036 ☈ 修学旅行・事後⑤
風見が部屋を後にして、その数分後に岸間だけが部屋に帰って来てから、岸間は何故か如月を責め立てていた。
それでも如月は平然と対応している。
次第に岸間の怒りは収まり、如月に一方的な質問を投げかけていた。
しかし、質問の内容はある程度、如月から聞かされて知っていた内容だったので、私はそのままスルーして仮眠することにした。
隅に積まれた布団にダイブして、そのまま布団の温かさに身を委ねる。
如月の持っている神の核は、半端なモノだと如月自身が言っていた。
如月が強いのは多くの情報・手段を持っているためで、決して本人は強くないらしい。
だからもし、私が重度の魔力暴走を起こしていたら、如月の全力でも抑え込めるか不安だったらしい。
―― あの時。
黒い結界に対して、結界を張りながらでも私を抑えられるだろうと、如月はどこかで安易に思っていたらしい。
我慢しようと思えば、我慢は出来た。
ただ、我慢するにはあまりにその魔瘴は辛かった。
どんどん悲しい感情が私の中に流れてきて、つい、同情をしてしまった。
しかし、それが魔力暴走の発端になるとは全く思っても居なかった。
私は無意識に如月の腕を掴んでいた。
が、如月が振り返っている間にも如月の腕は変色していった。
驚いて手を放しても、如月の腕は変色を止めない。
それどころか、私の異変に気付いた如月は私に抱きついて来た。
『大丈夫、落ち着いて』
如月の優しい声に安堵して、私は暴れることを止めた。
『魔瘴は遠音を壊したい訳じゃないの。
助けてって言っているの。
その声を、拾ってあげて』
目を閉じて、
黒い、
黒い、
ただ黒いだけの魔瘴の中を確かめる。
だけど、声を見つけられそうにも無くて泣きそうになる。
『声は音だから目では見えないわよ』
『無理 ……』
『遠音なら出来る ―― 絶対に』
如月の言葉に導かれて、私は魔瘴の中にも流れがあることを知った。
奥底から来る黒いラインとは別の、無色透明のライン。
何となく、そこに近付いてみた。
そして耳を澄ます。
『辛イ …… 苦シイ …… 土ノ中 …… 眠リタイ ……』
微かな声が聴こえた。
私が驚いて目を開けると、そこには如月の顔が近くにあった。
『聞こえたようね』
それだけで、私の体はかなり楽になっていた。
良く解らない自信に溢れ、今なら何でも出来る気がしていた。
如月は私を放しながら微笑んでくれていた。
如月の腕だけではなく全身が変色していたようだったが、私はその結末を見ることなく気を失ってしまった。
本当はあの時、如月も怖かったのだと思う。
私のことを全身で受け止めてくれていたものの、如月の細い腕は少し震えていた気がする。
それでも黒い結界よりも私を優先して助けてくれたのは、それだけ如月が私のことを想ってくれているのだろうと思った。
花子よりも、岸間よりも、紗穂よりも温かくて強い心があるのだと感じ取れた。
だから、如月を信用出来る。
…… 感性は変な奴だと思うけど。
その時の感覚を思い出しつつも、私はゆっくりと目を閉じた。
布団の温かさが凄く心地良い。
本来なら(夜中ずっと起きていたのだから)眠いはずの岸間はずっと如月の話しを聞いている。
眠くないのかな …… なんて思いつつも、そう思っていた私の方が先に眠りについてしまっていた。
帰りの新幹線の中は、ほぼ全員が深い眠りについてしまっていたらしい。
そのまま東都駅で解散。
大半が寝ぼけ眼で各々の路線へと散る。
元気なのは岸間と紗穂だけで、普段はクールな宮本でさえも大欠伸をしていた。




