205 ☴(☉☈) 効率よく
次の条件が最後だと言われて困惑したものの、とりあえずその場所に行ってみることにした。
そして、その場所に着いてから納得せざるを得なかった。
『風神の神器に会って来ること』
その場所は食堂の奥の "開かずの扉" の、更に奥。
が、その扉の先にあったのは凝縮された異世界だった。
しかも、荒れ狂う不規則な強風によって自身の結界すら破壊されてしまう。
どんなに頑張っても前には進みにくかった。
『いや、全然、進んでないから』
不意にそんな呆れた感じのツッコミが心の底から聴こえて来た。
今、後ろを向いたら1メートルは進んでいる……はずだった。
『いやいや。だるいけど後ろ見て』
言われて、後ろを見る。
そして……目を疑った。
私はその扉の中に入っていた、はずだった。
目の前には強風が吹いている。
なのに、私はその場から一歩も前進していなかった。
後ろには暴風も何も無い空間が広がっている。
思い返してみれば、確かに体に当たってくるはずのその強風は感じられなかった。
全く進めていないのであれば、頑張っても意味は無い。
だからその場で立ち止まり、腕を組む。
『うーん……困ったわ!』
『……本当に困っているの?』
『……困っているつもりよ』
『少しは考えようよ!』
自分の中の "怠惰" にもツッコミを入れられてしまうほど、今日の私は既にやる気を失いつつあった。
今日が強風なら待つしかない。
それが私の答えだった。
でも、もしも強風が魔法によるモノならば、明日以降でも話しは変わって来る。
それが解らない以上、1日はとりあえず待つべきだと思う。
そう思ったら、途端にやる気を失った。
一気に気だるさが増して来る。
でも、そういう訳にはいかないだろうとどこかで思っていた。
何より、保健室のベッドで仮眠して目覚めた時、既に岸間さんと永瀬さんが隣に居なかったことが気になっていた。
岸間さんの食べかけの唐揚げ棒も、唐揚げが1つだけ残されたまま放置されてあったし(私が美味しく頂いてしまったけど)。
『……千尋のことで、動いているのかもしれない』
どこかでそう思った私は、その重い足をゆっくりと動かした。
所々に浮かんでいた雷神の気配を頼りに辿り着いたのは理事長室だった。
その部屋の戸を開ければ、解っていたかのように永瀬さんが軽く顔を上げてくれる。
一方、その手前側のソファーでは岸間さんがぐっすりと眠っていた。
「……条件は終わったのか?」
「今日は休憩。ちょっと様子見して、明日から動く」
「さっさと終わらせちまえば良いのに」
こっちの悩みも知らずに答えた永瀬さんの質問に答えながらも、私は戸をゆっくりと静かに閉めた。
そしてソファーのもう片方に腰を下ろしながらも、そのテーブルの上に広げられた様々な資料に目を移す。
流石に魔術系の文字は読めなかったものの、それを要約していたらしい岸間さんの字で書かれたメモを発見し、それを手にしようとした。
が、それを向かい側の、眠っていたはずの岸間さんに引き止められる。
「それを見る前に、アンタは一度、しっかりと休んだ方が良いわ」
「……起きていたの?」
驚いてそう訊ねれば、岸間さんはゆっくりと体を起こしてくれる。
「半分うたた寝していた、というのが正しいかもね。翻訳作業も単調で疲れるのよ」
「私は平気よ?」
「いや、お前、少しは気付け」
永瀬さんに言われて首を傾げた。
と、岸間さんが大きな溜め息をつく。
「自分の髪の毛、見てみたら?」
「髪?」
言われても、私の髪はショートなので解らなかった。
岸間さんはあの神器の鏡を(いつ抜いて来たのだろう?)貸してくれる。
そして、自分の髪を見て素直に驚いた。
「真っ白……?」
「魔力が体内に少ない証拠だ。そんな状態じゃぁ、お前に頼みたいことがあっても頼めないだろ」
永瀬さんに指摘され、私はやっと、自分に魔力が無かったことに気付かされた。
もしかしたら、あの強風を進めなかったのは魔力不足だったのかもしれない。
そう思ったら、本当に今日は体を休ませることを最優先にした方が良さそうだった。
「まぁ、特殊な呼吸法を自然と使っているのか知らないけど、魔力の戻りは早いみたいだし、一晩も寝たら十分でしょ? そうしたら、またここに来て頂戴。千尋のことで、アンタにしか頼めないことが出来たから」
岸間さんの "千尋" の単語に過剰に反応しながらも、どうやら魔力が無いと話しにならないことらしいと理解した。
だから素直に頷き返す。
「魔力が戻ったら、千尋のことで私も参加出来るのよね?」
「というか、適任がお前しかいない、が正しい。オレじゃぁその役割すら果たせない可能性が出て来たってだけだな」
「なるほど」
善は急げ。
私は立ち上がり、さっさとその部屋を後にしてベッドがある保健室へと向かった。




