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022 ☉ 修学旅行・2日目②

 夜が深まって、昨夜と今日の馬鹿騒ぎで疲れたのか、班の誰もが既に眠りについてしまっていた。

 なので私は、隣の部屋に居る如月にテレパシーを送る。


『起きてる?』


 壁の向こう側に居ても聞こえているだろうと、日中の会話から何となく解っていた。

 が、しばらくしても返事が無かったので諦めかけて居れば、部屋の戸を小さく叩く音がした。


 驚きつつも立ち上がって戸を開ければ、そこには如月が立っていた。


「円と瞳は?」

「すっかり寝ていたわ。ロビーに移動しよう?」


 早くも私が思っていたことを如月に提案されていた。なので私も鍵を持って部屋を出て、一緒に階段を降りる。

 その途中にも、如月は話し始めていた。


「昨晩、花菜子が何か言ったのね?」

「言われたけど、そもそも、どうしてアンクのことを知っていたのか ……」

「情報屋の間では、ソレは有名だけどね」


 私は驚いて目を丸くしてしまっていた。

 如月が逆に驚いている。


「そんなに驚くことだった?」

「他人に喋ったことなんて無いのに、何で知っている訳?!」

「お姉さんの持つアンクは、過去に海外のオークションで何人もの命を奪った呪われたアンクなの」


 如月はそう答えてからふぅと長めに息を吐いていた。


 ―― 呪われたアンクだって? そんなモノをどうしてママが持っていたというの??


「岸間家に引き取られた後で除霊をしたのが私の祖母なのよ。祖母は除霊師でありながら情報屋も営んでいた。だから昔からの情報屋の間では良く知られているの」


 そう答えた如月は、階段の下から私の顔を覗き込んでいた。


「行かないの?」


 そう言われて、私は慌てて如月の後に続いた。

 いつの間にか立ち止まって考えてしまっていたらしい。


「お姉さんが持っていることを知っていたのは、その祖母の手記から知ったことだから、どこが情報源か、までは解らないわ。ごめんなさいね」

「でもアンクの魔力を使い過ぎたらダメだっていうのは? アンクには神様の力が宿っているとも言われて …… 良く解らなくて」


 その発言のあたりでロビーに辿り着いていた。

 流石に深夜。昨日と同じく誰も居ない。隠れている気配もない。

 その一角、昨日の私の場所に座った如月は、うん、と独り頷いていた。


「神のことはどこまで知っているの?」


 如月の質問に私は首を傾げた。が、如月は失笑する。


「説明はしたいけど、どこからどこまでお姉さんが知っているのか、までは私の範疇ではないのよ。だから、まずはお姉さんがどこまで知っているのか聞いてから、答えるわ」

「…… 神様のことに関しては、核を持っていることと、超能力者とは違う魔力を扱えることと、膨大な術に関する知識量があること …… くらいかな?」


 とは答えたものの、このことを調べたのは如月のことを知ってからなので、詳しくは無い。

 如月が音神で、宮本が水神らしいと聞いてから、神様について興味が湧いて調べた。ただそれだけだった。

 が、如月にはそれで十分だったらしい。嬉しそうに頷いていた。


「そこまで知っていれば十分ね。じゃぁ次に、神器のことについては?」

「神器は神様の力が宿った武器で、モノによっては特定の神様ではないと扱えないってことくらいかな?」

「なるほど。それだと説明が必要ね」


 そう言った如月は合わせた両手をテーブルの上に出すと、その両手を開いた。その間から短い短剣を出して見せる。

 それが神器だということは、すぐに解った。


 武器と神器の最大の違いはオーラの量。

 通常の武器にはオーラが全くない。しかし年月を得た武器にはオーラが少しずつ宿っていく。なので古い武器には神器と同じくらいの、もしくはそれ以上のオーラが集まっていることがある。

