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251 ☉(全) 互いの禁術で

 ――怖くない、何て言えば嘘になる。


 それでも、私は千尋に賭けた。




「全世界の神?」


 私を振り返った彼女が笑う。


「じゃぁ、その神はさぞかし、忙しくて大変でしょうね」

「何で?」


 驚く私を他所に彼女が不思議そうな顔をする。


「今だって、神は仕事を分担しているでしょう? それを独りで抱え込むようなもの。魔力がいくらあっても足りないわよ」

「全人類の信仰と魔力を一気に集めれば……」

「そう。だから、天帝は神という存在を生み出し、仕事を分担したの」


 彼女は急に真面目な表情をした。

 そこには金色の目があったので、私も思わず固唾を飲む。


「それに、神は独りではちっぽけで、願いを叶える程の能力は持ち合わせていないの。願いを叶えられるのは、1人の存在ではなく多数の存在があってこそ。だからこそ、天帝は神をいくつも生み出した。

 天帝は、神で言う信仰心を一度も得たことはないし、魔力もそんなに持っている程では無いわ。だから神を生み出す時でさえ、数千年に一度、2つの核の大元を創造するだけ。体も無ければ完全な魂でも無いから、育てるのは結果的に他者だし、育ちきる前にその者が死ねば無と化す」


「じゃぁ、世界の神というのは……」

「有り得るとすれば、天帝のことだと思う。でも、天帝は成りたくて成れる存在ではないし、そもそも"神"という分類には当て嵌まらないから、その言い方自体が間違っているわね」


 彼女は答え、しかし、と呟く。


「全ての核を集めても、その中に天帝が生み出した生粋の核が存在するとは限らない――ううん。むしろ、存在はしないと断言しても良いわね。そう考えれば、確かに世界の神と呼ばれる存在には、成れるかもしれない。でも、それだと過去の彼女がやったことと同じ……」

「え?」


 私は混乱して、訊ねる。


「良く解らないけど……成れないってことで、良いの?」

「……訂正するわ。成れるけど意味は無い、が正しい答えね」


 やっと結論を出した彼女が、何故か悲しそうに失笑していた。


「何だ。じゃぁ、やっぱり……」

「でも、その者は覚悟せず死を迎えると言い切れるわ」


 答えた彼女は窓の外の空をを見つめる。


「全てを集めても、その者は生きた存在には成れない。でも、死んだ存在にも成れない。その存在に成った時、一部の核は手元に残っても、ほぼ全ての核は弾けて他者の手に渡る。ただし、その存在になるまでに、その重圧にその者が耐えることが出来れば、の話しだわ」


「耐えられなかったらどうなるの?」

「世界が終わるわ。それも、悪魔の部屋の比では無く、想像以上の悲惨な出来事になる。だって、全ての神の核を入手することは、そもそも欲望の1種でしょう? 1個を入手する度に、その者が最初から多少は持っている瘴気も一緒に回収することになるから、相当な重圧になるはずよ」




 彼女との出来事が蘇る。


 あの日、彼女はその光景の片鱗を教えてくれた。

 それが岸間家の禁術を引き継ぐ為の儀式の1つだと知ったのは、かなり後の話し。


 それでも、二度とあの光景は見たく無かったし、本来なら思い出したくもなかった。


 世界の神を名乗る邪乃丸は、今はまだ、その事実に気付いて居ない。

 否、これからも、そのことには気付かずに輪廻するつもりなのだろう。


 その輪廻先、つまりは過去の世界で、邪乃丸がどれほどの内容を覚えているかは解らない。

 でも、その邪乃丸があの重圧に耐えられる保証はどこにも無かったし、まして生前の彼女が "二度と輪廻しない" と遠回しに断言したことからも、輪廻すること、そのものが世界にとって危険なのではないかと感じていた。


 ――千尋の迷いも、解る。解ってしまう。


 私もまだ、紗穂里が居ない事実を信じられないでいたし、元より四大神が生存していたことも、山田が面倒と口癖のように言っていた理由も、妹と偽って鬼神を紹介してきたことも、邪乃丸を純の兄と信じていた円がモンスターと化したことも、如月が死んだことも、全てが嘘ではないかと今でも勘ぐっている。


 やけに冷静で居られるのは、逆に事実を受け入れられていないからだと思う。

 覚悟はしていたとしても現実はいつも突然で、『私らのために』と待っていてはくれない。


 だから、私は体を動かすことにした。


 そもそも、あの兵器的な神器を扱えるのは、魔物で神様でもある千尋にしか出来ないことだった。

 他の属性神は、核を奪われ、神器を託した時点でただの能力者と大差ない存在にまで成り果てる。いくら核が戻って来るとはいえ、すぐに戻る訳じゃない。


 故に、残された私と純が出来ることと言えば、千尋にその為の時間を稼ぐことくらいだった。



「純!」



 私は今の相方の名を呼んだ。

 純がチラッと私を見たことが解る。


 邪乃丸は既に紗穂里を食し終えたらしく、新たな触手を私らに向けて放っていた。

 が、速さで競い合うほどの仲だった私らには、流石に手古摺っているようにも感じられる。


 しかも、あの触手が千尋に向かわないようにする為には、攻撃を適度に当てることしか手段は思いついていない。

 もっとも、適度といえど安易な術では相殺されてしまうことなんてわかっていた。


「禁術を展開する! 巻き込まれないようにして!」


 彼女から教わった唯一無二の禁術を思い返しつつ、私は巨大な魔法陣を上空に生み出した。

 が、ふと下を見れば、その対面に当たる地面に、色も形も対照的な魔法陣が描かれてあった。


「貴方だけに使わせる訳には、いかないもの」


 純は答え、ニヤリと笑った。

 それだけで理解した私は、思わず失笑で返してしまう。


 そして、純とほぼ同時にその禁術を発動させる。


 ――お互い、巻き込まれることを承知で。


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