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203 ☈(☉) まずは、1人目

 岸間と一緒に炎神の元祖神器がある場所に向かっていた。

 それは地下に広がる教室の一角、化学室の脇にあった準備室の中に存在しているらしい。


「準備室、なんて……私らじゃ解らない訳よね」


 薬品管理の都合上、基本は教師しか入れないようにされていた。

 危険な薬品があることは良く知っていた為に、岸間だけではなく麻生らも決して入ろうとはしなかった場所。


 境界(こちら)の中にも薬品は存在していたものの、確かにどれも危険なモノばかりだった。


 ここで火事が起きていたら大変なことになっていただろうな、何て思いながらも、岸間自身がその奥の扉を発見し、ドアに手をかけていた。


「……まぁ、一筋縄では行かないよね」


 解っていたように答えた岸間はドアノブを放した。

 途端に、周囲に結界が張り巡らされる。


 咲九が雷神の神器を手に入れた時にもこの結界は発生していたことを思い出しながらも、私はその場から上空にジャンプして一撃目を避ける。


 見る見る内に結界は異空間を作り上げていた。

 景色が溶岩の広がる大地へと変貌する。


 その岩の1つに着地した私らの視界には、1匹の悪魔が立っていた。

 それが私らに攻撃を入れたのだと瞬時に悟る。


『雷神、避ける必要、ない。攻撃、当たらない』


 相手はそう答えながら私――ではなく岸間を指す。

 指された岸間が凄く嫌そうな表情をした。


『 "シシャノス"、お前、認めない』


 その単語は炎神専用の神器 "死者の守" だとすぐに解った。


 ここまでくれば、後の私は見守ることしか出来ない。

 理解してその岩に座り込む。


『ここで、その力、示せ』

『言われなくとも!!』


 岸間は思い切り黒い炎の魔弾を放っていた。

 もちろん、相手だって相当な手練……そんな魔弾はあっさりと相殺してしまう。


 ただ、その間に岸間は背後に回っていた。

 そして拳に込めた一撃をお見舞いしている。


 ――まぁ、そう簡単にはいかないけどな。


 岸間は距離を取りながらも、しかし、その一撃を加えた拳を痛そうに振り回していた。

 相手は振り返りながらも岸間に魔弾を放つ。


 岸間は方向を変えながら逃げるものの、その魔弾は直角に曲がって岸間の後を追う。

 相殺するしか方法が無いと思ったのか、岸間が魔弾を放つ。


 爆煙と共に見えなくなったものの、その魔弾が岸間を直撃したことはその影から見て取れた。


 "死者の守" は、大元は地界の一角に存在する(と伝わる)、地獄に堕ちた魂が勝手に出て行かないようにする為の神器。地獄に対しては、蓋のような堅さと逃亡する魂への追尾に長けていたと聞いている。

 そんな強固な神器なのだから、生半可な攻撃では通るはずも無い。


『本気出さないと、無理に決まってんだろ』


 思わず岸間に声をかけた。


 もっとも、こんな攻撃で岸間が死ぬはずは無かった。

 煙から抜け出した岸間は右腕をぶら下げながらも相手に巨大な魔弾をお見舞いしている。


「(やっと本気モードか)」


 岸間の顔や、ぶら下がった右腕に黒い模様が浮かび上がっていた。

 それが魔弾を放つ際に赤くなる。


 前に咲九が言っていた、堕転しても例の "賢者モード" を獲得した者のみに現れる、瘴気を扱う際に現れるという模様そのものだった。

 ちなみに、それを真似したのが血で全身を描く禁術だとも言っていた。


 確かに良く似ている。

 禁術のように血ではなく、瘴気を模様にすることで魔力を高めているのだと咲九は説明してくれた。


 相手もやっと理解してきたのか、本気になりつつあった。


 しばらく接近戦での攻防が続いた後に、背中側に隠しながら高圧縮していた岸間の魔弾が決まる。

 そして、ボロボロになった岸間がもう一撃をお見舞いしようとして、真下に居る相手に腕を揮った時だった。


『我、汝に平穏を齎す存在であらんことを……』

『っ?!』


 突如としてその拳が、相手が光を放つ。

 その光が何を意味していたのかは、見なくても解っていた。


 光が納まってすぐに、岸間の唖然とした顔が目に映る。

 そして、その目線の先には1本の剣が握られていた。


 先程までの拳の傷も、ぶら下がっていたはずの右腕も元に戻っている。

 顔に生じていた傷もいつの間にか止血していた。


「認められたんだな」


 結末は解っていた。

 岸間が本気を出せば "死者の守" も認めざるを得ないことも、恐らくは何も問題無く入手するだろうことも、まるで手に取るように理解していた。


 それでも一緒にこの空間に来たのは、その理解していた未来が現実になるのか不安だったため。


 ちなみに、こんなことを思っている間にも景色は既に薬品臭い準備室に縮小されて徐々に戻って来てはいる。


「大丈夫か?」

「平気……」


 しゃがみ込んでいた岸間の顔色は悪い。

 良く見れば、涙を流しているようにも思えた。


「……いや、そんな顔で平気だって言われても……」

「思い出したから」


 岸間はそうゆっくりと答えてくれた。

 眩しいほどの金色の目で私を見つめる。


「前に永瀬が言っていた、天界で悪だと思い込んでいた存在を……神様である私らが、絶対にやってはいけないことを、思い出してしまったから……その責任を、今、負わされているのだと、知って……でも、これって、私らだけの責任ではない気が…………」

「解ったのなら、これからどうしたら良いのかも、解っただろ?」


 縮小の影響か、目の前に移動させられていた、体勢をそのままにしていた岸間の肩に手を置いて、同じくらいにしゃがみ込んでやる。


「敵が、その記憶の中の誰であったとしても、すぐに対応出来るようにしておくこと。今はそれしか方法が無いんだ。その為にはどうしたら良いのか――今のお前にならもう、その答えも解るだろ?」

「……まずは、千尋を助けること、ね」

「そういうことだな」


 ――まずは、1人目。


 私はそう思って安堵の溜め息をついていた。


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