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021 ☴ 修学旅行・2日目①

 瞳との合流は2日目の名所巡りが終わってから、ということだったので、私達は心置きなく観光巡りをした。如月さんは歴史や文化にとても詳しく、円の素朴な疑問にもスラスラと答えている。

 円の思うままに歩いていると、前方で右往左往する岸間さん達が居た。近付けば道に迷ったということだったので、一緒にその場所を目指すことになる。


 目的は1軒の陶器屋だった。

 用事があったのは本谷さんらしく、中に入るなり、店主らしき人に声をかけていた。どうやら予約注文制の商品があったらしい。

 代金を支払って、私達に早速、その商品 "両手両足を上げている招き猫" を披露してくれた。


 それからは、(何故か方向音痴のメンバーが揃ってしまったらしい)岸間さん達と一緒に行動する。

 基本的には岸間さんと本谷さんの2人組に円が混ざり、私達と一緒に居る如月さんの所に永瀬さんが避難して来る。しかし、永瀬さんは人気者なのですぐに連れ去られてしまう。

 その繰り返しだった。


 あっという間に集合時間になり、全員で有名な神社にお参りをした後、速やかにバスに戻って旅館に帰還した。


 旅館のロビーでは既に瞳が待っていて、円が嬉しそうに飛び付きに行ってしまっていた。

 相変わらず瞳は如月さんを軽く睨みつけていたが、今日は旅館の都合で先に温泉、その後に遅めの食事をすることになっていたために、部屋に着くなり、早々にお風呂の準備をしていたので会話をするようなことも無かった。


 旅行で環境が変わると、特に女子は体調不良を起こしやすい。


 そのため、個別に入浴したいという生徒が昨日よりも急激に多くなってしまったらしい。夕飯の前後で分かれることになり、順番はクジで決められた。円と瞳は夕飯後になり、私は夕飯前になってしまった。


 もっとも、私も瞳には苦手意識があったので、正直安堵していた。

 一方で、如月さんは早くも部屋から出て行こうとしていたので、私も後に続いて部屋を出た。


 部屋を出てしばらくすると、隣の部屋から岸間さん達も出て来た。更にその隣からは宮本さん達も出て来る。

 そんな光景を見ていたら、如月さんが不意に呟いた。


「今夜はしっかりと寝ておいた方が良いわ」


 その呟きに私は首を傾げたが、如月さんはそのまま岸間さん達の方へ進み出していた。

 先生方の部屋は、如月さんが進んで行った逆の方面にある階段を上がることになっていたので、当然ながら疑問を抱いたまま先生の部屋に向かうことになった。


 1人20分という女子にはギリギリの時間の中でシャワーを浴びながらも、私はそっと、胸元の宝石に触れた。宝石はまだ割れてはいなかったが、明日も割れないという保証はどこにもない。

 が、それ以上に、如月さんの一言で後の2日間が余計に不安で仕方なかった。


 シャワーを終えて、昨日とは違う食事処で夕飯を食べて部屋に戻った頃には、珍しく円が眠そうにしていた。瞳がそんな円を布団の中に潜り込ませようとしていたが、2人のお風呂の時間はまだ先だったので、その時間になるまでは円本人が頑張っているように思えた。


