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207 ☉(☈) 遠音の危機

 仮眠をして目を覚ますと、遠音が脂汗を浮かべながら部屋の隅に蹲っている異変に気付いた。

 近付こうとして、遠音の結界に阻まれる。


「ちょっと! どうしたの?!」

「……うぅっ……」


 そんな遠音の体からは、何故か水神のオーラが溢れ出て来ていた。

 それを見て、千尋の危険なオーラを遠音が抑え込んでいたのだと悟る。


 同時に、炎の私では千尋の水で消火されてしまって手助け出来ないのだと気付かされた。


「ま、待ってて! 今守護神を呼んで――」


『呼んだ?』


「うああああぁぁぁぁ!?」


 ほぼ真後ろに守護神が現れていた。

 あまりに唐突過ぎて叫んでしまったが、しかし、私がここで頭の中を真っ白にさせても意味は無い。


 一度深呼吸をしてから答える。


「遠音の様子が!!」


 守護神が遠音に目をやった。

 そして察したらしい。


『だから言ったのよ……それを使ったら引き込まれるかもしれない、と』

「どういうこと!? ねぇ、どうしたら遠音を救えるの?!」

『……水神を起こす以外に方法は無いわ』


 その一言に私は唾を飲み込んでいた。


 術式の解読も修正もほぼ終わってはいる。

 が、時計を見ても、風見が仮眠しに行ってからまだ4時間ほどしか経っていない。


 しかも、遠音が居ない状態で術式を使えば、結界を張る役目が居ないのだから、もしものことがあればこの境界自体を失くすかもしれなかった。


『どちらにしても "賭け" だということは、雷神自身が言っていたことよ』


 守護神はそう答えつつも、少し歩んで遠音が張り続けるその結界に軽く触れていた。


『これ以上、世界はもう二度と輪廻しない。だから炎神の術式に賭けるしかないとも言っていたわ』

「輪廻しないって……遠音が言っていたんですか?」


 守護神は黙った。

 それが答えなのだろうと勝手に思って、私は仕方なく軽く目を閉じる。


「……解りました」


 今までは、遠音が千尋や紗穂里を含めた私らを守ってくれていたのだから、今度は私らが頑張る番。


 術を使った後は、私が魔力を空っぽにしてしまうかもしれない。

 でも、それから先のことは契約者になる風見に任せよう。


 その為にも、術式を間違いなく、正確なモノとしたい。

 それを重視するならば、術式を巨大にするしかない。


「あの術式を描くので、それまでの間、校庭からの人払いと……遠音を頼んでも良いですか? 描き終わったら、風見は私が起こしに行きます」

『解ったわ』

「それと、無事に終わったら先生が使っているシャワー室、貸して下さいね」


 私は何となく守護神の正体に気付いていた。


 そもそも、守護神からはほんのりと石鹸の匂いがする。

 つまり、どこかにはシャワー室があるのではないかと思っていた。


 そして、その場所を知っていて、更に鍵を持っているとすればこの学園の教師だけ。それも、夜間の見回りの為に学園に残れる独身で若手の教師だけだった。

 そのルールはかなり昔から適用されていたはずだから、去年の雰囲気を残す境界でも、その鍵が無ければ入れないと思ったからだった。


 ちなみに、過去に学園内は満遍なく探索したはずだったので、恐らくそのシャワー室は(準備室のような)特殊な場所にあることだけは解っている。

 もっとも、それら全てに該当する女の先生は2名までに絞られる。


『……いつから気付いていたの?』

「最初から、ですね。攻撃された時には、既に先生、良い匂いがしていましたから。それに、遠音が敬語を使っていたことも気になって。きっと、遠音がかなり距離を置く人物――先生なんだろうと。それと、神様では無いとなると、防護服を魔力で作成して体を急成長させるような大掛かりな変身はそうそう出来ないとパパから何度も聞かされていたので。今も先生は、変身している訳ではないのでしょう?」


 つまり、今の守護神の姿が本当の姿であり、普段の体型でもある、ということ。

 そして、肩幅や胸の大きさから思い当たる教師は1名にまで限られる。


 もっとも、この境界が去年以上の大昔だったとすれば、話はまた変わってくるが。


「でも、先生がその中の誰であっても問題は無いです。”先生" という事実は変わりないでしょうし、今は遠音を助けたい。千尋を起こしたい。今の私は、目の前に起きていることだけに集中するべきです。それが結果的にパパや家族を助けることに繋がるんですから」

『成長したわね』


 その先生の一言でやっぱり、何て思ったものの、


「バカにしないでください!」


 私はそう答えていた。


 でも、正体が解った為か、言われても全く気にならなかった。

 というのも、この先生が生徒から支持されていないことは、今に始まったことではないのだから。


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