034 ☉ 修学旅行・事後③
私は紗穂里を連れて、2人で一緒にホテルの屋上を目指していた。
日は既に上がっている。
時刻は6時半を過ぎたくらいだった。
私が屋上に続く扉を(結界を破壊して)開ければ、そこには地上から見えていた山田の姿があった。
山田は驚く様子も無く私に顔を向ける。
あの後、千尋と紗穂里から学園が少し前に襲撃されていたことを知った私は、その黒い仮面の集団に関して心当たりがあって、怒り心頭で事情を知っているらしい山田の気配を追っていた。
ところが、山田は瞬間移動でも出来るのか、一瞬でその場から気配を消す。
余計にムカついてきて、私は何度もホテルの装飾品を破壊しそうになっていた。
「おちょくりやがって!!」
私の一言で、何故か目前の山田は失笑していた。
そんな山田に私が近づこうとして、紗穂里に服を掴まれて制止させられる。
「待って! 何か結界が ……」
「結界?? そんなもの、破壊すれば ……」
破壊しようと思った。
しかし、私は破壊出来ずに手を止める。
目の前にあった結界は、普通の結界では無かった。
―― この結界を私は良く知っている。
「…… まさか、死んだ花子の使っていた不思議な技を知っているとは。
…… アンタ、何者?」
お陰で少しは冷静になれた。
なので、山田のその結界の外から訊ねる。
過去に花子が自分の身を守る為に、私らの前で何度かこの術を使っていた。
この結界は決して壊せない。
私が全力を出してもヒビすら入れられなかった。
ただし、非能力者の花子が使っていたのは決して魔術では無い。
あの黒い仮面を割ることで込められていた魔力が揮発し、この結界が生み出されているのではないか、と推測している。
まして、この黒い仮面をした集団には何度か私の家が襲撃を受けていた。
集団の緊急脱出用にこの技が使われることも多い。
その瞬間をいつも見逃しているので悔しくてたまらない。
事実を知ってか知らずか、山田はただ溜め息をついていた。
「それから、あの黒い仮面の集団は何? 何で私のアンクを狙うの??」
「十字架には "炎神" の核が入っとる、とは有名な噂や。
黒い仮面の集団は風見一族 …… 忍者の里の住人。
その里の住人は、頭領の命令で黒い仮面を着けて "属性神" の核を狙っとる」
あっさりと答えた山田は、教えてくれたことが意外過ぎて茫然とする私を振り返る。
「黒い仮面を所持しとる里の者は頭領に大切な何かを奪われとる。
その頭領と、頭領と契約した直下の部下は黒い仮面を使って操り人形を増産しおる。
操り人形か里の住人か …… その判断は難しゅうて、ウチでも未だに迷う」
「風見 …… もしかして、さっき一緒に戦っていた、あの風見さんも、その一族なんじゃ?」
隣に居た紗穂里が恐る恐る、山田に訊ねていた。
山田は黙ったまま頷き、溜め息をつく。
私はあることを思い出していた。
まだママが生きていた時、パパが黒い仮面を持ち帰って来ていたことを。
舞踏会に参加するための証明証だと言っていたけど、その後もパパは大事そうに懐に入れて持ち歩いていた。
また、花子はピンチの時に黒い仮面を足元に叩きつけていた気がする。
その時は割れなかったが。
またある時は黒い仮面の集団から直接襲撃を受け、私は必死で近くの寺院の結界の中に逃げ込んだ。
今思えば全て同じような形をしていた。
これが共通した黒い仮面であれば、パパもグルということにはならないだろうか。
「風見さんが敵だった、なんて ……」
紗穂里は隣でショックを受けているようだったが、私は全くそう思っては居なかった。
むしろ、さっきの風見が敵だとしたら私は無知な小物過ぎる。
このままでは、風見やパパにアンクを奪われてしまう。
もっとも、アンクと契約した限りすぐに奪われることは無いと思うが、例えアンクが奪われたとしても私が死ぬことに変わりは無いのだと実感し ―― 闘志を燃やす。
「うおおおおおお!!」
急に私が叫んだ所為で紗穂里は耳を塞いで目を丸くしていた。
山田は失笑している。
「決めた! 私、もっと知識と経験を積もうと思う!
そうじゃなきゃ風見にも、アンタにも勝てないもの!!」
「ええ?? ちょっと ……」
困惑顔の紗穂里を他所に、私は早速、これ以上は何も答えてくれないだろうと直感した山田を捨てて、如月の居ると思われる自分の部屋に戻ることにした。
決意した私は早いのよ!!
オロオロしているだけでこの場を離れそうにも無い紗穂里すらも放置して、私は部屋を目指して走り出す。




