237 ☴(⛩☉▲) 敵の正体
下の2人が移動を終えたあたりで安堵した私は、岸間さんに赤い鬼面の相手を任せつつ、先程まで居たビルを振り返っていた。
短時間とはいえ、私達の傷を癒してくれた場所に敬意を表す。
私が思う以上に良い思い出として記憶されたのだと思う。
だから、位置や場所を覚えておきたかった。
世界が輪廻しなくても、無事に終幕を選べたとしても、これだけ繭による崩壊が進んだ日本が元に戻る保証はどこにもない。
私はまだ、現実を完全には受け入れていなかったのかもしれない。
また、あのカフェに行きたいと感じたのだから。
不意に風が止まった。
地の深いところから、地鳴りのような嫌な音が響き出す。
流石の赤い仮面も異変を感じ取ったのか、攻撃の手を休め、千尋と一緒にその方向を見つめていた。
瞬間、嫌な光景が脳内に流れて来る。
そのことで、本谷さんが危険を悟った理由を知ることが出来た。
過去にも、この光景を見たことがあった。
それも輪廻で言えば最近のことだったと思う。
だから、今まで忘れていたことを悔やんだ。
もう少し早くこの光景を思い出していれば、こんなところで足止めを食らっている場合ではないこと、思い出を作っている場合ではないことくらい悟って、本谷さんの焦る気持ちを理解してあげられたかもしれない。
その光景は、すぐに現実のものとなった。
思い出もビルも電柱も、見ていた景色が目の前で、ズドンという一撃で綺麗な円を描いて数メートル程沈没する。
同時に始まった中央からの侵食と、周囲に巻き起こる風圧によって、見る見る内に沈没した地域の全てを飲み込んだ。
それは1分とかからず、あっという間に中堅ビル4つ分くらいをブラックホールと化してしまう。
『何が、起こった?』
未だに思い出せていないらしい岸間さんが呟いた。
赤い鬼面も驚いているのか、私の返答を待っているようにも思える。
だから答えてあげることにした。
『本当の崩壊が始まったのよ。狙いは解らないけど……これが始まってしまえば、例え神様として自覚があっても、あのブラックホールには敵わない。だから、地界が消滅するまで崩壊は進むし、全てがブラックホールと化したら、誰も生き続けることは出来ない』
『……嘘、でしょう?』
赤い鬼面が呟いた。
瞬間、私は声色から全てを悟る。
新東都タワーの上部に呼び出した、赤い鬼面と青い鬼面の正体は――。
「円、なの?」
先にその名を言ったのは、岸間さんだった。
『……っ』
赤い鬼面が唇をかみしめていた。
同時に胸元を抑え、もう片腕をこちらに伸ばしている。
攻撃されると悟るも一歩及ばず、最も近くに居た岸間さんが私を守るかのように攻撃を真っ向から受けていた。




