194 ⛩ 凶夢②
――お兄ちゃんの居ない世界何て、生きていても楽しくなかった。
中学受験をして、有名な学校に受かった。
でも、その学校のどれも入学は出来なかった。
その理由はお父さんが知っていたみたいだったけど、教えてはくれなかった。
お母さんは眠ったままで、会話も出来ない。
もう片方のおじいちゃんは去年亡くなった。
一度も出会ったことが無いおじちゃんが、知り合いの人が営んでいるという特殊な学校を紹介してくれたらしい。そこなら入学出来るだろうと言われた。
でも、私は地元の学校が良かった。
我儘かもしれないと思いつつ、お父さんには言ってみた。
だけどやっぱり、決して頭を縦には振ってくれなかった。
――知らない方が良い事実もあるの。
誰かが前に言っていた言葉を思い出す。
別に、事実はどうでも良かった。
どうして入れないのか、何て理解したところで入れないことには変わりないのだから。
でも、同じ人間なのに入れない理由があることに苛立った。
どうしてそんな社会なの、と怒りが募る。
やっと入れた中学校だったけど、はっきり言って授業はつまらなかった。
簡単な5教科はもちろん満点、体育も家庭科もほぼ満点なのは当たり前だった。
やる気が無くなって、夏休み過ぎから学校に行かなくなった。
それでも、一日で良いから行け。
そう言われて登校したその日、私の中に衝撃が走った。
つまらないはずの体育の授業なのに、いつも嫌がっていたクラスメイトがどこか嬉しそうに校庭に出ていた。
そして、普段なら使ってはいけないはずのその魔力を思い切り解放している。
「えっ……」
驚く間にも、魔力を解放したクラスメイトが次々と出て来ては、それに応えるように互いの力量を見せ合っていた。
「驚いた?」
そう私に声をかけて来た子が居た。
その子は、私の脇まで来て1人のオーラを指す。
「あれは貴方と同じ水属性。あっちはただ美しいだけの美属性」
「何で……何で、皆、能力を……」
「特別な学校だから」
そう答えてくれたその子は、どこかで見たことがあったような気がした。だけど、あまり悩まなかった。過去は過去……どこかですれ違ったかもしれないけど、別に悩むほどのことじゃない。
「貴方は、このままで良いの?」
その一言が、何故か心に凄く響いた。
どうしてなのか、解らない。
だけど、その質問の意味は気になった。
「それは、どういうこと?」
「このまま、皆の中の1人として埋もれたままで良いの?」
また、響いた。
どうしてなのか、解らない。
私はその声に耳を傾けていた。
「ここには何も無いわよ。貴方がここで魔力を解放しても良いけど、誰も貴方を認めてくれないし、この中で飛び抜けた才能が発揮出来る訳でもないの。やってみなくても、それは今の貴方が良く解っているはずよ」
そう言われて、その子に私の首を指される。
そこに何があるのか、何てすぐに解った。
ネックレスを取り出そうとして
――無いことに気付く。
「あれ? 何で……」
ネックレスが居なかった。
不安で、恐怖で。
慌ててネックレスを探す。
だけど、どこにも無かった。
置いて来てしまったのだろうか。
そう思って、慌てて教室に戻ろうとした。
「どこ行くの?」
クラスメイトの1人がそう言って私の腕を掴んで来た。
振り解こうとして、振り返る。
そして、ギョッとした。
顔の無い沢山のクラスメイトが、私の腕を次々と掴んで来ていた。
「どこ行くの?」
「行ったら授業に間に合わないよ」
「さ、こっちに行こうよ?」
「何で……邪魔、しないでよ!!」
そう叫んで振り解こうとしても、私は見る見る内にそのクラスメイト達に引っ張られてしまっていた。
このままでは、お兄ちゃんと離れてしまう!
それだけは嫌!
離れたく無い!!
「助けて……誰か、助けて!!」
『逃げたいの?』
幼い少女の声がした。
私は必死に頷いて答える。
「助けて!」
『……良いよ。でも、その代わりに約束、してくれる?』
「何でもする! だから、助けて!!」
私の腕から急に水が溢れだして来た。
その水の所為か、クラスメイト達の手が私から放されてゆく。
やがて全て放された私は全速力で教室に向かっていた。
「はぁ……はぁ……」
こんなに疲れたのはいつ以来だったか。
もう覚えては居ない。
教室に辿り着いた私は、自分の席に1輪の花があることに気付く。
それは、まるで死者のような扱いだった。
「何よ……不吉な!!」
私はそう言いながらその花瓶ごと床に落としてやった。
花瓶が割れて、水が飛び散る。
小学校の時にも同じことをされた。
だから、通わなかった。
きっとこの学校でも同じ。
どこに行っても、私は死人のような扱いだった。
私は生きているのに、誰も認めてはくれなかった。
区役所も、私のことを完全には認めていない。
だから、お兄ちゃんが死んでも、おじいちゃんが死んでも、誰も悲しんではくれなかった。
『そう、社会はそういうモノ』
また少女の声が聴こえた。
『だから、社会を壊したい。でも、私では壊せないの』
「どうして?」
『私が生きていた時は、そういう契約だったから』
「貴方は……悪霊なの?」
思わず身構えていた。
が、脳内の少女は頭を横に振る。
『私を悪霊なんかと一緒にしないでよ』
「じゃぁ、何?」
『堕転した魔物……体を奪われた、ね』
そう答えたのは、私だった。
驚いて手を口元に当てようとする。
が、体が言う事を聞かなかった。
『何でもするって、言ったでしょ?』
少女はそう言って目の前で両手を動かしていた。
『貴方は社会を壊したいと願っていたのに、どうして壊さなかったの?』
「それは……壊したら、生きていけなくなるから……」
『どうしてそう思うの? だって、世間から見たら貴方は死者の扱いじゃない?』
言われてみれば、そうだった。
私を人間として扱ってくれたのはごく一部だけだった。
それも数えられるくらいしか居ない。
『死者が何をしても怒られるはずが無いでしょ?』
そう答えた少女は私の体で机を破壊した。
最初は驚いたものの、2個、3個、……と壊してゆく内に気持ち良くなって来る。
これが快感というものなら、最高の気分だった。
『ねぇ、もっと凄い破壊をしようよ!』
少女の言葉に賛成した私は、破壊とネックレスを求めて学校を彷徨うことにした。




