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243 ☈ 神になれなかった者 (*)

 直感で避けれた舟山の洞窟は、その結界ごとごっそりと繭に持っていかれてしまっていた。

 それまでに全員を避難させていたために命に関わる被害は無かったものの、この影響で結界の中の森をも狙われていることを知った。

 しかも、結界には巨大な穴が空いてしまっている。


 結界自体は私が居たのですぐに修復出来たものの、破壊された自然は元には戻らない。


「くそっ!!」


 私の、私自身への苛立ちの言葉に住民が驚いていた。

 一斉に注目されて、何だかもどかしい。


 そこに蓮が山神の少年と共に戻って来た。


「ずいぶんと派手にやられましたね」


 蓮は私を見て安堵の表情を浮かべていたものの、山神は思うことがあったらしく、自然の傷跡に触れてから私らを振り返って答える。


「これは、自分達が居る所為だと思う。ううん……自分達が多く一ヶ所に居てしまったから、いけなかったのだと思う」

「そうだな。分散してりゃ、狙っては来なかっただろう」


 もっとも、繭の存在をすっかり忘れていた私が悪い。

 だから悔しかったのだが、山神は住民を見回して続ける。


「こういう時も来るかと思ってはいたけど、僕の想像よりも早かった。申し訳ない!」


 山神の言葉に絶句したのは私だった。

 住民は山神をや私を責めることはしなかったのに、山神は素直に謝っていた。


 住民が互いに目線で会話し、山神の所為じゃないと答える。

 山神もすぐに普段の少年に戻ったものの、私はどうしようもない自身への怒りに包まれていた。



 そして。



「黙って出て行くなんて、雷神らしくないですね」


 森の結界を出ようとした私に蓮が声をかけてきた。


 違う。

 声はあの直後にかけた。


 ただ、必要最小限の相手にしか言わなかった、それだけのこと。


 振り返って蓮を確認しながらも、蓮以外の気配が少ないことに安堵して答える。


 新しい山神の少年が出来たのに、私には謝ることは出来なかった。

 私が全員を避難させることが出来たのは、私を信用してくれた住民が居たからであって、その住民が周知してくれたから出来たこと。


 有難うと、感謝の一言すら私には浮かばなかった。


 それが悔しかった訳ではない。

 少年よりも遥かに大人なはずなのに、すぐに言葉に出来なかった私の精神的な未熟さを恥じていた。


 山神が居れば、この森は守られるだろう。

 そう思ったから、私は私のやれることを、やるべきことを成そうと思っただけ。


「オレは守られてばかりで、まだ何も成してはいない」

「今更ですか?」

「あぁ、そうかもしれん」


 答え、目を開ければ、蓮の隣に咲九が居るような気がした。


 ――咲九の死も、私がここに居ることも、全てはこの一言で良い気がする。


「それも運命って奴かもしれないぜ?」

「……は?」


 蓮は呆れた表情をしていた。

 が、その表情も既に見飽きていた私は蓮に背中を見せ、結界を見つめる。


 考えていても、悩んでいても、嘆いていても、悔んでいても、何も始まらない。

 何一つ意味は無さない。だから、


「 "仲間" の所に戻るわ」

「……そうですか」


 蓮は笑顔で答えてくれた。

 だから、もう振り返らない。


 しかし、その複数の気配はすぐ近くまで来ている事は解っていた。だから()()()


