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199 ☉(☈) 融合か共存か

 それから数日が経っていた、と思う。

 朝も夜も変化が少ない為か解りにくかったが、体感的にはそんな感じがしていた。



 そして最後の条件の場所に向かいながらも、私は過去のある出来事を思い返していた。


 私が今の学園の理事長を恨んでいるのは、今の理事長が数人の先生とグルになって、"前の理事長だった祖父が学園の守護者だった叔母を殺した件" を白雲運河に密告したためだった。

 その責任を負わされた祖父は辞任したものの、最終的には自宅で遺書を残して自殺した。


 でも、祖父が叔母を殺した理由は解っていた。


 当時、学園の結界は既に脆くなってきつつあった。

 それは学園の守護者が所持する鍵型の神器に魔力が無くなって来たためだと、祖父は私に何度も言っていた。


 ――でも、違う。今だから、その理由が解る。



 その場所に、私は辿り着いていた。



 まさか自分が初日に来た塔の地下の小部屋の奥に、こんな小さな隠し扉の奥に、隠し部屋が存在するとは気付けなかった。


 空間は妖精のような魔力を帯びてキラキラと輝いている。

 ただ、壁は完全に魔力の揮発を抑える構造になっているのか、私が触れてもビクともしなかった。


 私はその中央まで進み、この学園の結界を作ってくれている魔法石のような綺麗な球体に触れる。



『その今までに集めた魔力を辿って、この学園が何のために創設されたのか――真の理由を知りなさい』


 それが最後の条件だった。

 その為に開けてくれた理事長室で、この球体の存在と意味を知る。



 戦時中から、この学園はずっと境界の中に収められ、守られていた。

 それはこの学園に私らの神器が来る以前から、この学園には沢山の天界への扉があった為だった。


 この学園は、言うなれば全ての世界を繋ぐ場所。

 そして、ここの管理は天界に居たとされる鬼族出身の神が代々受け継いできた場所だった。


 だが、天界が崩壊し、ここの天界とここの境界に繋がる扉から沢山の悪霊や悪鬼が漏れ出した。

 このままでは学園の境界だけではなく地界まで到達されてしまうと知り、当時のここの守護神は地界へと降りた。


 そして、まだ学生だった叔母に強制的に鍵を受け継がせた。


 溢れ出る悪霊を止める為、自らの核を学園の時計台の地下に収納し、時計台が1秒ずつ針の音を鳴らす度に強力な魔力で結界を守るように仕掛けた。

 だから、本来であれば受け継がなくてはならない核ではなく、今の守護神も神器だけを受け継いでいるために、実際にはこの核が、私が触れている球体が、今もこの学園の守護神として顕在している――というのが、真実らしい。


 しかし、やはり神と超能力者では魔力に差が出来る。


 消耗した核は次第に小さくなっていってしまっていた私の幼少期。

 叔母は自ら望んで祖父に殺された。


 核化しつつあった心臓を、学園に点在させられているらしい白い神器に入れてまでも、叔母はこの学園の結界を守ることを選んだ。



「白い神器でコーティングしたこの部屋に叔母の心臓を集めたのは、永瀬――貴方でしょ?」


 後ろから来ていることを知っていたから永瀬を振り返る。

 階段を降りきったばかりの永瀬は私を見て黙って頷いた。



 地界で独自の技術を磨いた雷神には、亡くなった人間の心臓を神器に収める術を持っていた。

 それを知った天帝は非常に悲しんでいたらしい。


 でも、だからこそ雷神を天界に上げなくてはならない、とも示唆していたらしい。

 地界に雷神を置いておけば、何れ天界だけではなく世界中の脅威になるという考えだったのだろう。


「そして白い神器を造ったのは如月でしょうね。あれらの神器を複製する担当は死神だったのだから」

「実際には、2世代前の雷神と死神が、だがな。ただ、何に使うのか、何の為に頼まれたのか、そこまでは聞かない約束だったからこそ、引き受けた。代わりの情報――それが宮本家に伝える為の ”ぬい魔" の存在と、ここの境界を含めた "学園" の現状だったんだよ」


 そう答えてから永瀬は階段に座る。

 私が警戒して身構えていても、永瀬は平然と両腕を組んでいた。


「だから、雷神だったオレの祖母も、オレがここに入学する頃の未来の状況を読めていたんだろうな。学園を守る為にお前の親戚がしたように、オレの祖母も、そして如月の祖母もこの学園に手を貸した」

「……どういうこと?」


 それは私でも解らなかった。

 警戒心を解けば、永瀬は安堵の溜め息をついてから答えてくれる。


「いくつもの "開かずの扉" があるって噂は、お前でも知ってるだろ?」

「あぁ、あの幽霊壁? いくつかあるはずだけど……それがどうかしたの?」

「それら全部に、異様な量の魔力を貯め込んだ白い神器が今も置かれてあるんだよ」


 その一言に私は首を傾げた。

 そして、やがて理解する。


「まさか……この学園を守る為に、わざわざ設置したとでも言うの?」


 永瀬は黙っていた。

 それが答えだったのだろうか、永瀬はニンマリと笑って立ち上がる。


「待って。でも、この学園は元から結界の中。ということは、ここは輪廻の対象外でしょ? ということは……もう何百年も、いや、それ以上もの間、この学園を守り続けていたってことになって……それだけの魔力を蓄え続けるって、そんなこと有り得るの?!」