 2人がお風呂に入るために部屋を出て行くと、ずっと壁に寄り掛かっていた如月さんが、待っていましたとばかりに目を開けて私を見て来た。

 私は驚いて如月さんを見つめる。その目は、兄上と同じ金色に輝いていた。


 なので、私は先に気付いていたことを訊ねることにする。


「日中、どうして私に結界を張っていてくれたの?」


 ずっと気付いていたけど、班の中では他の人に聞かれることが怖くて聞けなかった。

 如月さんはまたも目を閉じた。


「胸の宝石は、ヒビが入ってもいけないのでしょう?」


 言われても、驚くことはなかった。きっと如月さんは全てを解った上で答えてくれているのだと思い、頷いた。

 と、如月さんが目を開ける。


「だから魔力を放出しないように結界で守ってあげただけ。恐らく、その胸の宝石は "白い神器" ね。魔力を放出すると自然に割れるタイプの安易なモノ」

「 "白い神器"?」

「本物の神器の一部を武器に仕立て直したモノのことよ。まぁ、その白い神器に何者かが魔力を込めているから黒く染まっているだけで、実際には白色をしていると思うわ」


 如月さんの発言に私は納得するしか無かった。

 実際、宝石は黒色で少し不気味だった。


「これを外す方法は?」

「無い訳ではないけど、しない方が良い」

「どうして?」


 私の質問に目を開けた如月さんは溜め息をついていた。そして足首を指す。

 思わず、目を丸くしてしまった。


「足首の枷には "シンドク" が含まれているから、正直難しいわね。

 あぁ、"シンドク" というのは、神の毒と書くの。説明が難しいのだけど凄く簡単に言えば、神々が扱う病原菌がたっぷり入った毒のことね。普通の人間なら皮膚に付いただけでガンを発症するわ」


 確かに、私の足首には気で作られた枷が嵌められていた。これはどんなに攻撃をされても、攻撃をしても、外れることは無い。この枷を外せるのは兄上だけだと言っていた。

 そしてこの枷は、宝石と連携している、と聞いた覚えがある。


 ―― つまり、私は兄上に信頼されていないということになるのだろう。


「もっとも、神毒は扱える神も限られるのだけど」

「…… 兄上は死神様だから、扱えてもおかしくはないわ」

「そうだったわね」


 如月さんはそう答えながらも溜め息をついていた。そして沈黙。

 こんな話しになったついでなので、私は思い切って訊ねることにした。


「如月さんは、どうして情報屋になったの?」

「なりたくてなった訳じゃないわ」


 如月さんは即答し、どこか仕方なさそうに答える。


「私ね、自分の父親を探しているの」


 その一言に、私は思わず目を丸くしてしまっていた。

 如月さんがどこか悲しそうな目を開ける。もう金色には染まっていなかった。


「生まれた時から、私には記憶があるの。普通の人間なら、生まれた時の記憶は残らない。でも、私には残っていたの。その理由は解っているのだけど、私が赤子の時にどうして父親があんな行動をしたのかだけが、未だに解らなくて」

「あんな行動?」

「所謂、暴力ね」


 あっさり答えた如月さんは、ゆっくりと立ち上がってポットの傍まで移動する。


「私の父親も母親も超能力者だったから、父親の暴力は凄く酷かったの。母親が私を庇うことは、母親なら当たり前なのかもしれない。それでも、父親の暴力の矛先は私に向けられていたの。それがどうしてなのか、私は知りたい」

「恐怖からではないかしら」


 私は思ったことを口にした。


 私も兄上は未だに怖い。兄上には逆らえない。

 ましてや、赤子の時から記憶を持っていたらしいのであれば、普通の子供ではないから特殊な子供に恐怖すると思う。

 そんな恐怖から、如月さんの父親は暴力を行使したのだと推測した。

 が、如月さんは首を横に振って私を振り返った。手には湯のみが2つある。


「私の父親は笑っていたの」

「…… え?」

「笑いながら私を殴っていたの」

「それは ……」


 ―― 愉快犯。


 超能力者の中にも、やはり犯罪者は数多く存在する。その中でも愉快犯は、他人を嬲ることで快感に思う変質者故に、その大半は国際的に重罪とされて死刑を言い渡されている。恐らく、その1人なのだろうとすぐに思い当たった。


