231 ▲(⛩☴☉) 地界へ (*)
やっと戻って来られた地界は、しかし、見るも無残な姿に変わり果てていた。
ほぼ全ての家屋が破壊され、屋根が斜めになっていたり、壁に巨大な穴が空いていたりしていた。
電柱はなぎ倒され、道路を横断し、車を押し潰している。
所々で火災もあったのか、焦げた匂いがどこからか漂って来ていた。
しかし、人の気配は全く無い。
鳴りっぱなしのクラクションと、非常を伝える機械音だけが虚しく鳴り響いていた。
霧は既に晴れている。
そのためか、私達は何度も目を擦り、耳を疑った。
ここがどの辺りか、という不安よりも真っ先に、ここは本当に地界なのだろうか、という疑問すら湧いていた。
しかし、それが地界で現実だと裏付けられる存在が空に飄々と浮いている。
私が見上げたことで全員が見上げ、その存在を黙認して溜め息をついていた。
「あれが、人蝕の繭……」
「『全てを食らい尽くすモノ』とは、過去に雷神が言っていた気がするわ」
「……あれがあるってことは、ここが地界で間違いないってことね」
千尋、風見さん、香穂里が各々の感想を答える中、私はその巨大な人食の繭のオーラ元を視線で追い駆けていた。
高いビルが殆ど崩れていたためか、その遠くにあるはずの唯一の高い建物がすぐに目に入ってくる。
禍々しいオーラを放つその建物は、既に異様な黒いオーラに覆い尽くされて原形を留めてはいなかった。
「あそこが拠点?」
私の視線を追って発見したらしい香穂里が風見さんに訊ねる。
が、風見さんは頭を横に振った。
「解らないわ。……でも、兄上の嫌なオーラを強く感じる」
その発言で香穂里が自身の拳と拳をぶつけて気合を入れていた。
しかし、それを遮るように千尋が呟く。
「でも皆も、さ。連戦で少し、疲れていない?」
その直後、香穂里のお腹の虫が鳴っていた。
流石に恥ずかしかったのか、香穂里が顔を赤らめている。
私も風見さんも香穂里には失笑で返答し、目線で会話をして頷き返す。
休憩だけのつもりだったのに、少し横になりたいという香穂里の希望もあって、千尋のお薦めで近くの高級そうな漫画喫茶の店内に入ったところ、予想外にほぼ全ての設備がそのままの状態で残されていた。
その建物が都内にしては3階建てと低めで、周囲も比較的被害を免れていた為かもしれない。
ソファーにダイブした香穂里、椅子に腰をかけたまま動かなくなる千尋を見届けて、私はスタッフが直前まで使用していただろうキッチンに足を運んでみる。
真っ先に冷蔵庫の中の食材を確認したが、電気が通じなくなってかなりの時間が経過していたらしい。そこはゆっくりと閉めて見なかったことにする。
そして念の為に冷凍庫の方の扉も開けてみる。
「食べ物探し?」
風見さんがキッチン入口までやって来て聞かれ、そのことで残りの2人が各々の世界に入ってしまったらしいことを悟った私は、冷凍庫の冷たい風と、少しだけ融けていた氷を黙認しつつも答える。
「神様が食事をしなくても大丈夫だとは解っていても、どうもお腹の中が空洞のような気がして、力が上手く入らないのだよ。頭も回らないし……」
そして冷凍庫の中から袋を摘み取る。
そして手にした袋の上の水を落としながらも振り返る。
「私も本谷さんと同じ。何だか魔力が出しにくくて」
「デショ?」
共感されたことに驚きつつも、私は風見さんに向けてその袋の内容物を見せつける。
風見さんも嬉しそうに微笑んでくれた。
天界の風神はいつだって私達を微笑んで見守っていてくれたことを思い出しつつも、その袋を風見さんに向けて投げる。
「量は少なさそうだが、皆で食べようじゃぁないか」
「まるでサバイバル生活みたい」
「みたい、じゃなく現実に、これからそんな生活を送ることになると思うのだが」
そう答えつつ、早くも冷蔵庫の更に奥の棚を見つめていた。
先程から視線の隅に見えていた棚だが、しっかりと見える位置に移動する。
そこには、予想していたお菓子が多量に積まれてあったので、その一部を非常食として頂戴しておこうと素直に思っていた。
他人の建物に侵入するのは違法なので災害時でもダメですよ!
これは小説内だから許されるのです、と注意書きしておきます。