「有っちゃったんだから、驚くよな」


 そう答えた永瀬に私は唖然としてしまう。


「そんなこと……」

「多分、逆に輪廻を利用したんだろ」


 永瀬はボソリと呟いた。

 しかし、階段を登って行ってしまうので慌てて扉を閉めて、後を追う。


「自分らは輪廻させて、蓄えていた神器は結界の中に残した。推測だが……それを蓄積していったんだろうな。結果的に複数に分けることに成功した、そんなところだと思うが」

「そんなに上手くいくものかなぁ……?」

「見に行ったが、2つだけはしっかりと封印してあったけどな。でも、それ以外は限界が来ているらしい。内1つはもう完全に壊れてたわ」


 そう言いながら永瀬が私に何かを渡して来たので受け取った。

 それは、黒く染まった白い神器だとすぐに解った。


 しかし、黒く染まっている理由が解らない。

 理由が解らないまでも、黒い理由が堕転したから、ということまでは放つ瘴気から理解する。


「魔瘴が付加した、が正しいみたいだが」

「……なるほどね」


 頭を少し整理させてから永瀬に答える。


「人は堕転して瘴気を操れるようになる。それと同じように、悪霊や悪鬼に憑依された人は、堕転と同じ症状が出るか、魔力暴走を引き起こして完全に堕転する。つまり、"堕転" というのはそれらの総称――"もう1人の自分" である欲望が出て来た状態のことね」

「生存者はそれを抑制出来るかどうかの違い、だな」


 そう答えた永瀬は私をチラリと振り返る。


「お前は "もう1人の自分" と融合しちまってるのな、羨ましい」


 しかし、これには思わず失笑を返してしまう。


「岸間家では、その欲望のことを "七つの大罪" だと称していたのよ。その欲望を抑制するための訓練は幼い頃からさせられていたから、嫌でも身に付いてしまったんだろうけど」

「"七つの大罪"、ねぇ……それになぞるなら、オレの欲望は "強欲" かもな。正直、今でも抑えるのが大変だし」

「あれだけ悪霊を "食って" 数日間の眠りに付いた紗穂里は "暴食" でしょうね。まぁ、瘴気まで食べていそうなところを、何故か綺麗に魔力だけ食べていた方法を教えて欲しいものだわ」


 呆れながら返答したものの、蓄積された岸間家の教えが無かったら、今頃は先日の風見のように私自身も呑まれていたのだろうと思うと少しゾッとした。

 あの時、本当に永瀬に私の魔力を託して良かったと思いながらも、白い神器を永瀬に返しながら訊ねる。


「風見の進行具合は?」

「最初で立ち止まったままだな。"怠惰" には打ち勝っているみたいだが……」

「そう見せかけて、意外と負けている可能性はありそう」


 私の返答に永瀬も失笑を返していた。


「その可能性はあるだろうな」


 この怠惰、普段が真面目な人ほど解りにくい、とは良く耳にした。


 修行は、確かに根詰めても良くは無い。

 だから息抜きは必要なことではあるものの、ずっと一緒に居て見ている訳にはいかないので、本当にやっているか、今の私では判断できない。


「で、クリアしたお前にはまだ、やってもらうことがある」

「千尋のことでしょ?」


 ある程度は永瀬と守護神の2人の発言から気付いていたために、少しくらいの覚悟はしていた。


 恐らくは術式の件。

 今では禁術の1つにされている黄泉還りの術――それで出来ることは魂を体に吸着させること。

 千尋はその吸着が上手く固定できていないから眠ったままになっていることは、何となく理解していた。


 立ち止まった永瀬が私を振り返る。


「気付いてたのか?」

「何となく、ね。過去に使われた可能性がある術式はもう入手してあるんでしょうね?」

「あ、あぁ。そのあたりは。後は材料と契約者の問題だが……」


 そう言った永瀬は、校庭の隅で頑張る風見を見た。


 懸命に考えている――ようには見えず、寝ているようにも見える。

 だから私が起こしに行こうとしたものの、それを永瀬に止められた。


「あれは瞑想だ。オーラの流れを見てみろ」


 と言われてから、私はやっと理解して足を止めた。

 寝ていたら絶対に私が起こしに行ってやる、なんて言ってしまってから気になっていたものの、心配いらなかったらしい。


 永瀬に目線だけで続きを求めた。

 それだけで理解したのか、腕から手を放して続けてくれる。


「契約者は、オレが引き受けようと思ってる。本当なら風見と言いたいんだが、あの状況だからな……」

「そうね。現状ではその判断、間違ってはいないと思う」

「問題は、その術式で成功しなかった場合なんだ」


 そう答えた永瀬はまた歩き出したので、私は横に並んでその先の言葉を待った。

 永瀬が唾を飲み込んでから答える。


「成功しなかったら、術者も契約者も消滅するらしい」

「……なるほど。つまりは "賭け" なのね?」

「あぁ。それでも……」

「馬鹿ね、心配しなくてもその賭けに乗るわよ。どっちにしたって、水神が居なかったら崩壊は防げないんでしょ?」


 永瀬の驚愕の顔を見ながらも、その不安を振り払ってあげるように答える。


「それに、その術式――今の "融合した私" なら正しいモノに直せる気がするから」


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