭の中を掠めて行った。

 が、蓮はブンブンと頭を横に振って答える。


「姉さんは人間です! 僕は黒猫の妖怪ですが、人間の姿に化けることが出来て一定の条件があれば、美島市役所は人間としての戸籍を与えてくれるシステムになっているんです! 姉さんとは直接、血の繋がりは無いですよ!! ということは …… 美島駅に居た駅員や売店のおばさんや、貴方の隣で迎えの車を待っていた人やタクシードライバーが妖怪だということに気付いて居なかったってことですか??」


 如月を待っていた駅前には沢山の人間が居た。

 私はそれを見ていたものの、見慣れた光景の1つだと思っていた。


 しかし、その沢山の人間が妖怪だとは思っても居なかった。


 まして、今目の前に居る蓮だって人間の子供だと思っていた。

 手を繋いでも人間と同じ温かみや柔らかさを感じたし。


 そう、人間と何ら変わりなかった。


「少しは落ち着いたらー?」


 急に女の子の声がしたと思えば、蓮の進もうとしている先に1人の女の子が立っていた。

 が、その女の子は頭の上から獣の耳が出ている。


 私が女の子を観察している間にも、蓮が身構えたことに気付いた。


「そんなに警戒しないでよー。森のアイドルと言えば私でしょー?」

『目の前の相手は猫の妖怪ですが、既に末期の悪霊に憑かれています …… 少し警戒しておいて下さい』


 蓮の声に後押しされても、私には悪霊には見えなかった。


 女の子はふぅと小さく息をついて腰に手を当てる。

 動きはまるで人間そのものだった。


「ね? 妖怪も人間も大差ないでしょ?」


 そう言われて、私は黙り込む。


 確かに、大差無かった。

 今まで全く気付かなかったのは、恐らく妖怪が人間と同じ環境で同じ暮らしをしていたからだと思う。

 そう思えば、嫌悪感などはすぐにどこかに飛んでいってしまった。


 でも、向かいに居る女の子には、違和感がある。

 耳以外、何が違うというのか …… それは解らない。


「妖怪と人間の差はね、多分、妖怪が人間の理想の人間を真似ているから、顔に似付かず体のラインが完璧だってことだと思うの」


 なるほど、納得する一言だった。


 事実、女の子は凄く可愛い。

 だけど、顔はどちらかと言えば猫のようにも思えるくらいに動物寄りの形をしていた。


 蓮のように、人間の姿に化けることがまだ完璧ではないのだろうか。


「私はこの姿、気に入っているんだけどなー」


 女の子はそう言ってその場で前方宙返りをしたかと思えば、その姿は既に猫に戻ってしまっていた。

 その猫が口を開く。


『巫女の会話を盗み聞きしちゃったからどんな人間かと思って見に来たけど、美味しそうな匂いがするだけで性質が好みじゃないわぁ』


 そう言った猫は私らの前から姿を木々の間に消した。


 しかし、恐らくは気配が完全に消えるまで、蓮はその場に出した結界から一歩も動こうとはしなかった。


 しばらくして、肩の力を抜いた蓮が息を吐いて結界を消す。


「好みじゃ無くて良かったですよ、ホント ……」


 そう言った蓮は私を可哀そうな目でチラッと見つつ、その目はどこか笑っていたので、真後ろまで進んだ私は思い切りゲンコツで蓮の頭を一発だけ殴っておいた。


「そう言えば、」


 蓮は殴られた場所を痛そうに擦りつつ周囲を見回している。なので私も釣られて見回した。


 ―― そう言えば、先程まで感じていたはずの天狗の視線を感じない気がする。


「…… 嫌な光景を見るかもしれないですね」


 そう言った蓮が私の傍を離れて少し先に進み、そこにあった大木の裏を覗き込んでいた。

 嫌な予感をさせつつも、私は蓮に近づき、同じように覗き込む。


 すると、人間でいう心臓あたりにポッカリと穴が空いた、首の無い死体がそこには置かれてあった。

 首の断面は紫色の肉が見えている。そこから流れる青い液体のせいで、恐らく白かっただろうワイシャツは全てを青く染まめていた。

 また、ワイシャツの穴の空いたところからも青い液体が流れ続けている。


 それを見ていた蓮が溜め息をついた。


「人間と動物は赤い血を持っていますが、それ以外は青い血を持っていると思ってもらって良いです ……」

「…… つまり、天狗はさっきの猫に殺された、ということで間違いないか?」


 私の一言に蓮は頷いていた。

 だが、その意味を悟った直後に私は目の前を真っ暗にしてしまう。


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