239 ⛩(☴☉▲) 瞳の恋慕
攻撃を紗穂里に任せながらも、結界で紗穂里の補佐に回っていた私は、上空のそんな会話を小耳に挟んでいた。
やっぱり、何て思いながらも青い仮面を真っ直ぐに見据えて念じる。
死神様の元に居た偽物の水神は瞳だったのだろう。
妖の短刀を2本も扱えることと、その妖刀をも隠遁する術は評価に値するが、通りで瞳が属性系の術を使って来ないのだと理解した。
私の水神の結界がほぼ無効化され、魔物としての結界しか通用しないことにも納得がいく。
『もう、終わりにしよう、瞳』
瞳が紗穂里に向けていた眼差しが、その一言で私に切り替わる。
水神の記憶が蘇って来て、私に危険だと知らせてくれた。
そもそも、今の瞳にはもう、感情すら無い。
何度も真の地獄を経験したことで擦り切れ、歪んでしまった心では、もはや人殺し何て日常になってしまったのだろう。
妖刀が構えられ、私に切りかかってくる。
『千尋っ!!』
――自分の魔力が通じないなら、魔物の世界に蓄えられた魔力を使えば良い。
水神は、元はあの世界の守護神として天界に迎えられた。
それに、元々は広くも無い世界故に、魔力も然程は無かった。
しかし、その中には必ず、瞳と一致する魔力を放つ欠けた核が存在すると思う。
あの世界は、そのような核が集まる場所なのだから。
魔物の世界の魔力を召喚し、水と冷気を利用して氷の刀を作った。
その刀で受け止め、瞳ごと弾き飛ばす。
無論、そんなことでよろける相手では無い。
瞳はすぐに体勢を整えるなり、距離を詰めてくる。
狙いは私の喉元、核があるとされている場所。
『ごめん』
狙いが解っている者を相手にすることは、そんなに難しいことではない。
しかも、瞳が使っている妖刀にはもはや妖力や魔力などの力は残っていないことは、瞳が自らの魔力を刀に流していることからも解っていた。
そんな妖刀の片方を素手で抑えることなど容易い。
もう片方が私の喉元に刺さっても、痛みがあっても然程の深い傷にはならない――魔物の核の場所は人間や神様とは異なっているのだから。
瞳の心臓に氷の刃を刺した私は、倒れ込む瞳の身体を支えてあげる。
随分と軽い華奢な身体に、小さな頭。
青い仮面が吸収されるかのように消えて、綺麗な顔がそこにはあった。
虚ろな目で、私を尚も睨みつけている。
『千秋、様は、』
不意に瞳が話し出す。
『初恋、だった。例え、別人でも、構わない。恋は、叶わない。解って、いても、好き、だった』
言い方が過去形だと思いながらも、瞳が目を閉じて涙を流したことを知った。




