025 ⛩ 修学旅行・3日目③
もう3日目を迎えるというのに、私はこの旅行がとてもつまらなく思えていた。
班の話題は流行ファッションのことや、今話題のドラマや俳優のことなど。
それも、ずっと同じ話の繰り返し。
自由行動よりも、ツアーガイドや先生の説明を聞いている方が面白いくらいに、私は全く面白みを感じられないまま円達と一緒に行動していた。
去年の2年生の時に行った修学旅行では、大半が能力のことについて議論や討論を交わしていた。
超能力者だけの学校というのは、簡単に言えば専門学校のような所。
工業高校が理系であることと同じで、前の学校では能力のことに関する内容を重きに置いていたからか、新しい属性が発見される度に、誰がその属性の魔術をいち早く習得するか、などで競争して盛り上がったくらいだった。
その向上心が、この学園の生徒からは感じられなかった。
その点が恐らく、つまらなく感じているのだろうとは思う。
そのためか、今興味があることと言えば、紗穂里の属性のこと。
”土" や "石" 、その上位に当たる "砂" や "岩" を属性に持つ超能力者は多数いる。だけど、あの時の紗穂里の能力は明らかに "大地" のような気がしてならなかった。
"大地"の属性は "雷" と同じくらい、滅多に居ない。しかも、紗穂里の個人データには属性などのデータが無かった。つまりは、学園側が毎年行っている超能力者専用の健康診断、通称『能力検査』の最初の段階 ―― 一般人か超能力者かを分ける電子検査に引っかかっていない、ということになる。
大地に働きかけて巨大な壁を作ったということは、それだけ大きな魔力を体内に秘めているということになり、それだけの魔力が蓄えられるということは、魔術に関する訓練を積んでいるということになり、結果的に超能力者であると電子検査にも診断されているはずなのに。
…… そう言えば、過去に咲九が検査を抜ける方法がいくつかある、とか何とか言っていたような気がしなくもない。咲九の弟がその内の1つを小学生で使っているとか何とか。
まさか、紗穂里はその方法を知っているのだろうか。
ちなみに、"大地" の属性で思い出すのは "地神" …… "属性神" の1人で "大地" を司る神のこと。
"属性神" は5つの属性の頂点に立つ神で、上から2番目に偉い神のこと。
私もその "水" を司る "水神" ではあるものの、本来の神であればあるはずの過去の記憶が無いので、しっかりとした自覚は無い。
噴水広場で紗穂里と会話をした後でメルアドなどの交換をしたものの、まだ一度も使ったことはない。
でも、あれから家のベッドの上で考えてみれば、そもそもどうして「私が "水神" である」とはっきり解っているのか疑問に思った。
が、その答えは解らない。きっと、誰にも。
しかも、同時に怖いことも脳裏に浮かんでいた。
――もしも、他の "属性神" も記憶を持っていなかったら?
私が記憶を持っていないのだから、可能性としてはあってもおかしくないことのような気がした。
それに、そもそも "属性神" は "天界" に住む "天界人" だと家の古い書物には書かれてあった。
しかし、私は "地界人" だと言い切れる。
私もそのあたりのことは、よくは知らない。
ただ、有名な研究者の話しだと、この世界のことを "地界" と神々が呼称しているので、研究者は勝手にこの世界の人類を "地界人" と称したらしい。そんな超常的な神々 —— 属性神など —— は ”天界” と呼称する別世界に駐在しているそうで、基本的に地界へ降りることは無いらしい。
なのに今、天界そのものが存在しないことは、ある有名な付喪神の研究によって明らかにされている(しかし、その研究が偽りではないかと言っている研究者も居るらしい)。
最初は私の家柄が天界人なのかと疑ったこともあったが、古くからの家系図が巻物として残されてあり、且つ有名な宮本家の純粋な末裔であることから、間違いなく私は地界人と言える。
その結果から、もしかしたら属性神が地界人になったことで、過去の記憶を失くしてしまったのではないか、という持論に至った。
が、そう考えるとおかしいことが出てくる。
それはどうして属性神だけなのか、という疑問。
何も "天界" に住んでいるのは属性神だけではない。
咲九がそうだろうと言われている "新しい神" の1柱の "音神" や、過去に私を守ってくれた亡き祖父は "四季神" の1人の "冬神" だったが、そのどちらも過去の記憶を保持していた。
ましてや咲九は、過去と現在の記憶のギャップから学校に通っているのだと前に聞いたことがある。
また、亡き祖父は過去の記憶を元に、最も偉いとされる "四大神" の1人の "死神" と面会をしたことがあったらしい。その "死神" もまた、過去の記憶を元に "女神" が現代に存在していないことを祖父に教えたらしいと父から聞いたことがあった。
そう考えると過去の記憶は、本当は私も持っているのではないか、と思えて来る。
が、残念なことに思い出そうとしても自分の幼い頃の嫌な記憶ばかりが蘇ってしまうのだからどうしようもない。
そんなことを考えていたら、不意に私の携帯が震えた。
慌てて携帯に映った文字を見ても、番号しか載っていない。
不審に思いつつも、長く鳴っているので電話に出てみる。
「もしもし?」
『あ、宮本さんの携帯で間違いないですか?』
その声を聞いて私はすぐにピンと来る。
「美川先生?」
その単語に反応した円達が会話を中断して私に注目する。
そんな中で、私は続けた。
「先生が『迷子くらいの緊急ではない限り使用禁止』にした生徒の携帯に電話なんて …… どうかしたんですか?」
少しだけ皮肉を言ってみたが、先生はそれどころではなかったらしい。
『あの "しよう" は私事ということで使うという意味では無かったのだけど …… あぁ、今はそれどころではないの。
小林さんの携帯電話から『助けて!』って電話が来てからすぐに切れてしまったのよ。
もし超能力の関係の事件に巻き込まれたのだとしたら大問題だし、今回の引率の先生の中に超能力者は私だけだから ……。
ほら、超能力者ってやけに直感だけは良いでしょう? 何だか不安で仕方ないの!
