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030 ▲ 修学旅行・3日目⑧ *

 行方不明の2組の2人のことは未だに解らなかったが、夕飯はクラス毎のバイキング形式だったため、クラスには普段通りの賑わいが戻りつつあった。


 が、同じ班員の小林さんが巻き込まれた件は、一応リーダーの香穂里に相当なショックをもたらしたらしい。

 その影響か、円達でさえ香穂里に声をかけることが出来なくなっていた。


 なので、私が先行して会場の隅の席を確保する。

 有難いことに、席にはかなり余裕があったために隣に座るような班も居なかった。


 遠音が『食って元気を出そうぜ!どんだけ食えるか競争だ!』なんて言って香穂里の闘志に火を点けてしまっていたので、私は笑顔でそんな2人を眺めていた。


 しかし、そんな私を如月さんは会場の外に呼び出した。

 そこは小さな中庭風になっていて、スリッパのまま出られるように道は舗装されている。


 その会場からギリギリ見えるか見えないかの位置にベンチがあり、そこに如月さんは腰をかけた。


「ここなら大丈夫そうね」


 そう言って私を隣に座るように指示した。なので座る。


「今すぐに、お姉さんが持つ情報が欲しいの」


 その言葉に一瞬だけ驚いて、しかし私は首を傾げる。


「如月さんらしくないデショ …… どうかしたの?」

「気付かれた、と言ったら解る?」


 その発言に私はビクリとしてしまった。

 つまり、円達に如月さんが動いていることがバレた、という見解で間違いないだろう。


「バレた以上は堂々と行為をしても問題無いからね。でも、念の為に結界は張ってあるわ」

『それは、記事の件?』


 私は仕方なくテレパシーを使った。

 如月さんが結界を相手のオーラに突き刺している光景を見て、何となく真似している。

 だけど、その行動に驚いたのは如月さんの方だったようで。


『見様見真似で出来るなんて …… 相当、魔力をコントロールすることに長けているのね』


 なんて誉め言葉を頂いた。


 黙っていたことの1つは、このことでもある。


 私の血筋は魔術師の家系の1人。

 如月さんと似たような境遇で、私の今の両親とも、姉とも血はほぼ繋がって居ない。

 本当の母は死んでしまったらしいが、父は生きている。

 だけど、私のことを実の子供だと認識はしていないと思う。


『私は香穂里の二卵性双生児 ―― つまり、香穂里の双子の妹』


 そう言って私は目をゆっくりと閉じた。


『何故かは解らないけど、まだ赤ん坊だった時から記憶があって。隣に私と瓜二つの子供が居たこと、私が父に殺されそうになったこと、祖父母からロザリオを貰ったこと、…… その全てを覚えていたから、病院で半永久的に眠らされていた香穂里と出会った時は驚愕だったよ』

『似ていないことに?』


 クスッと笑いながら如月さんがツッコミを入れてきたことに驚いたが、しかし、私もクスッと笑い返してしまっていた。


『それもあったが、どちらかと言えば香穂里の悪夢の方かなぁ』

『…… その内容も、話せる?』


 一瞬は戸惑ったものの、しかし話しをしてしまったのは私。

 仕方なく目を開けて地面にあった小石を蹴る。


『香穂里は、自分の母親を(つまり私の母親でもあるんだけど)殺したみたい』


 ふぅと如月さんが溜め息をついていた。そして指先をちょいちょいと動かして、私が蹴った小石をオーラで手前に呼び戻そうとしている。

 が、小石は動かない。


『それが記事の内容だったわ』


 その一言で私は驚愕して如月さんを振り返っていた。

 如月さんは小石を拾い上げて座り直し、私を見つめる。


『恐らく当人も知っているのよ。だから悪夢を見ている』

『…… 病院では、医者は香穂里の妄想だと言っていたが ……』

『…… 言いにくいことを言わせてしまったみたいだし、お礼代わりに答えてあげる』


 如月さんはそう言いながら立ち上がり、悩んでいる私を振り返る。


()()()()()()、お金を積まれたら隠蔽しない医者は居ない』

『・・・?』

『あとね。もう少し本人と話しをしてみた方が良いと思う』


 如月さんはそう言いながら会場の方向の、未だに対決をしているらしい香穂里と遠音を返り見た。


『お姉さんの気持ちが伝わっていないから、岸間さんもお姉さんに相談しないのかな?と思ったから。お姉さんは岸間さんのことを良く解っていても、岸間さんはまだお姉さんのことを知らない。だからあまり信用されて居ないのではないかしら』


 その言葉で私は納得せざるを得なかった。


 確かに、私は香穂里を知っている。中学の入学以前から、今の両親から香穂里の家庭の事情などを聞かされていたのだから当たり前かもしれない。

 だけど、香穂里は私を知らない。恐らく私が居る家庭のことも、そもそも私がある少女漫画家の助手をしていることも、何一つ教えていない。

 それで良いと私は思っていたけど、香穂里はどうだろう。私のことを知らないのに信用してくれ、とは酷い押しつけではないか。


『あぁ、あとね。"炎の魔術師" は、情報屋の間では "闇のペテン師" 又は "闇の詐欺師" って言われているの』


 ”炎の魔術師" とは香穂里の父親 …… つまり私の実の父に当たる人物の通称だった。

 そういう記事を読んだことがある私は大して驚かなかったが、如月さんは私を見て続ける。


『彼の手伝いは多いけど、彼の弟子は居ないと言われているの。それは何故か解る?』

『・・・?』

『彼は他人を対等な人間だと思っていないからよ』


 如月さんはそう答えながら溜め息をついていた。


『もっとも、この情報は花菜子から教えてもらったのだけどね』

『山田さんが?』

『そう。花菜子もあぁ見えて、私とは()()()の異なる系統の情報屋の1人なの。花菜子は結果だけで間の説明をしてくれないけど、情報量だけなら私と同じか、それ以上を持っていると思う』

『あの山田さんが ……』


 見た目はほんわかしていて、どこかこの世の者ではないような印象がある。

 そんな山田さんが情報屋だとは驚きだった。


『まぁ、純粋な情報屋の私とは違うし、元は万屋だから集め方も違う。

 だからか、海外に関する情報は私より花菜子の方が得意なの。私はあくまでも国内だけ。

 花菜子は聞かなければ自分からは言わない性格だから厄介だけど、聞けばお金に関わらず、興味を持てば結果だけでも教えてくれると思うわ』


 如月さんはそう言って遠音を見た。遠音はこちらが気になるのかチラ見している。


「終わったみたいだし、帰ろうか」


 そう言われたので、私は素直に頷いて帰ることにした。



 就寝前の美川先生の見回りの時に、2組の残り2人が無事に発見され、都内の病院に搬送されたことを知った。

 しかし、もうその頃には香穂里の機嫌はすっかり治っていたためか、それとも私が気疲れしてしまったのか、その情報から先生に質問をする余力も残されてはいなかった。


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