023 ☈ 修学旅行・3日目①
昨夜も強制的に薬を飲まされた私だったが、しかし、そのお陰か疲れはすっかり取れているように思えた。
普段なら班のメンバーの最後まで寝ているはずなのに、その朝に限っては、何故か朝の4時半に目覚めて二度寝をしなくても良いくらいに爽快な気分だった。
しばらくして紗穂が起き出したが、鞄の中で何かを探している様子だった。その鞄が何度も壁に当たっていたので音が鳴っている。
その音で気付いたのか、外から戸を叩く音がした。
もっとも近い位置に居た私が戸を開けてやれば、そこには如月が独りで立っている。
「やっぱり起きていたのね」
「おうよ。…… って、お前、一体何時に起きたんだ??」
とツッコミを入れてしまうくらいに、如月の恰好は既に完璧だった。
一方で、私はまだパジャマ代わりの私服のままでいる。
如月は少し寒かったのか身震いしたので部屋の中に入れてやる。
「眠れそうにもなかったからずっと起きていたのよ」
「日中寝るなよ?」
その返答に呆れて答えたが、如月はそれ以上、このことに返答する気はなかったらしい。
代わりに違う言葉が飛んで来る。私は如月に背を向けて再度布団に潜ろうとしていたのに。
「遠音。早いけど、出られる準備をしてくれる?」
「…… 何で?」
その手を休めて訊ねれば、如月はうん、と独りで頷いてから首を傾げた。
「お姉さんに見て欲しい場所があるから?」
面倒だな、と思いながらも、こういう如月に付き合うことで、私は "超能力" という未知なる知識を深めている気がしたので、面倒であっても不思議と嫌な気分にはならなかった。
流石に朝が早過ぎることもあってか、他の生徒や先生とすれ違うこともなく、中庭?が開放的に見られるロビーまでやって来ていた。
如月はその窓際に近付き、ある1点を指す。
私は頑張って探すが、どこを指しているのか見当が付かなかった。
「解りにくいかしら。外に何故か放置されている壺のことなのだけど」
そう言われて見れば、確かに何故か灰色の壺が置かれてあった。が、何故かは解らなかったが、凄く解りにくい。
注意して見れば解る程度の、しかし人が抱えなければ持てないくらいに大きなモノではある。
「あの壺自体が結界だから見えにくいのよ」
如月はそうクスリと笑いながら答えていた。
「壺自体が結界?」
「そうねぇ。結界って、いくつか種類があるの。ちなみに、超能力者が放っているオーラも結界と同じ役目を担っているわ」
「じゃぁ、香穂がオーラを強めたり、お前がオレにオーラを分けてくれたり、そういうのも?」
「結界の種類の1つと考えて良いわよ」
そう答えた如月は指すのを止めた。
「結界の大元は何かを守るため、もしくは何かから守るために周囲に張るもの。
簡単に例えれば、キャンプでテントを張ってその中で人間は眠るでしょう? そのテントも周囲に張っているモノだから結界の1つとして捉えてもらっても良いわ」
「なるほど」
「でもまぁ、テントを結界と呼ばない理由としては、テントが不透明で外が見えないからと、テントという名前を貰った物体であるから、が挙げられるわね。
テントだけではなく、建物、風船、お菓子の缶詰、…… それら物体の全てを結界と呼んでしまうと、一体どの種類の結界なのか、解らないでしょ?」
「そもそも、そう呼ぶ奴はいないだろ」
「それに、不透明ではないから中、もしくは外に何が待ち受けているのかまでは解らない。今の結界の定義は、半透明又は透明であることらしいわ」
「でも、あの壺は透明じゃない気が ……」
私が再度壺を確認すれば、如月は私の眼の隅で首を横に振っているのが解った。
「あれは内側からは透明に見えるはずよ。事実、私の目には半透明に見えている」
「またまたー」
「嘘だと思うなら、見えるようになるまで観察してみなさいよ。遠音だって巫女の力があるのだからそう見えるはずよ? それとも、このまま見えないままでいいや、何て思っている?」
嗾けられた!と解っていても内心では酷く傷付いていた。
何だかムカついたので集中しようとすれば、如月は唐突に後ろを向いていた。が、すぐにこちらを見る。
「遠音はここで頑張ってみて。私はちょっと用事を思い出したから、少し席を外すわ」
なんて言い残して、如月はさっさと歩き去ってしまった。




