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198 ▲(☈) よくない依存

 悪霊を倒す為、守護神から借りた銀のナイフを片手に、私はゆっくりと大聖堂の地下に入ってみた。


 予想通りに神毒はまだ無かったものの、確かに数多くの悪霊が漂ってはいる。

 どれも、この学園に来る途中で見かけた感じに似ていた。


 戦闘が禁止された区域とはいえ、ここは境界。

 きっと天界から逃げた弱めの悪霊が出口を求めて集ってしまったのだろう。


 とりあえずナイフを揮ってみる。

 が、銀製のナイフは嫌いなのか、悪霊が嫌がって避けてしまっていた。


 なので、今度は壁を作って追い込んでみる。

 それでも、悪霊はふわりふわりと逃げて行く。


「逃げるな!!」


 とは怒鳴ってみたものの、予想通りに効果は無い。

 私は思い切り溜め息をついた。


「はぁ……」


 戦闘向きの能力じゃないことは解っていた。

 物理的なモノから守ったり、物理的なモノで殴ったり、くらいが関の山。


 悪霊も、悪鬼まで成長してくれたら物理的な攻撃が効くものの、ここに居るのは全て弱そうな悪霊しかいなかった。

 しかも、悪鬼何て憑依された人間の状態で見たことはあっても、実際にその本体を見たことも、そもそも相手をしたこと何てまだ一度も無かった。


「どうしたら……良いのだ??」


『困ってるみたいだな』


 不意にそんな声がした。

 すぐに正体を理解して返答する。


 どうやら上の階に居るらしい。


『遠音はどうやってこんなのと戦っているのだい?』

『悪霊には雷もあまり効果無いからな。仕方なく違う属性を使ってるわ』

『違う……属性?』

『紗穂は木属性を持ってるんだろ? そっちを意識して使ってみれば良い』


 そう言われてみても、どうやったら良いのか解らなかった。


『閻魔転生のゲームの中でも言ってただろ? イメージだよ、イメージ』


 遠音は解ってくれたのか、そう言ってくれていた。


『イメージ……』

『お前が地面を剥す時、軽い地震を起こす時、それらをイメージして使ってなかったか?』


 言われてみれば、そうだった。

 ただ、そのイメージはあくまでも地面という形あるモノだから出来たこと。


 あ、でも、"木" なら……


『なるほど!』


 私はそのイメージを地面に向けてみた。

 それだけで、タイルで埋め尽くされた隙間から1本の双葉が可愛らしく生えて来る。


『解ったデショ! もうこれで大丈夫!』


 そう答えた私は目を閉じ、イメージを更に膨らませた。


 私の足元から蔦を生やすイメージを創り、足から魔力を地面の深いところに行き渡らせる。

 そして魔力の込めた蔦を一気に成長させ、悪霊達に纏わりつかせた。


 最初は通り抜けてしまうものの、蔦と蔦の間に結界を作って閉じ込めてみた。

 そして、閉じ込めた悪霊を一気に食べる食虫植物のイメージを作り上げる。


 悪霊は一気に消え失せた。


 これで大半は倒し終えられるだろうと思ったら、急に笑いが止まらなくなっていた。


 ——嗚呼、楽しいな♪


「ふふっ……はははははは!!」


 そして、凄く気持ちが晴れていることに気付かされた。

 どうしてかは、解らない。


 だけど、悪霊を倒せたことで、今までに経験したことがないほどの快感を得ていた。




 結界を張ることも忘れ、私は無我夢中で残りの悪霊を蔦に食べさせてゆく。


 楽しかった。

 面白かった。


 まるでボツにした漫画の原稿を引き裂いているかのような感覚だった。


 逃げる悪霊を捕まえて、悪霊でも感じるらしい絶望という感情は更に美味しかった。




 あっという間に全てを倒し終えた私は、しかし全然、満足し切れてはいなかった。

 もっと快感を得たくて、とりあえず地下から地上の大聖堂の中に戻る。


 そして、目に入ったスズメを見て――胸が高鳴った。


『紗穂!!』


 どこかで眠っていたのか、雷神が慌てた様子で駆け寄って来る。


 だけど、そんなことはもう、どうでも良かった。


 スズメを捕まえる為に、私は大きな籠をスズメの上空に作成する。

 そして、それをスズメの上から落としてやった。


 だが、それをあっさりと雷神が破壊してしまう。

 取り出されたスズメを見て、雷神を思い切り睨みつけた。


「ボクの、邪魔を、しないで!!」


 そうして自ら放った魔弾を見て――衝撃を受けた私は、一瞬だけ我に返っていた。

 が、当の私の体は、衝動は、止まらない。


「どうして、邪魔を、するの。それ、殺したい……殺して、絶望させたい……!」

『ちょっと、何を言って……』


 と自分に答える間にも、私の中に快感を求めたいという感情が流れ込んで来る。


『うっ……』


 吐き気がした。

 なのに、吐くどころか雷神に、遠音に襲い掛かってしまっている。


 こんなの、私じゃないと叫んだ。

 なのに、体は言うことを聞いてくれない。


 それどころか、快感を得たいと思っている自分が居ることにも気付かされていた。


『殺したら、ダメ!!』

「殺したら、気持ち良い」

『ダメデショ!!』

「何で? 何で、ダメなの?」

『何でって……』


 その後の言葉は続かなかった。

 どうしてだろう、という疑問よりも先に快感がやってくる。


『それが "もう1人の自分" なんだよ、紗穂』


 雷神の一言に耳を傾けた。


『本当の自分……欲望に飲まれた自分なんだよ。お前が抑制出来ていたのは、岸間という存在に依存していたからだ。それを岸間も理解していたから、傍に居されてくれたんだとオレは考えている』

「うるさい!!」


 私はそう答えて雷神に襲い掛かっていた。

 が、結界にあっさりと遮られてしまう。


 それが私の怒りの琴線に触れた。


「こんなの、壊してやる!!」


 結界はバリンッというガラスが割れたかのような、そんな微妙な音を立てて壊れた。

 そして、雷神の首にナイフを突き付けようとする。


 が、その間に雷神に腕を押さえられていた。

 その雷神の手から、雷神とは異なる魔力が流れ込んで来る。


「なんだ……この感情は……」


 その魔力は、何故か香穂里の力を含んでいるように思えた。

 その香穂里が私に話しかけてくる。


『私の大切な友達を傷付ける人は許さない、絶対に!』


 それは私の思い出の中に居た、過去の香穂里が発した言葉だった。


 ――だけど、そうだよ。


 香穂里が悲しむから、殺したらダメ。

 解っていたはずの感情が込み上げて来た。


 それだけで "もう1人の私" が引いてくれたことを悟る。


 私にとっては、香穂里が絶対で、香穂里が私の全て。

 その香穂里がダメだと言うのだから、ダメなんだよ。


 手足を動かし、自分に体が戻って来たことを知る。


『……やっと戻ったか』


 遠音の一言に安堵して、思い切り抱きついた。

 よしよしと、私の頭を気持ちよく撫でてくれる。


 その撫で方が、香穂里の温もりのように感じられた。

 それで一気に力を抜く。


「頑張ったな。今は、一先ず眠れ」


 その一言を聞くか、聞かないか。

 私の瞼は暗闇を映し出していた。


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