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227 ☈ 戻された現実は *

「過去に一度も堕転出来なかった者では、崩壊しつつある世界には対応出来ないかもしれない」


 目前に居る咲九が私に言った。


 誰のことか何て、今なら聞き返さなくても解る。

 ここがどこか、ということは解らないまでも、恐らくは夢の中か死後の世界だろうと感じた。


「紗穂のことだろ?」


 堕転した後の "もう1人の自分" と共存することは難しい。

 しかし、その分だけ成長も出来る。

 "世界の加護" を知り、背くことが出来るようになる。


 つまりは、この輪廻した世界から未来に進むことが出来るようになる。


 そうやって成長することで、私だけではなく、ずっと先を行く咲九も "現実" を受け入れることが出来た。


「アイツなら大丈夫――だと思いたい」


 不安要素は無い訳じゃない。

 それでも今は、紗穂のことを信じることしか出来なかった。


「お前の話じゃ、もう二度と輪廻はしないってことなんだろ? なら、もう他に手は無いだろ」

「そうね。遠音がそう思うのなら、無いのでしょうね」

「お前には方法があんのかよ?」


 思わず訊ねた。

 だが、瞬きをしたその一瞬で咲九は居なくなってしまう。


 周囲を見回しても、どこにもその気配は無かった。


「おい、咲九! オレはまだ、お前に……」


 ――何も教わっていないのに。


 言おうとして、違う、と頭を横に振った。


 教わったことは、全てにおいての基本。

 そこから応用することが、私を含めた未来に進む者へ課せられた運命。


 ――だから、ここで言うべき言葉は。


「……お礼も言えていないのに居なくなるなんて、止めてくれよ」


 でも、咲九ならこう答える気がした。


「そう思うなら、遠音の選んだ未来を見せてよ」




 ここはどこだろう、と素直に思った。


 まるで中ツ国の古い屋敷のような赤、橙、緑色の模様が描かれた壁の部屋がそこには広がっている。

 だだっ広いその中に、天蓋付きベッドが1つ。


 熱か何か出していたのか、冷たい水の張られた洗面器と綺麗なタオルが脇に添えられていた。


「目覚めたか」


 そう言いながら誰かが入って来る。

 が、丁度ベッドの天蓋の所為ですぐには判別出来ない。


 扉の鍵まで閉めたその人物が私の方へやって来る。


「警戒することはない。ここはまだ誰にも発見されてはいない、私の秘密の部屋の1つだから」


 その人物が脇までやってきて、ようやくその顔を見た私は目を丸くする。


「羽生、か?」

「驚くことはないだろ」

「いや、だってお前、口調とか……そのピンクの髪とか、長さとか!!」


 羽生はすっかり雰囲気が異なっていた。


 今までの関西弁ではないし、発光しているかのようなピンク色の髪になっていて、しかも下の方でポニーテールにしていた。

 それは、過去に咲九が見せてくれた一面にそっくりだったが、オーラは羽生そのものだったせいで、どう接したら良いのか解らなくなる。


「そう――君が何も驚くことはない。本来の私に戻っただけなのだから」

「本来のって?」

「今の君には関係のない話しだよ。それよりも、外で死神が待っている。早く行ってやれ」


 "死神" という単語は私を大層に驚かせた――ということは。


「オレに魔力を送ったり、こちら側に助けてくれたりしたのは羽生なのか?」

「何を今更。……そうか、これがまだ雷神の記憶も完全ではない、ということなのか」


 羽生はそう独り答えてから溜め息をつく。


「私の固有能力で遠音の魔力は完全に戻しておいた。全力で戦っても、少なくても3日は保てるはず。それ以降は反動で計3年ほど使えなくなる」

「つまり、あと3日の内にどうにかしろ、と」

「それが終わったら残りの記憶も次第に思い出すと思う。……今は、それしか伝えることは出来ない」


 どうやら羽生も世界の影響は受けているらしい。


 ならば、長居は不要。

 そう思った私は立ち上がろうとして、ふらつく。


 それを羽生がやんわりと支えてベッドに戻してくれた。


「そう焦っても、他の属性神はまだ学園の中。本当はもう1日くらい目覚めるのが遅くなってくれた方が良かったのだけど」

「いや……蓮が、死神が待っているってことは、現状を伝えに来てくれたんだろ。でも、きっと自分の目で見ないとオレは理解出来ない。そういう点では、1日早くて正解だったと思うよ」

