221 ☴ 神器を迎えに②
風神の神器を守る為、その扉の奥は暴風の結界が施されていた。
――でも、今なら行ける気がする。
そう思って踏み込めば、暴風はあっさりと私を受け入れてくれた。
一度目とは違い、今は暴風が私を避けているようにさえ思える。
その中に、緑色に輝く点が1つ。
私は支障なくそこまで歩いていく。
そして指輪型の神器は、丈夫そうな岩の上にただ置かれてあった。
そこが暴風の中心なのか、その上空だけ晴れていて天井が良く見えている。
そして、その神器の下に広がる魔法陣の形を見て全てを理解した。
「私がここに入れなかったのは、あの時はまだ水神が完全には目覚めていなかったから。そして、この魔法陣は過去の水神が私のために封印を施したから。でも、何でこの神器だけ水神の気配が……」
『それだけ、重大な秘密を抱えていましたから』
そう答えたのも目の前の神器だった。
神器には核がある。
故に、魔力に晒されて化けて話せるようになるものもあった。
その1つが、この元祖神器の特徴でもあった。
『過去の水神様にお話ししたのは私です。そして、このように封印して頂きました』
「どうして?」
『それは、私を使用して頂ければ解りますよ』
そう言われて、私は指輪を自身の指に嵌めた。
しかし、魔力が消費されるばかりで記憶が蘇ってくることはない。
だから、私はその指輪を、本来の神器である短刀に変形させてみた。
「うっ?!」
途端に吐き気がして、私はその場で吐いてしまっていた。
傾れ込むように岩に体を預け、落ち着くまで深呼吸する。
吐き気はその一瞬だけで、それ以上には襲ってくることはない。
「何が……」
起きたのか。
そう言おうとして、脳内に何かが再生された。
そして再度、吐き気を催す。
でも、今度は我慢した。
神器が思い出させてくれたことは、岸間さんが前に言っていた "辛い出来事" の一部始終だった。
あの時、私達には岸間さんに何が起きたのかさっぱり解らなかったが、今なら解る。
あそこで岸間さんが吐かなかったことが逆に凄いと思えるほど、その記憶は"思い出せなくても良い内容"であってほしかった。
が、そのことから理解したこともある。
属性神の場合は、その各々の中で弱点を補い合う関係にある。
でも、四大神は個々が強力過ぎるため、もし四大神に何かが起きた時のために属性神が協力すれば封印出来るよう、特殊な術を各々の元祖神器の中に封印してあった。
その時が来ないことを願いつつ、万が一の時には封印が解けて術が使えるようにしてあった。
それが、複数ある内のこの神器の役割だった。
その為に、邪神は私達の核に刻まれた記憶部分にも手を伸ばした。
結果的に色々なことを忘れた私達はバラバラになり、何も知らずに生きることになる。
その間に邪神は地界に降り、一ヶ所に留まって魔力を蓄える日々を過ごした。
しかし、地界に降りた神様には人間と同じように寿命が定められる。人間よりは遥かに長い寿命であっても、人間の体の方に限界が来てしまうのだからどうしようもない。
だから、邪神は輪廻を引き起こし、何度も私達を殺した。
もっとも、輪廻を引き起こす大元が神器なのか、特殊な能力なのか、誰かの固有能力なのか、までは私にも解らない。
しかし、それでも少しずつは先に進んでいたためか、例え輪廻していても限界は何れやって来る。
そして邪神は兄上を、否、祖父や兄上が代々守り続けた地を狙った。
恐らくはそれが原因になって、邪神は悪神に堕ちたのだと過去の私は推理したらしい。
今まで強制的に忘れさせられていたこととはいえ、その内容は冷徹で、卑劣で、残忍で、無残だった。
風神であることさえ思い出すこともないまま殺されていたこともあった。
両親と一緒に斬り殺されていたこともあった。
だけど、少しずつ変化はしてきた。
それは全て、私が "千尋" と出会ってからだった。
『感傷に浸っている場合ではありません』
神器に言われ、私は我に返る。
「そう……だったわね」
思い出せたのであれば、これが終わってからでも全ての過去を取り戻すことはできるだろう。
それよりも、今は戻って報告をしながら、千尋を手助けすることが最優先だった。