宮本さんなら、他の超能力者のことやその子達の携帯番号を知っているかと思って!』
「…… つまり手伝えと言うのですね?」
先生らしからぬ発言に若干どころかかなりイラッとしたものの、しかし今は小林さんの行方を探す方が優先ではある。
私の発言から先生も私の苛立ちに気付いたのか、小さく "ごめんなさい" 何て言ってはいたものの、確かにこう言う時に限って独りというのは何とも恐怖に思う気持ちも解らなくはない。
それに、小林さんは円のグループに近い人ではある。
"近い" というだけで常に一緒に居る訳では無く、むしろ2組の子とつるんでいる傾向ではあるが。
「…… 解りました。小林さんの行きそうな場所に心当たりはありますか?」
その発言で瞬時に理解したのか、電話越しの先生の言葉を掻き消すくらいの声で円が答える。
「 "愚者の塔" ですわ! 前々から小林さんはソコに行きたいとおっしゃっていましたわ!」
流石に先生にも声が届いたらしい。
『あの地域は自由行動の範囲外だと注意したのに!』
"愚者の塔" と聞いて、私は背筋を凍らせていた。
というのは、あの塔は過去に両親に捨てられた超能力者が自然に集まる場所 ―― 無法地帯と言ってもいいほどのツワモノしか居ないと噂では聞いている。そこに足を踏み入れたら最後で、塔からは出られなくなるとか。
もっとも、まさか超能力者ではない小林さんが塔の結界に入れるとは思っていないが、その塔の周辺一体も同じような無法地帯になっていて、警察でも相当な超能力者ではないと太刀打ちできないと言われている。
高頻度で観光客が誤って足を踏み入れてしまって、未だに殺人事件までは起こっていないまでも、そのギリギリの犯罪は週に1度はテレビでニュースになっているほどだった。
ちなみに、表面上は冷静でも内心で冷や冷やしている私だったが、円以外のメンバーは全員揃って顔を青くさせていた。
この様子では、恐らく美川先生も震え上がっている可能性が高い。
となると、私の中でこの事態に対処出来る人は1人しか思いつかない。
「…… 解りました。私から知っている超能力者に連絡をしてみます。先生は地元の警察に連絡をお願いします。
それから、念の為に他の先生と一緒に今居る待機場所から離れないで下さい」
『離れないでって …… 塔の傍に行った方が良いのでは?』
「いえ。待機場所に小林さんが自力で戻って来る可能性が少なからずあるためです。それに、塔の傍に寄り過ぎて敷地内に入ったら二次被害が出る可能性もありますよね?
…… そういう私も怖いので、ある生徒に頼んだら塔の中には入りません。なので安心して下さい」
その発言から先生は何か言っていたが、円ははたと気付いたらしい。
「まさか、如月さんに?」
「先生! 解りましたね?!
警察に連絡をしたら絶対にソコから動かないで下さいねっ?!」
『ひぃっ!!』
そんな言葉が聴こえた気がしたが、私はそのまま通話を切った。
そしてさっさと咲九の番号を映し出している。
先生が直接かけなかったことからも、咲九のことだから、携帯をこっそり持ってきていても先生には書類を提出しなかったのだろう。
もっとも、誰からもかかってこないように電源をオフにしている可能性はあるが。
それでも、私は迷いなくかけた。