「そうか。残り2日間で対処出来る、そう思っているのか……」

「……全力で3日なら、今日は力を抑えれば良いだけの話し。何も、今日から全力を出す必要は無いだろ」


 足の感覚を取り戻し、しっかりと地面に足を着けて立ち上がる。

 羽生の不安そうな顔が咲九に被りながらも、咲九よりも表情豊かな羽生を見て答える。


「行ってきます」


 今は前だけを見て進む。後のことは、後に考えれば良い。

 それに、本物ではないにしても咲九の顔を見れたことで、私の中にあった気持ちは高ぶっていた。




 眩しいのだろうと覚悟して部屋の外に出る。


 しかし、そこは全く眩しくなどなかった。

 むしろ、曇り空よりも暗めの雲で覆い尽くされた空は、今から起こるだろう嵐を予兆しているかのように思えた。


「姉さんが "借り" を作っておいてくれて助かりましたね」


 不安を更に不安にさせる発言をされた。

 気配を凄く薄くしているものの、建物の側面に蓮らしき姿を発見する。


 どうやら、過去の咲九が羽生に借りを作っていたらしい。

 そう思いながらも、近付きながら答えてやった。


「アイツのことだから、どうせ恩着せがましく押し付け商法でもしたんじゃねぇの?」

「まぁ、そういうことにしておきましょうか」


 蓮は適当に答えて空の1点を指す。

 そこを見ても厚い雲にしか見えなかったものの、良く目を凝らしてみて気付く。


「船……しかも、巨大な何かがある?」


 それは人食の繭とも異なっていた。

 どんよりとした雲と同じような灰色だったためか解りにくくはなっているものの、尋常ではないオーラを放ちながらもそこに浮き続けている。


 ……そう思いながらも、私はその高台から目線を下にする。


 そして、思わず息を飲んだ。


「何だよ……何で……」


 それは地獄絵図だった。


 全く動かない人間が地面に転がっていた。

 既に息をしていないことは、生命の証しでもあるオーラが全く出ていないから理解できた。


 それが遥か先の道路だけではなく、隣のビルの屋上や赤い鳥居の中にも点々と続いている。


 更に言えば、人の気配が全くと言って良いほど感じ取れなかった。

 しかも、中には他殺されたのか、空気に鉄のような嫌な血の臭いが混ざっている。


「……これは、夢、だよな?」

「・・・」


 蓮は何も答えなかった。

 それが答えだということは、理解したくなくとも理解せざるをえなかった。


 ――しかし、解らない。


「邪神の狙いは、属性神への復讐じゃないのか……? 人間を殺すことが目的じゃないだろ……? なのに、何でこんな酷い…………」

「魔力暴走」


 蓮が呟き、ゆっくりと空の船を見上げる。


「姉さんは何も言わなかった。でも……もしも僕が人間の理想上の神だったら、こんな世界、一度ぶっ壊して作り直したいと思う気がします。誰もが思い通りに動く世界……自分の言う通りになる世界を」

「……そんな世界、つまらないだろ」


 想像して答えた私を振り返った蓮がクスッと笑う。


「姉さんも同じことを言っていましたね。でも、そういう欲望……ここまで来ると野望とでも言うのでしょうか。まぁ、そのような想いを抱えてしまう神が居ないとは限らない。まして多量の魔力さえ手に入れば神にすら成れる世界ですからね。しかし、多量過ぎる魔力は自身をも破壊する。それがまだ、器の破壊なら仮死で特に問題もありませんが」


 器よりも先に精神が破壊した。

 咲九はそのことも堕転と呼んでいた。


 堕転して共存出来る者も居ない訳ではない。

 でも、大半の神様がその欲に負けたように、敵である存在も負けてしまった。


 蓮が言いたかったことはそういうことだと思う。


「邪乃丸が出て来るか、邪神が出て来るか。それは、ずっとこっちに居たお前でもまだ解らないんだろ?」

「というよりは、敵は誰にも正しい名で名乗っていない可能性が高いですね。姉さんが "里の主" と呼んでいたのは、敵に名前が無かったことに加え、敵が名乗っていた死神という存在が目の前に存在していましたし……ややこしいと思ったから、そう名付けていただけです。それに、属性神の記憶を戻すには、里の主か邪神あたりが敵だと思わせた方が後の効率が良くなりますから」

「ったく、相手の正体が解らねぇのに、どうやって対処しろっていうんだか」


 呆れながら答えていたものの、心底ではその相手を睨みつけていた。


 自身の理想郷のため、人間を殺して良い道理なんてない。

 まして、人間を殺して魔力を得たところでそんな野望は実現しない。


 人間が想像している神は、あくまでも想像上の神。

 神様は万能ではなく、複数が依り集まって奇跡を起こせる程度の存在。

 しかも、それが人間の幸運になるか、不運になるかは奇跡を起こした神様であっても解らない。


 ——邪乃丸の存在のように。


 そのことは、四大神である邪神なら知っていなければならないことのはずだった。


「もし邪神なら、神様として失格だろ。そう考えたら、邪乃丸なんだろうな……」

「……僕の考えを言ってもいいですか?」


 私の呟きに蓮が訊ねた。

 頷き返せば、蓮は話し始める。


「神が生まれる時、世界にはその神と対になる魂が誕生するようです。僕はそれが真実だと思っています。つまり邪神にも対が存在した――それが邪乃丸だったのではないか、と思います。でも、だとすれば、邪乃丸と邪神は対でありながら上下関係にあった。邪神が邪乃丸を必死で守ろうとしていたのは唯一心を許せる存在だったから、という考えもあるんです」


 理解出来ない訳ではなかった。

 私も咲九を守れたら良かったのに、と思う。


「その関係がもし今も続いているとすれば、"邪乃丸が死んだ未来" に進んで欲しくないから、当時の邪神が輪廻を引き起こしている可能性も無いとは言えなくなります。更に言えば、邪神と邪乃丸、両方が違う目的で共闘している可能性も決して低くは無いですよね」

「それは邪乃丸が死んでも、邪神が死んでも、どちらにしても輪廻は引き起こされるのではないか、ということか?」

「そういうことですね。まぁ、僕の勝手な推測ですが」


 私は黙り込む。

 もしもそんなことになっていたら、この世界から一生抜け出せないのではないかと。


「……そうならないためにも、今から僕は山神の元に行こうと思っています」


 蓮は答え、目を閉じる。


「一緒に来るか、来ないかは雷神にお任せします」


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