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249 ☉(全) 戦闘にならない理由

 私がパパに立ち向かって行っても、

 パパのすぐ目の前に神器を突き出しても、


 ――パパは何もしなかった。動かなかった。


 攻撃は的中し、パパに纏わりついていた "黒い何か" を散開させる。


「お、まえ、が――」


 急にパパが話し始めた。

 驚いて、私は思わず圧を弱める。


「苦しそう、だったから――すまない」


 それは、パパから初めて聞いた謝罪の一言だった。


 恐らくは、今までの事、全てに対しての私への謝罪。


 ――もっと早く、真実を知りたかった。


 パパが私から距離をとる。

 そして苦しむパパの、その口元から言葉を読み取った。


 しかし、パパはまた、あの "黒い何か" に纏わりつかれてしまう。


「パパ!!」


 しかし、どこからかやってきた真っ黒な蟲たちが――Gにも似た姿のソレが、私のパパを真っ黒に染め上げてしまう。

 まるで影が自立しているかのような、そんな姿に変貌させられてしまった。


「パパ……っ!!」


 しかし、絶望に暮れる暇など無かった。


 蟲に包まれたままのパパが、私に獣の如く襲い掛かって来る。

 気付いて神器の柄で受け止めてしまったが、パパの蟲は私にも飛び移って来た。


「い、いやぁ!!」


 パパを殺すことも、もちろん嫌だった。

 だけど、それ以上に黒い蟲が気持ち悪かった。


 全身に纏わりつく蟲は増えてゆく。


 離れなくてはいけない、これ以上は危険だと、頭では理解していた。


 だけど、パパから離れられない。

 パパの重圧に、私の心まで押し負けそうになっていた。




「惑わされるな!!」


 急に遠音の声がして、私は我に返っていた。


 ——遠音はやっぱり生きていた!!




『そうね。うっかりしていたわ。

 ――ここは幻術の中よ!』


 それにすぐさま、答えたのは純だった。


 その一言で、更に頭からモヤが晴れていく。




 気付けば、パパなんて存在はどこにも居なかった。


 視線の先に居たのは、巨大な蟲。

 真っ黒で、手足がムカデのように多くて、それらが触手のように蠢いている。


 未だに動かせない私らの身体は、その触手によって縛られている状態だった。


 しかし、各々の神器が結界を張って私らを守ってくれたのだろう。

 薄くても丈夫な結界の上から縛られているだけなので、触手による浸食は始まっていなかった。


 先程から物理的に解こうとしているが、結構キツく縛られているので解けそうにもない。

 触手の隙間から見えた純は、術の方から解除を試みている様子だった。


 天界では "幻術使い" と言えば風神、とまで言われていたくらいの人物。

 それでも、この術はなかなかに厳しい状況らしい。


 すると、不意に頭上から ミシッ ミシッ と何かにヒビが入ったような音が聴こえた。


「神器の結界を押し広げてみろ!」


 遠音のアドバイスで、なるほど、と思ったのだろう。

 私よりも先に、純はあっさりと触手の檻から脱出できていた。


 結界が苦手なので苦戦しつつも、私も何とか檻から脱出する。


 すると、


『うわわーん!』


 真っ先に紗穂里が抱きつきにやってきた。

 思わず呆れながらも、仕方ないので紗穂里の頭を撫でてあげる。


 その間にも、純は千尋に助太刀していたらしい。

 見やれば、千尋もやっと解放されたところだった。


 そして巨大な蟲を見据えれば、靄がかかった後、人型のような存在へと姿が変わっていた。

 足のようだった触手は黒いヒモへと変化している。


『幻術には幻術で応急処置するのが一般的、でしょ?』


 どうやら純も私らへ幻術を使って上書きしたらしい。

 千尋も不思議そうに動きだしていた。


『でも、私達、いつの間に術をしかけられたのかしら?』

『何を今更……この建物の周囲にある、超透明で超薄い結界に入ってからずっと、俺らは奴の幻術の中に居るんだよ』


 遠音はそう言い、空から降って来た。


 巨大なタコの動きを警戒しつつも見上げれば、真っ黒の天井には色味の異なる箇所があった。

 どうやら遠音はそこから入ってきたらしい。


『むしろ、この建物自体が幻術で創造されているからな。全ての術が解除された瞬間に外に放り出されるだろうさ』

『でもこの術を解かない限り、相手には私達の攻撃も届かない……の? さっきから、遠音、天井からアレに攻撃していた気がしたのだけど?』


 千尋の疑問に遠音は頷き返し、溜め息をつく。

 私の角度からは見えなかったものの、千尋は幻術にかけられながらも、そんな遠音を冷静に見ていたらしい。


『見ていたなら、早い話。邪乃丸自身には実体が無かったのかもしれん。

 要は、憑依という方法でしか実体を持つことが出来なかった。それも憑依でしかないから、言葉そのものを持たなかったのかもしれない。

 そう考えたら、感情を伝える手段はこのテレパシーだけになるからな。天界での邪乃丸は、テレパシーでしか会話、出来なかっただろう?』


『つまり私の兄上は、邪乃丸に憑依されているのね?』

『恐らくは』


 純の一言には軽く受け流していた。

 どうやら単独行動の多かった遠音も、千尋が学園内で美川先生に言っていた仮説に辿り着いたらしい。


 やはり私では雷神には敵わないな、と思いながらも、先に進まなければならないと感じて疑問を伝える。


『でも、目的は? 輪廻のことは? やっぱり、属性神への復讐……?』

『いや。そこまでは、オレもまだ解らん』


 遠音は言い切って千尋を見た。

 相手から攻撃の意志を感じられなかったから目を離したのだろうと思う。


 もっとも、視線を感じられないことからも、見えている相手もまた幻術の一部でしかないのかもしれない。

 遠音に言葉を投げかけられた千尋もまた、溜め息をついて腰に手を当てている。


『じゃぁ、まだ邪乃丸とも、邪神とも断定出来ないのね?』

『まぁ。ただ、そのどちらかで間違いないだろうけどな』


 答えた遠音は、どこからか1冊の手帳を両手の中に取り出していた。


 咲九の、とは異なる色合いの丁重。

 でも、その表紙には天使の模様が描かれてあった。


『女神の手帳の中に、その答えが書いてあったからな』

『読めたの?』

『最初と最後だけ、な』


 目を丸くした純の質問に遠音は答えた。


『天界から逃れる時、オレらは自分らのことで精一杯で、女神と死神のその後を、天界崩壊後のことを、全く知る余地も無かった。

 それは、女神と死神がオレらの天界での記憶を代償に選び、各々の願いを閻魔に叶えてもらった為だと書かれてあった。しかし、それには代償の方が大き過ぎたらしい。だから属性神は天界での記憶を失った。

 ただし、女神の願いによって、邪乃丸に染められた邪神から邪神の核を剥奪し、二度と属性神を攻撃出来ないようになっている、らしい』


『じゃぁ、あの時の邪神ではない?』

『昔の邪神は転生しているかもしれないけど、今の邪神が私らを敵に回しているとは思えない、ということね?』


 紗穂里の発言を無視して私が答えれば、千尋はうーんと悩んでいる表情で答える。


『でも、直接攻撃されたことはないから、可能性としては残っているような気がするのだけど……』

『今も攻撃、してこないわよ……?』


 純の疑問には、私も遠音も答えることは出来なかった。


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