192 ▲ 嫌
慌てて結界に入った私は思い切り安堵してしまっていた。
"選ばれた" という単語を聞いて、凄く嫌な感情が込み上げて来ていた。
ソレは私の中の何かが反応したのだとは思う。
理由を、知りたくは無かった。だから無視したかった。
でも、知らなければならない、と思う自分も居た。
その葛藤に苛まれたことに加え、既に目標を得ている2人の前から消えたいと思ってしまった。
が、そんな自分が嫌だった。
――今の私は、嫌な感情しか出てこない。
だから慌てて中へ入ったというのに。
『何を安堵しているの?』
すっかり守護神の存在を忘れていた私は、その声と距離の近さにビクッとして固まっていた。
守護神は足を組んで座ったままの姿でこちらを見つめ続けている。
その視線が嫌と言うほど私に突き刺さって来ていた。
『確かにこの結界の中なら、外から何も見えないわよね』
『な、な、何を……』
『別に何でもないわ。条件を教えましょう』
守護神は平然と答えて、微動だにしないまま口だけを動かす。
『この境界の中には、1ヶ所だけどうしようも出来なくて封印してあるだけの場所があるの。そこで悪霊又は悪鬼を百体くらい倒して来ること』
『……え? ひゃく……』
その数に驚いた私は理解して、目を丸くさせた。
『貴方には次の条件の為の実践が足りないから仕方ないのよ』
『ということは、これは条件でも何でもないということ……ですか?』
『いいえ。一応、条件には含まれているわ。ただ、他の2人は既に経験しているから、一歩だけ先に進めるという話し。順序は大切だけど、それは後半のいくつかだけ。だから貴方には先にこの条件を課すことにしたの。もっとも、私の本音を言えば、貴方をあの場所にはあまり近づけさせたくはないのだけど』
思わず生唾を飲み込んでから訊ねる。
『……その理由は?』
『貴方が思い出せていないのであれば、これ以上のことは言えないわよ』
呆れながら守護神はそう答えていた。あぁ、また"世界の加護”か。
『ただ、そうね。1つ言えるとすれば、実践が足りないとこの先はもっと危険だから、という感じかしら。でも、ここで実践を詰めるとしたら……どう考えても今はその場所しか思いつかないの』
『・・・』
実践不足なことは、嫌でも自分が良く解ってはいた。
でも、そのことを守護神に突き付けられるとは思ってもいなかった。
が、普通の家庭で知識以外は何も知らずに育った私が嘆いても仕方ない、と思う。
――益々、こんな自分が嫌になる。
『その場所とは?』
『女子校側の、大聖堂の地下よ』
その言葉に目を丸くしていた。
あそこには神毒が充満していたはず。
確かに、ここは境界の中だからまだ神毒が無い可能性はあったが、日ごろからあの暗い場所に悪霊や悪鬼が居ると考えるだけでも恐ろしく感じて身震いしてしまう。
『表側なら、あそこは聖域で悪霊なんて湧くはずもないんだけど。私がこちら側で結界を強化すると、何故かどこからか湧いて出てくるのよね。とはいえ、貴方1人では心配だから仲間を手配するわ』
『仲間?!』
――遠音か、香穂里が良いな。
嬉しくなって喜ぼうとした矢先、守護神が先に溜め息をつく。
そして守護神が指をパチンと鳴らすと、その膝の上に1匹のスズメが突如出現していた。
そのスズメが私の近くに飛び跳ねながらやって来る。
――仲間って、守護神の使い魔のことか。
残念に思っていれば、
『よ、ろ、し、く』
そのスズメが私に喋っていた。
驚いたものの、一応返事はする。
『よ、よろしく……お願いします……』
『その子は、言葉は苦手なの。あまり気にしないでね』
守護神の一言には、もちろん安堵するなんてことは無かった。




