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220 ☉(☴) 神器を迎えに①



「ねぇ!」


 私は後ろの席に座る転入生を振り返りながら訊ねる。


「アンタ、さっきっから何なの? ガンつけないでくれる?」

「あぁ、すまんなぁ。君がえらいオーラ放っとるさかい、黒板がよう見えんでの」

「あ? 喧嘩うってんの?」


 怒りに任せた私はオーラで威圧する。

 半径1メートル以内のクラスメイトは気を失ったり、距離をおいたりと反応があったのに、その転入生だけは微動だにしない。


「ウチを相手にせん方がええで」

「何を――」


 と言いかけた私は、思わず戦慄し身を強張らせた。


 一気に憎悪のオーラが私のオーラに混ざる。

 そして、私の中の欲望が私をも飲み込もうとしていた。


 あまりの展開に思考が追い付かず、私の中の炎が暴れ出す。

 クラスメイトの悲鳴が、紗穂里が私を呼ぶ声が遠くで聴こえる。


「止めろ! 如月!」


 その鋭く凛とした声だけは異様に近くで聴こえていた。


 途端に我に返り、暴走し始めていた私の炎が消える。


 机がひっくり返ったり、割れたり、壁に刺さっていたりと悲惨な現状ではあったものの、一面の水浸しのお陰で飛び火からの火事までは免れたようだった。


 そんな教室から逃げようとしたのか、何人かのクラスメイトが教室の壁際や廊下から私を、そして目の前で互いに睨み合う2人の転入生を見つめていた。


「邪魔すんのかいな? 水神」

「・・・」

「……まぁ、ええわ」


 そう答えた転入生の如月はふっと笑った。


「アンタらが勝つか、私らが勝つか、……勝負やね」

「勝負も何も、世界はアンタにだけは壊させない!」

「おー、おー、怖い、怖い」


 嘲笑いながら答えた如月は、瞬時に右手に1本の杖を取り出していた。


 それを見たもう1人の転入生が杖を止めようとする。

 しかし一瞬故に間に合わず、瞬きの間に教室は元の教室に戻っていた。


 何故か私だけが後ろを向いて立っていた。

 否、私ともう1人の転入生だけが立ち上がっていた。


 他のクラスメイトや転入生の如月はきちんと席についている。

 まるで私らだけが時間に取り残されたような状況になっていた。


「あれ? 何で宮本さんが如月さんの机の隣に居るの?」

「今、一瞬で……」

「授業中に歩く何て、前の学校ってどんな授業をしていたのかしら」


 そんなクラスメイトの内緒話が耳に入って来た。

 しかし転入生の如月だけは、私らを見てニヤニヤと笑っている。


 苛立って魔力を拳に溜めようとしたものの、それをもう1人の転入生に止められる。


『相手にしたらダメ』

『何で……』

『元に戻されるだけだから』


 そうして過去の千尋は歩いて自分の席に戻って行った。




 そういえば、大昔の輪廻の中にそんな一面があった気がする。

 ずっと忘れていたとはいえ、どうして今、このことを思い出したのかはさっぱり解らなかった。


 でも、あの時、千尋が引き止めてくれなかったら私が輪廻の藻屑になっていたのではないか、とは何となく思った。


 私が如月のことを最初から嫌いだったのは、元を辿ればこれが原因だった気もする。

 数分とはいえ如月の力で過去に戻れたということは、輪廻を生み出していたのは如月だったのかもしれない。


 でも、理由は解らないが――私が良く知る優しい如月とは、あの時の如月は雰囲気もオーラも何もかもが違う気がするし。




 ある時は、星空を眺めながら、私、千尋、如月の順に並んで草原の上に座っていた。

 補習組の合宿とクラス代表の合宿が被ったあの晩の、幻想的な流星群は今でも忘れられない。


 その中で、私らは互いのことを語り合っていた。

 千尋は魔物のことまでは話してくれなかったまでも、”生きる死体" と呼ばれて虐められていたことは話してくれていた。


 だから私も、パパが死体蘇生術を使える事実を話ししたことがあった。

 しかし、蘇生術の効果(デメリット)として日数が限定されることや、想いを残しておくことが出来ないことを話す。


「それは全て、私の所為ね」


 如月はどこか悲しそうに話し出す。


「本当は、私は山奥で静かにひっそりと、誰にも知られずに生活を送らなくてはならなかった。それは私の存在自体、あってはならないものだったから。でも、私はある願いを聞き入れてしまった。その願いのお陰でその子供は救われたわ」

