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026 ☈ 修学旅行・3日目④

 如月が携帯に出てからしばらくして、通話を切った。浮かない表情をしている。


 その間に店の中で買い物をしていた香穂と紗穂が仲良く店から出て来た。


「どうかしたのか?」


 私の問いに如月はやっと顔をこちらに向けた。


「え? あぁ、いや …… でも、関係はあるのか ……」


 ブツクサと独りで呟いてから、如月は私らに向かって言葉を放つ。


「小林さんが "愚者の塔" に行ったみたい」

「…… え?」


 これには香穂だけではなく、紗穂も動作を止めて如月を見つめ返していた。


 しばしの沈黙。


 その後で、香穂が口を開ける。


「ちょっと待って。"愚者の塔" って言ったら超能力者の犯罪地域でしょ? そもそも何で非能力者の小林が向かうワケ??」

「うん。だから私も若干困惑しているのだけど」


 如月の返答に香穂が頭を掻く。

 と、紗穂が目を細めて手を口に当てながら答える。


「もしかして、塔の地下の噂に関係する?」

「塔の地下の噂って?」

「あぁ、超能力者と同等の魔術を扱える鉱石、別名 "魔法石" のことね」


 香穂の質問には如月が答えた。


「 "魔法石"? それなら私もいくつか持っているけど。…… それが発掘出来るの?」


 香穂が驚いた様子で如月に訊ねたが、如月は頭を横に振っていた。


「残念なことに発掘は出来ないし、そもそもそれは噂だけ。あそこには、単純に沢山の "魔法石" が捨てられているだけなのよ。

 良く考えてみて。 "愚者の塔" に集まる人はどんな人?」

「超能力者でも、強さを求めている人デショ?」


「じゃぁ、弱い人や一般人は近付けないの?」

「近付けない訳じゃないと思うけど」


 如月の質問に答えた紗穂は首を傾げていた。

 如月は大きく溜め息を付いてから腕を組む。


「塔に入ってみたい人は、念の為に交渉用や帰還用に "魔法石" を持って入るのよ。"魔法石" には魔術を使う為の魔力が詰まっているからね。でも、本来の "魔法石" は魔術を扱う魔術師か、その類の超能力者ではないと扱えない。だから一般人があの塔に入ったとしても、巨大な鏡の迷路か結界あたりの影響で帰って来ることが出来ないの」

「た、確かに塔に入ったら出られないって聞くけど! あれってホントだったの?」


 違う所に驚く香穂には、紗穂だけではなくとも、流石に噂を知っていた私でも呆れ返ってしまっていた。

 が、如月だけは呆れることなく続ける。


「本当よ。でも興味が勝ってしまうのでしょうね。

 だから塔の住人に交渉するの。"魔法石" を渡して帰り道を案内してってお願いするそうよ。塔の住人からしてみれば、高価な "魔法石" の方が入手しにくいモノだからね。

 もっとも、どうして地下に溜めているのか、までは ”売れる情報" だから、教えないけど」


 私の質問に即答した如月は、そう言ってからすぐにどこからともなく右手の中に短刀を現していた。

 その瞬間を私は見られなかったものの、きっとあの時と同じ方法だろうと思う。


 紗穂は見ていたらしく、ほう、と小さく感嘆の声を漏らしていた。


「私独りで行ってくるから、3人は2組の人に連絡を取って欲しい」


 何で2組?と3人で首を傾げれば、如月は心を読んだのかすぐに答えてくれる。


「電話をかけてきたのは千尋 …… 宮本さんね。一緒に行動をしているのは麻生さんよ。

 その麻生さんと小林さんが一緒に行動をしていなかった、ということは、小林さんは違う班と行動を共にしていた可能性が高い」


「確かに小林は2組の奴らと仲良いが、」

「猪塚さんと小池さん、でしょう?」


 如月の発言に私は背筋を凍らせた。それは2人も同じだったのか、如月を見たまま固まっている。

 と、如月は私らを振り返ってニッコリと微笑んだ。


 どうやら如月の情報は2組にまで及んでいるらしい。

 それも、誰と仲がいいのか、まで網羅しているとは思ってもいなかった。


「その班が何人居るのか知りたいの」

「えっと ……」

「お姉さん達の誰かが班の人数を声で教えてもらえたら私の耳にも届くから大丈夫よ」


 先回りして答えつつも、如月は普段なら身に纏っているはずの、最も外側の結界を解いていた。そして、前に聞いていた2つ目の結界を濃くしている。しかも、その外側の結界で抑えられていた巨大なオーラを足に集結させている。

 2人にも見えていたのか、私と同じように2人も目の前の如月をただ見つめているしか無い。


 それほどまでに時間が惜しいのか、そんな空気が私にも伝わって来る。


「じゃ、頼んだわよ」


 そう言うなり、如月は軽く地面を蹴った。

 すると、たったそれだけで目の前から如月の姿が消えてしまっていた。


 上空を見上げれば、既に遠くの建物の上を飛ぶ如月の姿が写る。


 唖然としていた香穂が空笑いし始めた。


「やっぱり、凄いわ。あそこまで凄い人、沢山見て来た中でも、初めてかもしれない!」

「というか、怖く無いのか? "愚者の塔" の単語を聞いただけでボクは足の震えが止まらなくなっていたのに」

「そもそも、オレは余裕たっぷりの如月が怖いなぁ。まだまだ何か力を隠していそうな ……」


 各々の感想を気ままに言い合って、私らはほぼ同時に黙りこんでしまった。




 朝の如月のおかげか、あれから壺を眺めていたら、何故か結界にも色と形があることが判明した。


 その結界の色と形によって種類が違うのだというのは帰って来た如月の返答。

 つまりは、これで如月は判別しているということなのだろう。


 一般的に "オーラ" とか "気" とか呼ばれているモノは、人の体から常時放たれている螺旋状のモノ、もしくは湯気のようなモノのことのようだ。

 色は人によって違うが、自分のは鏡で見ない限り良く解らない。


 ちなみに、私のオーラは白のようだった。量は少ないものの、それは単純に私がこのオーラの使い方を解っていないからだと思われる。

 前から他人のオーラの色は何となく感じていたものの、ここまではっきりと見えたことは無かった。


 そのオーラとも違う、はっきりと壁のようなモノが如月の言う結界だと思っていた。そして既に、壁のようなモノ以外にも、霧のようなモノ、線状のようなモノなどを街中で発見している。


 如月はその線状のような結界を応用して相手のオーラに根を張り、そこを通じてテレパシーを送り込むらしい。そうしない限りテレパシーを受け取れる超能力者の全員に声が通ってしまうとか。


 また、如月は壁のような結界で自身を覆うことで、自身の巨大過ぎるオーラを隠しているのだとも教えてくれた。

 その結界を厚くすることでオーラを完全に消すことが出来るらしく、その術を応用することで(正式名称は忘れたが)『能力検査』を回避出来るらしい。

 つまりは、超能力者であっても一般人に思わせることが出来るということらしい。


 如月曰く、自身のオーラが見えるようになったのであれば、このオーラをどこに動かすかによって、自分の身を守ることが出来るようになるらしい。

 もっとも大した守りではないらしく、精々相手のオーラを使用した攻撃から防御出来る程度らしいが、それでも一般的に弱い超能力者からであれば、十分有効な防御方法ではあるらしい。



 そして如月はこうも言っていた ―― 私なら体でその術を覚えているはずだ、と。


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