「解決するまでは、森のこと、山神のこと、後のことを、頼む!」


 山神の気配が、結界の主の気配が、蓮が一斉に頷いてくれた。

 それで満足した私は独りで結界の外へと出ることを決意した。




 外の世界は穴だらけなのに、人気も無いのに、異様なほど煩かった。


 それは、数多くの精霊が私に危険を教えてくれたから。

 避難するなら案内する、と教えてくれた奴も居た。


 が、それらを丁寧に断り続けていれば、数匹の精霊が私の後に続いてくれていることに気付いた。


 しかし、私の足はそれでも歩みを止めない。

 否、止められるほど心にも時間にも余裕は無かった。




 この世界は理不尽だと思う。

 平等ではない家庭に生まれ、平等ではない環境で育ち、何れ死ぬ。

 その間にどれだけの生を全う出来るか、それが魂に課せられた使命だった。


 しかし、それらの運・不運は神様の所為にされる。

 運命を呪う者も、嫌う者も居る。


 私も現にその1人だった。


 でも、神様には感情というモノが希薄で、同情という単語すら存在しない世界。

 そんな神様が平等に魂を分けられるはずもない。



 "悪" という属性は、恐らくは "心" という属性だったのではないか、とまでは咲九が生前に見出した結論。

 その推測だけでは信用していなかったものの、宮本の世界に入ったことで確信に変わっていた。


 これもまた推測の段階ではあるものの、その "心" という属性の長に当たる "邪乃丸" にはいくつもの心が混在したのだろう。


 その核が分離されることによって派生され、核の一部が各々で実体化し、 総じて "悪" になったのではないか。

 だから私が出会った、宮本の中に居た "邪乃丸" は宮本自身の気持ちを敏感に "感" じることが出来たのではないか。


 よもや、敵が使用する記憶を奪う術から "忘" れる、属性神への感情から "怨" む、能力を与える術から "恵" む、リーダーの素質から "惹" く、などが集まった存在が最終のボスなのではないか。


 生存者を食す繭は分裂を続ける "心" の核を収拾する為ではないのか。

 輪廻することで少しずつ収拾し続け、結果的にこの時代に "心属性の神()()()" の "邪乃丸" として蘇ったのではないか、と考えてはいた。




 しばらく空を飛んでいれば、遥か下方に黒い物体を発見していた。


 黒い物体は黒い蛇のような触手をいくつも伸ばし、前進することを拒んでいるようにも見えた。

 が、その黒い姿こそ、天界に居た邪乃丸の真の姿に近かった。


「 "憑" く、にも心が入っていたな」


 呟き、上空からそっと近づく。

 その触手がギリギリ届かないだろう位置で停止し、しばらく様子を窺った。


 やはり黒い物体は拒んでいる様子。

 憑依されている本体のオーラは既に無く、そのお陰で憑依している側の核のオーラだけがはっきりと見えていた。


 しかし、その核は凄く小さい。

 あんなに小さな核がどうやって周囲の魔力で出来た触手を生み出しているのか、本体に取り憑いていられるのか、構造は全く理解出来なかったが――属性神を殺さずに送り出してくれたという点には感謝し、同級生という点で同情した。


「仕方ない、助けてやるか」


 独り愚痴りながらも簪を外し、長い槍の形に変化させていた。


 出来立ての悪魔の部屋をこじ開けることは、今の私では容易いことだった。

 傍に着地して、邪乃丸のような容姿になったソレを見上げる。


 ソレがどうしてこのような姿になったのかは、知らない。解りたくもない。


 ただ苦しむソレを、私は簪で一突きした。


 本当に、それだけだった。


 ソレは黒い瘴気を固体にして周囲にまき散らす。

 傍に人間が居たら一溜りもなかっただろう。


 それらを結界で弾き飛ばしながらも、浸食されつつあった結界を張り直しながら、ソレが収束されるのをただ待つ。



 しばらくして、中から現れたのは2人の少女の裸体だった。



 もっとも、正体を解っていたから助けたのもある。

 だから驚くこともなく、私は2人に近付いた。


 残っていた瘴気の固体を追い払ってやる。


 でも、私に出来ることはそこまで。

 神器のように魔力を溜める役目を担わされ、あろうことかその魔力を使い果たし、自身の生命力さえも核化した白い神器に吸い取られた体では、もう動くことも出来ないことは良く知っていた。


