248 ☈ vs.悪夢結界 *
案の定、幻術によって4人は拘束されているようだった。
だが、何故なのか私だけは受け入れを拒否されているらしく、黒い建物の中には入ることが出来なかった。
その間にも、4人は蟲に浸食されていくのが各々の魔力の流れから理解する。
「さて、と」
黒い建物……に見えるモノは、実際には蟲と化した人間が悪夢結界の外壁となっていた。
何百体もの蟲が私に襲い掛かってくるものの、ひょいひょいとステップで避けては、しっかりと2、3度踏んで撤退してもらっていた。
時折やってくる、隙間からの奇襲には手にした簪で対処している。
「急所を狙ってくるのが面倒だなぁ。これから起こることが憂鬱だわー」
と答えながらも、今の一言にも例の漢字が2つも入っていることに気付き、失笑する。
「どうしたものかねぇ」
「なぁ~に もたもた しとるん?」
聞き慣れた声がした。
振り返ると、真っ白の鎌を振るう山田の姿があった。
「何でアンタがこんなところに?」
驚かないまでも素直に感想を述べれば、
「そらこっちの台詞や! キミならもっと先に居ると思っておったわ!!
……まぁ、大体の察しはつくけどなぁ」
答えた山田は鎌で周囲の蟲を一掃していた。どうやら敵ではないらしい。
でも、それが解っただけ十分だった。
私が適度に(魔力を消耗しないように)戦っていた分まで消化してくれたお陰で少しの余裕が出来ている。
事情を聴こうとしたら山田から口を開いてくれた。
「 "ホンマの最後" やから、敵に奪われたモンを取り返しに来たんよ。敵もなかなかに姿を現さないから、こちらも手出しのしようがなくて。やっと時がきた!ってやつな!」
「アンタも、何かを奪われていたのか?」
「そやで。といっても、ウチにとっては取り戻さなくてもええモンやけど!」
「ご主人様、それ以上の雷神の足止めはこちらが不利になります」
そう答えたのは、一度だけ出会ったことのある、確か羽生の妹だったと思う。
たしか黄と名乗っていたか。
その黄は結界で保護した素手で蟲を丁寧に握り潰している。
「黒い悪魔の処理はウチらに任せとき。アンタはあの悪夢結界を何とかせぃ」
山田が私にそう命じながらも白い鎌を一振るいさせた。
それだけで数百という蟲が一掃されている。
確かに、ここは山田の計画通りに分担した方が良いかもしれない。
「恩に着る」
「お互い様、ですよ。私達では、あの悪夢結界は解除出来ませんので」
黄が本音を答えたことで、山田が軽く怒っていたようだったが。
しかし、2人のおかげで蟲の標的は山田に変更されたらしい。
すんなりと結界内に入ることが出来た。
——おかしい!
そうはっきりと思ったのは、何重にも組まれた悪夢結界を3つほど解除した後だった。
悪夢結界は、本来であれば侵入することに難はない。
その幻想空間の中に埋め込まれた魔石か術者の、2つを壊すだけで悪夢結界が解除されるという、意外に安易な仕組み。
もっとも、悪夢結界そのものは、黒い仮面を所持している者にとって触れることが出来ない代物だったらしい。
悪夢結界に触れた者は一瞬にして溶けて蟲と化してしまっていた。
ちなみに、おかしいと感じていたのは最初から。
それがはっきりと解ったのが、今。
通常であれば、幻術だと解っている者が幻術に取り込まれることは少ない。
だから、既に "例の靄" で幻術を経験していた属性神の4人であれば、気付いて避けることが出来たはず。
まして、同じタイプの幻術を使える風神であれば、その幻術自体を解除することも出来るはずだった。
それが、私がこうして悪夢結界を解除していても、4人の誰からも幻術を解除する様子が見られないのだ。
『気にしなくていい』
不意に声だけが聴こえた。
だが、その声には聞き覚えがある。
『だから立ち止まるな。そのまま進め』
一方的な命令だった。
が、そのことで大体を察する。
もしかしたら、悪夢結界と平行して解除しなければならない他の術があるのかもしれない、と。
私に見えている4人に動きはない。
ただ、瘴気の蟲に包まれてはいる、と思う。
だが、まだ手が届く距離でもなければ、届いたところで幻術を解除する方法を知らない私では巻き込まれるだけ、という悲しい現実も十分に理解していた。
――歯痒い。




