040 ▲ 休暇の過ごし方②
今日は漫画家さんのお手伝いの日。
いつも通り、編集者さんと一緒に漫画家さんの家の前まで来ていた。
が、編集者さんが一緒にいる為か、いつも通りに漫画家さんは居留守を使っているようだった。
だから私は諦めて、ポケットの中にある鍵を既に左手で掴んでいる。
「原稿が終わっていないことは解っているのだから、すんなり開けてくれたら良いのにね」
「(それなら編集者さんは隠れていれば良いのに)」
何て思いながらも失笑しつつ、私は漫画家さんのボロアパートの部屋の扉ノブを回した。
そして、いつも通りに扉をゆっくりと手前に引き、私達は扉から廊下の手すりまで身を引く。
すると、いつも通りにゴミ袋の山が玄関を超えて外にまで転がって来た。
編集者さんは溜め息をつきながらも、既に目の前のゴミ袋を掴んでいる。
「いつも通り(のゴミ屋敷)だな」
「いつも通り(のゴミ屋敷)ですね」
編集者さんとほぼ同時に答えつつ、私はいつも通りに玄関に滑り込み、その先にあるゴミ袋を外の廊下に投げている。
そこから編集者さんが手すりを越えて下に落とせば、その下に待機している編集者さんの見習い中のバイト君が運んでくれる手筈になっていた。
バイト君とは言っても私と同い年っぽくて、卒業したら本格的に編集者としての道を究めたいと押し売りしてきたらしい。
だからバイト代を今は支払う必要がないという理由だけで、この編集者さんは見習いという形で手伝わせているらしい。
編集者さんは変わり者ではあったものの、漫画家さん曰くその道はプロらしい。
いつでも(首を)切れると言いながらもバイト君の手先の器用さを活かしているらしく、バイト君と会う度に技術が劇的に向上していることは私でも目を見張るくらいだった。
むしろ、私よりも漫画家向きなのではなかろうか。
いつも通りにゴミ袋を片付ければ、奥に居る漫画家さんの後ろ姿が見えた。
が、漫画家さんは座ったまま寝落ちをしたらしい。
一人暮らしらしいコタツにうつ伏せになっているのが確認できた。
私が近付いても起きることはなく、代わりに、何故か漫画家さんの後ろに落ちていた原稿を踏みそうになる。
見れば床にはほぼ一面に原稿が散らばっていた。
漫画家さんのことだ。
原稿だけはヨダレから守ろうと、手で払ったような気がする。
「せんせーい」
私は何度もそう言いながら漫画家さんの体を揺する。
が、気持ち良さそうないびきを掻いたまま起きそうにもない。
仕方なく私が続けていると、全てのゴミ袋を1階に落とし終えたらしい編集者さんがやって来た。
そして散らばった原稿をページの番号順に揃えていく。
「ペン入れまで完成しているわね …… 珍しく」
「マジで?!」
あまりにも珍しかったので私が答えれば、どこか嬉しそうに編集者さんは頷き返してくれていた。
「あとは、いつも通り先生が後回しにするベタとフキダシの修正くらいじゃないかしら。そのベタも部分終わっているし、トーンと細かい修正は先生にやってもらうけど締め切りまでの時間はまだある。
…… 疲れているみたいだし、少し寝させてあげますか」
「了解!」
私が手だけ敬礼しながらそう答えれば、いつも通りに部屋の扉を閉めてバイト君が入って来る気配がした。
漫画家さんが今、月刊で連載しているのは4コマで、能力に関する新しいニュースを解りやすく、面白く盛り込んでいることで、能力に関する勉強漫画としてそこそこ有名ではある。
ニュースとしてはまだこの国で報道されていないことが稀に描かれていることがあって、私もここから勉強させてもらうこともあった。(どうやって取材をしているのか不明だが。)
今回の原稿は、主に新しい属性がどうやって分析され、認定されるかを(偶然にも懸賞で当たった1週間の海外取材を元に)コメディ風にしてあり、物覚えが凄く悪いバイト君でもすぐに理解していたようだった。
ちなみにこんな汚部屋で生活をしている漫画家さんではあっても、少女漫画の中では美しい部屋を描ける。
編集者さん曰く、漫画家さんの思い描く幻想の中なのだろうと言っているし、私もそう思っている。
「そういえば、一昨日あたりに新しい属性が発見された、とかニュースでやっていましたよね?」
バイト君が珍しくベタの作業中に話しかけてきた。
(トーンだけは綺麗に番号で分けている)漫画家さんのトーン専用棚から、原稿にメモされていた番号を探していた私は、思わず手を休めて答える。
「ええ?! 一昨日 …… あぁ、私、修学旅行中だったから気付かなかったのかぁ」
色々あったしなぁ、何て思い返しながら答えたものの、旅行の話題を振るよりもそっちの話題の方が面白そうだと素直に思っていた。
もっとも、輝く妖精の海を見られたことに関しては漫画家さんに報告してあげようとは思っている。
「あぁ、あの "空" 属性のこと?」
バイト君と同じベタ作業中の編集者さんが、そう答えつつ私を軽く睨んで来たので、我に返った私は手を動かす。(しかし目当てのトーンが見当たらない。)
「あれって "風" にとても似ているらしいわね。でも、"風" とは違って空気中に含まれる分子単体で操ることが出来るそうよ」
「分子単体 …… いやいや、分子って見えないじゃないですか?」
私がやっと番号のトーンを見つけて取り出しながら答えれば、編集者さんは顔を原稿に向けたまま軽く頷いていた。
「そうなのよね。だから "風" と見分けがつきにくいみたい。発見した研究者も、全く違う実験中の偶然の気付きだったみたいで、最初は勘違いだと思っていたみたいよ? 風を使っていた超能力者も、その時に指摘を受けて初めて "風" との違いを知ったみたいで」
「分子を操る属性とか …… かなり怖いですね」
「そうねぇ。でも、先生のネタが増えたことは凄く有難いわ!」
違いない事実に失笑し合って、私達はいつも通り無言で作業に集中することにした。




