035 ▲ 修学旅行・事後④
私は深ーく溜め息をついてしまっていた。
香穂里が居なくなったことで山田さんは嫌な結界を解除し、代わりに内側で作っていたらしい結界を見せてくれる。
「神器の中に2つの核が共存する …… ことは可能なのか?」
私の質問に山田さんは頷いてから答える。
香穂里がアンクと契約したことは気付いていた。
それは香穂里のオーラの色が徐々に綺麗な赤色に変化しつつあったから。
ただし、同時に気付いてしまったこともあった。
それが、その赤に時折混ざっているオレンジ色のオーラだった。
「神器の核が2分の1やとしたら、そのもう半分が違う核ということは高確率でありえるで」
「その核が神様の核だったとして、その神器と契約したらどうなる?」
「そら核が受け入れたとしたら神になるんやろなぁ。
そもそも、点在しおる神器自体は各々の、主人ならぬ主神がおるはずなんよ。
神器と契約出来たっつーことは、その神にも成れるっつーことやから …… まぁ、そういうことになるやろな。
と言うても、完全な神にはまだまだ遠い。契約だけなら誰でも出来ることやし」
山田さんはそう答えて失笑する。
「咲九はそこんとこ、説明せんで契約させおったみたいやけど」
「・・・」
「結果オーライやないん?」
そう答えた山田さんは結界を消した。
が、何故か山田さんが一番驚いている。
「おっと。そろそろやね」
「何が?」
「皆が起きる時間や。悪魔の部屋の所為で強制的に眠らせられておったやろ? あれな、悪夢で嫌やねん。せやから、あっちこっちで何も知らん妖精集めて皆の夢に入ってもろったんよ。その最終地点のここに妖精が戻って来て結界が切れたっつーことは目覚める証拠やろ」
妖精は人間に意地悪をするけど、同時に希望を与えていると千尋から聞いたばかりだった。
それを山田さんは皆の悪夢の中で実践していたらしい。
『サンキューね』
山田さんの一言で一気に光が上空に飛び出して行った。
『いっぱい いじわる したよ!』
『しばらく しないですぅ』
『こわかったー』
『わらってくれたの~』
ほぼ同時に様々な声が耳に入って来た。
が、それも一瞬のことで、あっという間に光とその声は消えてしまう。
私が唖然とする間にも、山田さんは儀式でもしていたのか、散らばったモノの片付けを始めていた。
『山田さんは神様なのか ……?』
思わずテレパシーで訊ねていた。
山田さんはニヤリと笑って私を振り返る。
そして、目を金色に変化させた。
黙る私を見て山田さんは普段の目に戻す。
そして片付けを再開させた。
『誰にも言わんといてぇな。まぁ、咲九なら気づいとるけど』
『何の神様か …… は聞かないでおく。だけど、千尋が水神として自覚が無いのはどうしてなのか …… どうして記憶が無いのか、教えてくれないか?』
『そら水神の核が半端だから、やろな』
山田さんはそう答えて正座をし、鞄の中を整理しながら体ごと私に向く。
『核は割れる。せやから神器の欠けた核の所の穴埋めで神の核が入り込んだりしおる。さっきの質問の答えみたいに、や。ただし、神器にも属性はある。その属性が一致せんと入り込めん。その神の核が記憶の部分だけ失っとるっちゅーことや』
『記憶以外が無いこともある、ということか?』
『それが、ウチや』
山田さんは即答して失笑する。
私は目を丸くした。
『記憶があってもな、何の神だか解らへん。せやから残りの核を探しとうても、属性が解らへんのやから動きようも無い。ただ言おるんは、その属性を持った神は独りしか居んへんっちゅーことや。このことだけは何故かはっきりと解るんよ』
記憶だけがあっても何の神様か解らないから動けない山田さん。
何の神様か解っても記憶が無くて自覚が無い千尋。
失っている残りの核を探せば、完全な神様には成れる。
だけど手掛かりが無い。
恐らく山田さんが情報屋になった理由はそれなのだろう。
情報屋でも手掛かりが見つからないのであれば、それ以下の私達がどんなに足掻いても見つけられないかもしれない。
『でもなぁ。ウチが持っとる核の残りの核は、誰かに奪われるっちゅうことは今まで一度も無かったんや』
私が悩んでいたからか、山田さんはこう言って来た。
『せやから急ぐことはあらへん。それにな、ウチ、核が割れとるのは何か理由があるんやないかと思うとるんよ』
『割れている …… 理由?』
思ってもいなかった言葉に驚いてしまっていた。
『せや。普通なら、核は割れても前の所持者が亡うなった時点で元の完全な球体に戻るらしい。せやけどウチの核は元から割れとったんや。ちゅーことはやで?』
『最初から割れていた ……?』
山田さんはゆっくりと頷いて失笑した。
黒い仮面の集団 …… 風見さんの一族に狙われている "属性神" の核。
もしかしたら、狙われていることを核は知っていて、わざと分裂をして完全な核を発見されないようにしているのではないか。
しかし、そうなると山田さんの核も香穂里と同じ "属性神" の1つということになる。
"炎" は香穂里、"水" は千尋と考えると、残りの核は "風"、"地"、後はもう1つあるらしい "雷" ということになる。
『…… ここまで言うてもまだ、冷静に考えられるんね?』
不意に山田さんがそう言った。
私は頷いて答える。
『昔から、しっかり関係を考えることで頭の中に入れてきたから癖になっているのかも』
『癖 …… ちゅうか ………… そか、紗穂が気付いてへんのか』
『気付いてない?』
『お姉さん、何かはウチでも解らんが、ウチらと同じ神やで?』
山田さんの一言で私は固まってしまっていた。
『神やから冷静を保てる。逆に言えば、割れた核の相方が安全な場所におる証拠でもあるんや。
もし安全な場所になかったら、その核を通じて黒い仮面に含まれとる嫌な魔力を注ぎ込まれ ―― さっきみたいな部屋の主のように簡単に堕ちとると思うで』




