212 ☈ 邪乃丸
『聴こえるか?』
不意に聞いたことも無い声がしたかと思って、私は攻撃の手を休めてしまっていた。
宮本の胸元に刺さった神器を通して、何故かその声が聴こえている。
『水神の、器、治せるか?』
『その為に、外じゃ炎神が苦労しているはずだが――お前は誰だ?』
ただ、何となく予想は出来ていた。
天界での水神の不審な行動を知っていた死神が、前にチラッと話してくれた気がしなくもない。
しかし、敢えて頭を横に振った。
『いや、今の質問は忘れてくれ。それより、そんなことを聞いて何をする気だ?』
『本物の、水神を、魂だけ、外に出す』
『やっぱり ―― "もう片方の人格" は話せそうにもない相手なのか?』
『これは、そういう相手では、ない。水神に、勝手に憑依して、乗っ取った奴だ』
私は目を丸くしていた。
次の瞬間、宮本が激しく細かい魔弾を放って来たので、神器を無理に引き抜いて宮本から距離をおく。
が、その神器の先に何かが宿っていることに気付かされた。
先程の何者かの話しから、"もう1人の人格" とは別の水神の宮本に憑依した者を相手にしていた、ということだと察した。
だとすれば、まだまだ先が長いことを私に伝えていた。
だが、これではっきりと理解出来たこともある。
憑依されていたということは、宮本の魂はまだ生きているということ。
それも、体が乗っ取られるという危険性はあったものの、その大元の体が既に半壊状態なのだから、完全に乗っ取られても特に問題は無いということ。
しかも、先程の質問と神器の先に居る魂の存在から導かれる答えは1つだけ――宮本の魂を外に出すから、この想像の世界の中の、宮本の体ごと相手の魂を壊して欲しい、ということだろうと察した。
『お前はちょっとだけ、こっちに居ろ』
宮本の綺麗な青い魂をひょいっと掴んだ私は、そう言いながらもポケットの中に思い切り突っ込んでみた。
それだけで壊れるほど軟な魂では無いことくらい、解っている。
小さな悲鳴は聴こえたものの、無視して宮本の懐に神器を構えて突っ込んだ。
驚くくらいあっさりと、見事に同じ胸元、同じ個所に神器が突き刺さる。
だが、そんな宮本は何故か嬉しそうに笑っていた。
そして、恐らくは体内で繰り広げられていただろう会話が聴こえて来る。
「術式が無効化される……だと?! 貴様の所為で――また死ぬのか?! まだだ!! まだ、死にたくはない!!」
「これが、水神の、願い。これが、水神の、想い。お前は、おれと、死ぬ」
どうしてそうなったのか、理解までは出来なかった。
だが、完全に止めを刺した訳ではないと知ることは出来た。
宮本を想ってくれる相手を救い出してやりたかったが、もう片方が暴れないとも限らない。
その片方を押さえる為に残ったのだろう。
残念ではあるものの、仕方ない。
私は神器を通して時限爆弾式の魔弾を込め、宮本から離れる。
しばらくして、2つの悲鳴と共に宮本の想像上の体は破裂した。