「それが蘇生術だったの?」


 私の質問に如月が失笑する。


「それに似たようなことをしたの。でもね、その子供は結局、死んでしまったわ」

「どうして?」


 千尋の質問に如月が目を伏せる。


「何の代償も無しに、無限の魔力と不死身を得て生き返った子供――人間の探究心は欲望となって、その子供は沢山の薬物を投与されたの。そして研究し切った後、どうしたらその子供が死ぬのか、という探究心が出て来てしまった」

「それで殺された、と」


 頷いた如月は顔を上げる。


「残されたのは、その研究結果だけだった。そこからは人間の探究心から魔力が研究されて、今に至ったの。でも、人間は私の予想を遥かに超えた実験から、同じような子供を、人間でいう "神" を創り出すことに成功してしまったわ」

「良いことじゃないの?」


 と答えたあたりで、ハッと気づいて千尋を見た。


 それが魔物のことだと悟ったものの、もう遅い。

 千尋が私から目を逸らす。


「正直に言えば、その体験は千尋だけじゃないのよ」


 如月はゆっくりと立ち上がって夜空を見上げる。


「むしろ、虐めだけなら良くある話し。創り方も殺し方も解っている不死身の存在――人間はそういう研究しつくした存在を格下に見る傾向があるの。海外では奴隷として〝神〟を生み出し、痛覚を除いて戦争に使われ始めてもいる。それらを一掃するための薬は、もちろん人間にも劇薬と化す。つまりは、生物兵器よね」

「何でそういうことに使っちゃうのかなぁ」


 思わず、私はその一言を呟いていた。


 でも、欲望に染まった人間が考えやすいことなのは、嫌でも良く解っていた。

 海外の岸間家はこの件に絡んでいることも何となく理解する。


「2人がしっかりとした優しい心を持つ神で良かった」


 不意に如月はそう言って私らを見下ろした。

 その顔に、背景と同じような光の粒が流れている。


()()()()()わね」




「如月!!」


 私は手を伸ばした。

 が、それが届く前に夢の中の2人が消えてしまう。


 その代わりに真っ白の部屋が広がっていた。

 カーテンが風に靡き、どこかの窓が開いているのだと解る。


「ここは……現実?」


 と呟いて言葉がきちんと耳から入ってきたことで、あれが夢だったのだと再確認出来た。


 夢と言っても、あれは輪廻していた過去に実際にあったこと。

 あの直後、誰も堕転していなかったのに異変が起きて世界は輪廻してしまう。


「起きた?」


 振り返ると、私と同じようにベッドで寝ていたらしい風見が私をじぃっと見つめてきていた。

 風見は先に起きていたのか、冷静に現状を把握していたらしい。


「儀式は成功したわ。暴風に負けた私達のことを、本谷さんが助けに来てくれたことまでは覚えているから。でも、魔力を使い切った私は深い眠りに……」

「それは、私も同じ。でも、儀式が成功したと聞いて安心したわ、ありがとう」

「いいえ。むしろ、私こそ……千尋を救ってくれてありがとう」


 互いに言い合ったあたりで、ドゴンッという嫌な音がした。

 その音は次第に回数を増やし、大きくなってゆく。


 2人して天井を見上げ、建物の更に上にあるだろう結界の様子を窺った。


 が、どのくらい眠っていたのか解らないまでも、魔力が完全回復している訳ではない私らでは、境界の結界が危険に晒されているということまでしか解らない。


「……神器を、取りに行きましょうか」


 そう切り出したのは風見だった。


「岸間さんも、条件はもうクリアしているのでしょう?」

「も、ということは、風見もクリアしたの?」

「うん」


 小さく答えた風見は悲しそうな表情をして私を見た。


「多分だけど……千尋が神器の力を借りて守護神と共に必死にここを守ろうとしているけど、このままだと共倒れになってしまうかもしれない、そんな気がするの」


 そう言われてから2人の気配を辿ってみた。

 そして守護神に訊ねる。


『紗穂里は? もとい結界は大丈夫なの??』

『目覚めたのね?! 良かった! 今、本谷さんは最後の条件を探しているわ。宮本さんが、今必死で時間を稼いでくれているの。だから、貴方達も早く、神器を!』


 守護神の発言に疑問を感じたものの、私は風見を見て頷いた。

 風見にも聴こえていたのか、風見も頷き返してくれる。



 ――紗穂里は、私が手を貸さないと神器まで辿り着けないかもしれない。


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