「まぁ、それだけなら可愛いモノだけどね」


 クスリと笑いながらも、如月さんは私に湯のみの片方を手渡してくれた。

 凄く湯のみは熱かった。私はすぐに布団の上に置く。


「お姉さんは、私が体育を見学していることを知っているっけ?」


 噂には聞いていた。教室で自習の私とは異なり、外で体育の様子を見ているだけらしい。

 だから頷き返す。


「私ね、痛みを感じない体質なのよ」


 そう言いながら如月さんは湯のみの中のお茶を一気に口の中に流し込んでいた。

 私のお茶からも凄い勢いで湯気が上がっている。如月さんの口からも、その湯気がまだ余韻のように残っている。


「だから火傷しても解らない。骨折しても、頭に穴が空いても、気付かずに生活を送ってしまう。

 まぁ、怪我の治りは早いし、気付けば自分で治療も出来るんだけど、そもそも気付かないから悪化させちゃうんだよね。

 それじゃぁ困るから、私はあまり動かない。必要最小限の行動しかしない。だから勝負も喧嘩もしない。結果的に、自分を守るための能力が発達したって訳ね」


 そう言いながらも、如月さんはうふふと嬉しそうに微笑んだ。


「こういう体質になったのは、父親の所為であり、お陰でもあるの。だから父親に恨みは無いよ。

 でも、その父親を止めない限り、父親は今日も誰かを嬲っていることになる。それだけは止めたいのよね」


 如月さんの過去を聞いて、私は少し感動すら覚えていた。

 父親が私に暴力を揮ったら、私が逆に父親を殺していそうな気がする。それを如月さんは許している ―― 私なら、絶対にここまで立ち直れない。そんな如月さんが大人に思えるのは、恐らく私がまだ子供だからだろうと思った。


「過去を知っているから今の私が居るの」


 如月さんはそう言いながらも、早くも2杯目のお茶を入れ、先程の壁の場所まで戻っていた。

 そこで湯のみを置いて、座って体勢を変えている。


「過去を知らなければ、人間も神も成長できないわ」


 その言葉に、私は如月さんの真意に気付く。

 私には過去の記憶が無かった。でも、過去の記憶は無くても良いと思っていた。だから如月さんは遠回しに、私にこのままで良いのかと訊ねているのだと思う。


「私の記憶には、どんな秘密が隠されているの?」

「それは私にも解らないわよ」


 それはそうだろう。私は思わず赤面していた。

 が、如月さんは気にも留めていないのか、溜め息しかついていなかった。


「記憶が曖昧なのも、困ったものでね。一番依頼が多いけど、例え情報屋でも他人の記憶に関する情報までは入って来ないわ。その記憶が無い時に出会った人ではない限り、ね。それだって、見た目からしか判断はできない。その時の心までは、本人にしか解らないもの」

「私の記憶は、きっと兄上が知っていると思うけど ……」


 ―― 決して教えてはくれない。


「親族が教えてくれると思う?」


 私の気持ちに答えてくれたかのように、如月さんはそう言ってお茶をすすった。


「私なら、親族と親しい友人に訊ねるわ。親族はあくまでも親族。主観的に見ているから何か見落としているかもしれないし、親族の記憶も曖昧かもしれない、と私は思うけど」

「でも、私の親族に知り合いなんて ……」

「里の人間や幼馴染が居るでしょう?」


 如月さんの言葉に私はハタとした。


 言われてみれば "居る"。

 私のことを幼い頃から知っているだろう執事に、何より円と紫が居る。

 もっとも、過去何て全く気にしたことも無かった私が訊ねたら変に思われるだろう。それでも、今の私は如月さんの "成長" という単語に非常に興味を持ってしまった。


「変われそう?」


 如月さんの質問に、私は大きく頷いて答えていた。


 ――変わりたい!


 と、如月さんがニィッと笑う。


「そんな "変わろう" と思ったお姉さんに、記憶の手掛かりになるヒントをあげようか」


 そう言った如月さんは、何を思ったのか鞄の中から1冊の手帳を取り出した。


「手帳?」

「うん。これが最大のヒント」


 と答えた如月さんは、その手帳をパッと上空に放り投げたと思えば、手帳は空中で消えてしまい、以降に落ちて来ることは無かった。まるで手品師のよう。


「今のは私の手帳だけどね」

「それにヒントがあると?」

「うん。でも、それだけでは解らない。それに、その手帳は恐らく、お姉さんが前に住んでいた家に残されている」


 ―― 前に住んでいた家?


 それは既に取り壊されていると思っていた。しかし、如月さんの話しだと残っているらしい。


「それ以上のことは私も調べないと解らないけど、私の今持っている情報から推測してこの結果を出しただけ。あとはお姉さん次第ね」

「推測でそこまで言い切れるの?」

「それだけじゃないけどね」


 あっさりネタバレした如月さんは失笑していたが、私は驚愕の意味での失笑を返すしか無かった。


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