224 ▲(☴) 神器を迎えに⑤
一方的に風見さんが襲い掛かって来る。
ただ逃げ惑う私の所為で、沢山の本が空中に舞い上がっては、風見さんの攻撃の所為で粉々に散っていた。
その風をも利用して、風見さんが私に襲い掛かって来る。
――どうしてこんなことになったのだろう。
それでも、私はまだ、迷い続けていた。
戦いたく無かった。
風見さんの扱う "過去の呪" は、過去の過ちの分だけ杭が刺さってゆくという怖い代物。
だから一度の攻撃でも受けたくは無かった。
まして自分の神器を未だに "壺" しか持たない私では、ただ逃げることしか出来なくて。
とうとう、図書館の隅に追い詰められていた。
真上には風見さんの魔弾が、目前には風見さんが居る。
逃げようがなかった。
「何で……」
風見さんの目は金色に輝いて、本気だということを私に伝えて来ていた。
まるで、香穂里が堕転して魔力暴走を起こし、私の首をその両手で絞めていた時のような、本気の目。
思い出して更に恐怖した私は、その場に蹲ることしか出来なかった。
そして、私の背中にその剣が刺さる。
途端に、その神器の能力でいくつもの杭が刺されたことも、感じた。
強烈な痛みが全身を襲う。
蹲って何ていられなくて、思わず私は悲鳴を上げていた。
その痛みが、私に "現実" を教えてくれる。
――私、ちゃんと生きていたみたい。ここはやはり、夢では無い……
咄嗟に、私は十字架を胸元に当てていた。
そして呪文を唱えると、その杭は見る見る内に地面へと転がり落ちて行った。
先程までの激痛は無くなったので、そのままの勢いで風見さんに立ち向かう。
そして、十字架を少しだけ大きくさせて風見さんのもう一振りを抑え込む。
ふと、風見さんが笑った気がした。
不思議に思う間にも、風見さんは私から剣を放し、距離を置いてから私の十字架を指している。
「・・・?」
風見さんには警戒しつつ十字架を見れば、そこにはヒビが入っていることに気付かされていた。
「え? あっ……」
――そして、思い出す。
過去にも一度、ここに来たことがあったことを。
その時の私は本当に何も知らなくて。
しかも、属性神では私と遠音しか生き残ることが出来なかった時で。
地界は香穂里が壊してしまった為に困惑した私は、最終的に遠音に連れられて境界のここに辿り着き、そこで最後の時を静かに待っていた。
「待つだけじゃ、つまらないだろ?」
そう言った遠音は、いくつかの条件を私に課していた。
それは、今思えば今回の守護神が課した条件と全く同じだった。
最終的に地神の神器 ・"森羅の書" を入手した私だったが、その時の私は既に輪廻することを望み、未来に記憶を残すことを拒否していた。
「じゃぁ、こうしようぜ!」
遠音は私に面白い提案する。
「未来のオレら属性神が全員でここに来られたら、この時の記憶を香穂里に思い出させる。で、その時に誰かが欠けていたら、来られた属性神の誰かに思い出させようぜ!」
「は!? それに一体何の意味があるのだ? そもそもボクが地神だと決まった訳では……」
「だから、だよ。ここに全員で来られたとして、未来のお前も、きっと自分が地神だと自覚はしていないんじゃないかと思うんだよ、オレは」
言われて黙ったのは、それが未来のこと過ぎて想像できなかった為だった。
しかし、現に今の私がそう思ってしまっている。
「未来のお前に自覚させる為にも、その過去の神器の核の一部をお前の十字架に入れておけば、未来のお前だって信用出来るだろ?」
「まぁ……しかし、そうなるとしても、だ。何で香穂里や他の奴に思い出させる必要があるのだ?」
「自分で思い出したくないって、そう言ったのはお前だろ?」
遠音はそう答え、不思議そうな顔をする。
「それとも、未来のお前にそんな自信があると言えるのか?」
「過去のボクは "森羅の書" の一部を大聖堂に封印して――そうか、風見さんがボクのことを気にしてくれたのは、神器を自分で封印した所為で記憶がなかなか蘇らない事実を知っていたから、だよね?」
風見さんの頷きで今までの行動を理解した私は、心が凄く温かくなったことを感じていた。
今なら解る。
私が地神であることを悩んでいたのは、大元の地神が属性神であることを悩んでいた為。
相方の炎神に頼ってばかりの自分が嫌だったことに加え、炎神をも凌駕する新たな属性神・雷神の存在を受け入れられなかった為。
本当は相方のその座を雷神に奪われることが嫌だったのかもしれない。
妙な執着心があったのかもしれない。
そんな頃に邪乃丸を知った地神は、その魔力を食べることで女神の恩恵を受けようと足掻いた。
しかし、最初から欲望と葛藤していた地神には効果は現れなかった。
「 "森羅の書"――君はボクの封印にも抵抗することなく受け入れてくれたよね」
私はそっと十字架に頬を寄せる。
「何の説明も無しに分離して、封印までしてしまって、申し訳ない」
『シンラは、主様に従うこと、誇りに思います』
少女のようなあどけない声が返ってきた。
これが私の神器の証しであり、私が地神である証しでもあるという過去の地神を思い出す。
「香穂里は――既に大聖堂の封印を解いてくれたのか。ボクは、どうも自分で決断出来ない所為か、他人を巻き込みたいらしい」
『承知しております』
そして、私は "本を食べた" という出来事を思い出す。
あれは、"もう1人の私" が魔力を欲して勝手にやったこと。
その本も、恐らくは司書さんが大切にしていただろう古い文献あたりだとは思う。
薄らではあったものの、その記憶が蘇って来る。
きっと、昔から私の中には "もう1人の私" がひっそりと居たのだとは思う。ただ、この "もう1人の私" は決して悪い子ではなかった。
魔力が不足している時に、私に魔力を補給させる為に出て来るだけ。満足したら勝手に眠りに入る。
だから、これが所謂 "堕転" だと自覚していなかった。
「おいで、"森羅" 」
私は十字架を放ち、その名を呼んだ。
"もう1人の私" が封印していた "森羅の書" が、言葉に応じて手の中にやって来る。
小さな人型だったそれは、しかし、すぐに書物の姿に成った。
私はそれを優しく抱き寄せる。
『おかえりなさいまし、我が主様』
こうして私は、自身が地神であることをやっと認めることが出来た。