 それでも、そのオーラを使ってしまえば、どんなに古い武器であってもオーラが欠損する。すると武器自体は古いので壊れてしまう。

 が、もしもこれが神器の場合は、壊れることなく有り続けることが出来る。また、通常の武器よりもオーラの溜まる量が大きくて早いので、当然ながら武器よりも長持ちする。


「神器にも核が存在するの。この神器の場合は、柄のすぐ上にある宝石ね」


 そう言いながら如月は右手で柄を掴み、左手で綺麗な紫色の宝石を指した。


「神器は確かに長持ちするけど、通常のままでは、溜められる回数と使える回数には上限があるのよ」

「まさか、アンクの回数が上限に近いということ?」

「うん、そう。飲み込みが早いのは有難いけど、問題になるのは、その神器の核が壊れてからなの」


 如月はそう答えて神器をどこかに消した。


「神器をどこからか取り出して空気中に消すなんて凄い ……」

「神器と "契約" しているから出来ることよ。

 このことも話すけど、先に神器が壊れるとどうなるか、言っても良い?」


 逆に如月に気を使わせてしまったらしく、私は質問を控えることにした。


「神器が壊れると、持ち主に甚大な、身体的なダメージを負わせるの。どんなダメージかは神器によるから解らない。ただ、下手すると例え神であっても死ぬと言われているわ」

「だからママが神器を封印していたのね」


 思わず呟けば、如月はニッコリと微笑んでくれていた。


 如月の表情から察するに、どうやら私が怪盗ホーリーであることも、如月は解った上で言っているらしい。ということは、もしかしたら情報屋の間では私の情報が筒抜けになっている可能性も高い。


 前々から勘付いていたが、怪盗ホーリーを営んでいる時に気にはなっていた。大人しく神器を奪われるだけで執拗に追って来ることが無ければ、私は決して誰にも危害を加えない。そして大概、追って来る者は最低限の人数だった。

 もしかしたら、この情報は既に情報屋によって周知されているからこそ、今まで危害を与えた者が最小限で済んでいたのかもしてない。


 そもそも、学内外の明らかに強そうなリーダー格の学生には挑まれたことはあったものの、私事では何故かそれ以外の超能力者からの挑戦は今まで無かった気がする。


 ―― "私より強そうな相手" ということが気に食わなくて稀に自分から挑んでいるだけで。


 そう思えば、如月は私に危害を加えたことがあっただろうか。

 今まで前の席に居て体に常に結界を張り続けている、イコール私への当て付けかと思っていたものの、誰の前であっても結界は決して解いていなかったし、良く考えてみれば、超能力者よりも位の高い神様なのだから人間の私よりも強くて当たり前じゃないか。それに、今はどうしてか解らなかったが、普段の体に張っている結界を少し薄めている。

 すなわち、私への当て付けではなかったということになる。

 ということは、今まで私が持っていた如月への感情は私の勝手な妄想で、実際には紗穂里の言う通り、如月は "常に自分の身を守る" ためにしていた、ということになる。


 神器のことに関しては意外だったが、嘘ではないらしい。そもそも、神は嘘を付けない、と聞いたことがある。

 という総合的な解釈から、今まで持っていた感情をあっさりと捨てて、情報屋としての如月の言葉を信じることにした。


「もっとも、さっきも言ったけど神器と簡単な "契約" をすれば、魔力を神器に注ぎ込むことが出来るようになるから、自分の魔力が尽きない限りは神器が壊れるようなことも無くなるの。

 とはいえ、"契約" によって神器の魔力を蓄えられる量も増えるから、滅多に神器の魔力が尽きることもないのだけど。

 ただし、その "契約" をした神器が奪われたら、そこから位置がバレて他人に狙われる可能性も高くなるから、諸刃の剣でもあるのだけどね」


「その "契約" というのは?」

「方法は神器の核にキスするだけ。契約したら神器にお姉さんが主だと認識させることが出来る。また、その神器の真の力を覚醒させることも出来るかな。もっとも主以外でも、覚醒までは出来なくても神器は扱えてしまうし、しかもそれで壊れたら主に多大な被害が出るし、最悪だけどね」