「このまま、殺して」


 麻生が私に言った。

 頭を横に振って断る。


「何で……」

「もう十分、苦しんだだろ?」


 麻生が言いたかったことは、解っているつもりだ。


 麻生は私を虐めた。

 どの輪廻のどの過去であったとしても、私は麻生に苦しめられた。


 だけど、それは平和だと思い込んでいた日常での出来事。

 今となってはその日常すら懐かしく感じられた。

 それほどまでに、私が日常を愛していた証拠。


 ……でも。


「あの日常には二度と戻れないんだ。お前だって、この巨大化した悪魔の部屋の中で死ねば輪廻しないだろうし」

「・・・」

「それをも承知で、お前は来生と居ることを選んだんだ。死神様とやらに利用されて苦しかったんだろ? 本当は来生を連れて何度も運命から逃げ出そうとしたんだろ?」


 咲九が感じ取っていた感情から推測して言葉を紡いだ。

 多分、間違ってはいないと思う。


「でも、結果は同じ。私では、瞳を助けることは、出来なかった……」

「そうだな」


 麻生の言葉は正しいと思う。


 麻生や来生が助けを求めてくれば、香穂や紗穂のことだから手を差し伸べてしまっていたと思うし、そこから引き摺られて宮本があちら側に染まっていた可能性があった。


 だが、そのお陰で私らは救われた。

 ()()()()()、私は麻生を助けた。


 なお、来生はついでにしか過ぎない。


「お願い」


 麻生が口を開く。


「私と瞳を、殺して」

「だから、それは断ると……?」


 ふと、背後から嫌な音がした。

 振り返れば、私の結界、それも全面に瘴気の固体――先程のソレが張り付いていた。


 あまりに不気味で全身に悪寒が走る。


「蟲は、記憶も、身体も、全てを食い尽くす」


 麻生が言葉を苦しそうに吐き出した。

 呼吸をするのもやっとなのだろう。


「食べ尽して――全てを、奪うのよ。人権どころか、過去も、未来も。私は、私のまま、死にたい」


 麻生はソレを蟲と呼んだ。

 確かに、そう見えなくもない。


「契約して、……たまご、が……」


 咳込む麻生に、仕方なく簪を向けた。

 雷神が、今の彼女は危険だと、生かしておくなと忠告してきたから。


 麻生が優しい笑みを浮かべる。


「ありが、……」


 言い終えない内に、麻生の願いを聞き入れることにした。


 ――そして、簪を引き抜く。


「ぐぅ……!」


 もう麻生も来生も人間ではなくなっていたとはいえ、人型のモノを殺したくはなかった。

 未だに震える手に伝わって来た感触は、それこそ最悪だった。


 蟲に見えていたモノは、麻生の死と共に動かなくなる。

 結界に阻まれた蟲はボトボトと結界の外側に積み重なり、天井側から徐々に外の薄暗い光りが射し込んできている。


『人助けなんて性分に合わないことをしたから』


 もう1人の自分がケタケタと笑う。

 だが、これには私も同意した。




 麻生と来生の肉体が、蟲と共に霧のように飛散してゆく。

 それをじっくりと眺めながらも、無性に咲九に会いたくなり、思わずホロリと涙を零す。


 どんなに平和を願っても、これから起こる惨劇は止められない。

 止める為に動いていたって、この時間が戻ってくる訳じゃない。


 本来ならば、始まっているはずの学校生活が。

 咲九が隣に居る日常が。


 だからといって、立ち止まっていても何も始まらないし、終わらない。

 だから、先に進まなければならないことは、重々に理解してはいる。


 だけど、あまりにも死んだ者が不憫だし、先行きが不明瞭で解らないことが多すぎる。

 戦争なんて、そういうものなのかもしれない。


 でも、それにしたって、——と、心中は複雑だった。



 蟲に見えていた瘴気は、恐らくは魔障だったのだと思う。


 悪霊や悪鬼は瘴気を自然と蓄積し、それが魔障となる。

 また魔石や境界から漏れ出て自然発生する瘴気や魔障もある。


 注目したいのは、魔障は魔力だけを付随させている、ということ。


 恐らく、麻生たちは魔力の器として肉体を弄られ、魔障を蓄えさせられていたのだろう。

 だから "悪魔の部屋" を生み出すほどの魔力暴走を引き起こした。



 麻生たちが消えた後、足元に2つの小さな卵が落ちていた。

 白い神器にも似たそれは、恐らくは何者かの心臓の破片だったのだろう。


 私は簪でそれを壊す。

 それだけで破片は跡形もなく消失する。


 魔障(むし)を拡散する(かく)と契約させられた――麻生が私に伝えたかったこと。


 つまり、魔障は精霊と類似の、繁殖や増殖という目的をもった単細胞生物ということ。

 それも精神的に弱っている者へ寄生する厄介な性質を持っている、となれば。


『あいつら、抵抗できるのかな……』


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