「なるほど」


 ―― つまり、利点もあるが欠点にもなる訳か。


 素直にそう思っていれば、如月はうふふと、どこか嬉しそうに微笑んでいた。


「欠点というほどでもないけどね。そもそも、神器の核にも神器が使用されてきた記録は神器の記憶として残されているから、そこから過去に何があったのか知ることも出来るし」

「神器が過去を覚えている?!」


 これは衝撃的だった。私は思わず上半身を如月の方に乗り出していた。

 如月は驚くこともなく続ける。


「うん。そうじゃなければ、神器を手に入れてすぐに使い方、何て解らないでしょ?」


 確かに、あのアンクの使い方何て教わった覚えは無い。とすれば、あのアンクが私に記憶を見せてくれた、ということになる。

 いや、そもそもあのアンクはママの持ちモノだった。ということは、ママの過去を知ることが出来るかもしれない、ということ。

 これは凄い朗報だった。


「もっとも、神器との相性はあるから、相性が悪いとなかなか教えてもらえないけどね」

「でも、契約したら少なからず可能性はあるんでしょ?」


 昨晩の山田がそんなことを言っていた気もする。

 山田は相性の問題で使えないから奪うことは出来ない、しかし貴重な神器だから守りたい、そう言っていた。

 きっと契約しても使わなければ神器を守ることに繋がるのかもしれない。でも、その契約が山田では出来ないことを知っていたからこそ、低度の忠告をしてくれたのかもしれない。

 不器用なだけで、山田は良い奴なのかもしれない。


「うん。まぁ、物は試しで契約してみたら良いかもね。そうしたらアンクに魔力を蓄えて使うことも出来るし、何れ戦力になるかもしれないし」

「契約は解除も出来るんでしょ?」

「それは死ぬまで出来ないわ」


 如月は笑顔のままあっさり答えていた。

 私は愕然とする。


「は? 何で??」

「出来ないと言っても、自分から進んで解除は出来ない、という意味であって、確固たる理由があって解除したい場合は、大体が神器に想いが届いて自然に解除されるの。まぁ、願っても解除されなければ、それこそ神に頼めばやってくれるわよ」

「神様なら解除出来る、と?」

「うん。神器は1つの契約しか出来ないから、神が神器と契約すれば、前の契約が自然と解けてしまうからね。このことを利用すれば解除することは出来なくもない。だけど、その方法で解除したらしたで契約をしていた神側にペナルティが発生するから、あまりお薦めはしないわ」

「ペナルティの内容は?」

「一生、同種の神器と契約が出来なくなる」


 如月は真面目な顔で答えてからフッと笑った。

 私は真っ青な顔をしていたと思う。


「もっとも、お姉さんの "仕事" で奪った神器と無理に契約しようものなら、神器から拒否されて逃げられるだけよ」


 やっぱり如月は私が怪盗ホーリーとして神器を盗っていたことを知っていたらしい。

 諦めてはいたものの、こうも指摘されてしまうとタフな私でもショックではあった。

 が、それよりも如月の話しの方が面白いと感じていたらしい。


「神器が逃げる??」

「うん、そう。神器にも感情はあるみたいでね。詳しいことは私も良く解っていないけど、どうやら寝ている間や目を離している間に、神器の中に残された魔力で瞬間移動をするみたいよ?」

「そんなことが ……」

「いや、まぁ私も目撃した訳ではないから、真実かどうかは解らないけど。

 でもたまーに、神器を普通に道の真ん中で拾うことはあるわね。道に転がっている武器の形をしたモノに気付かない、なんてことは一般の人間でもまずあり得ないでしょ?だから少しはこの説を信用しているのだけど」


 そんなことを言った如月は少しだけケタケタと笑っていた。

 が、そんなことが有り得るのか!という驚愕の事実を知った私は、今も部屋の中に眠っているはずの、奪って封印してきた神器のことが心配になってしまっていた。


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