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190 ☈ 個性と術式

 図書館からの帰り道、他の3人がやっと時計台に向かい始めたのを見て安堵の溜め息をついてしまっていた。

 時計台の地下に属性神の他の核が眠っていることは、ここに来た時に開放された咲九の手記から知っていた。入手方法も特に問題は無いだろう。


 しかし、やたらと不穏な気配を感じ取ってしまったので、窓を開けて結界の外側を見つめてしまう。


 この結界を守るのは、もちろん守護神の他には居ない。

 が、実は時計台の地下にある属性神の核も、学園の境界の結界に魔力を貸してくれている。

 それを属性神に返せば、もちろん結界はその分だけ弱くなる。


『舟山の守護神を担っているだけあるわね』


 守護神の声が職員室から聴こえた。

 思わず失笑してから答える。


『各々に核を取らせて――大丈夫なんですか?』

『失礼ね、そこまで軟じゃないわよ』

『それは頼もしいことで』


 厭味ったらしく答えた私は窓を閉めてから階段を降り始める。


 今のこの境界の中は安全だと思う。

 敵の気配は全くといってない。


 だが、大半の境界は里の主の影響で悪霊や悪鬼が密集し、彷徨う場所になっていた。

 今の結界道はそんな悪霊の通り道。

 あそこで悪霊と出会わないのは、彼らが境界の壁の中に隠れて移動している為。

 だから私らのような生者は、土地の守護神によって守られている道から外れてはいけない、とされている。


 とどのつまり、ここも何れそうなるのではないかという不安は大きい。


『それに、大元の核を一度奪われた今、例え核が戻って来たとしても、神器がすぐに反応を示してくれるかどうか解らないでしょ? どちらにしても核を返さなければならないのだから、最初に渡しておいた方が――魔力を操作しやすいでしょう?』


 返答に間が空いた理由は、この境界が外部から攻撃を受けた為だとすぐに解った。

 もしかしたら、扉の位置と開け方を理解した誰かがここに入ろうとしたのかもしれない。


 そう思い描いただけでも、実はかなりの恐怖だった。


 そもそも、ここはそれほどまでに危うい立地にある。

 咲九が神器を預ける際に、あまりこの境界を宛てにしたくはなかった、と書かれてあったことにも今なら理解できる。


『体となる器と、魔力を蓄える器が必要らしいです』


 私は敢えて話を逸らした。


『魔力の方は魔法石で良いと思うけど、問題は体の方ね』


 私の一言が水神のことだと理解したのか、守護神からすぐに返答があった。


『この体はもう限度に達してしまっているようだから……どうするつもり?』

『それについても聞いて来ました。”ぬい魔" の場合は、再度ぬいぐるみでも良いらしいです』

『推測だけど、何十年も愛され続けたモノ、又は数百年以上の骨董品、あたりかしら?』


 大当たりです、と内心で答えた。

 そう、問題はそれ。


『えぇ。心当たり、ありませんか?』

『何十年も愛され続けたモノ何て……そうそう無いわよ。そもそも、そんなに古いモノがこの学園に、しかもほぼ誰も居なかった境界の中にあるとは思えないけど』

『ですよねー』


 そう答えてから思い切り溜め息をついていた。


『術者の方はどうするの?』

『岸間に頼みます』

『壮大な賭け事ね』

『そう思いますか?』


 とは答えながらも私は失笑を返してしまう。


 魔力を使うことは、様々な者でも扱える有名な術式であったとしても、その者の個性が現れてしまうもの、とは咲九が良く言っていた。それを家系や一族などという枠組みに入れてしまうのは、単純に効果や結果が個性で大きく変わってしまう為。


 咲九の扱う禁術は爆発的な効果を得られた代わりに精度は低いのだと言って、その分を補う為にわざと広範囲を演出するのだと言っていた。これはリュウ様や蓮も同じだったと聞いている。

 しかし、咲九から教わった同じ術式は、私が扱うと精度が高い割に手で触れなければ発動しなかった。種類によってはモノを介しなければならないモノもあった。


 つまり、恐らくその術式は、私が教わっても全く扱えない訳ではないのだと思う。ただ、精度や条件が不明であれば、それだけ危険が増すということ。

 しかも、その術式を展開中に必要になるモノは、この境界で入手できるか、他に代用できないか、しっかりと吟味する必要がある。

 なお、なんにでも代用できるモノとして血液があるが、これも術式や個性に左右されるので代用できるかは解らない。


 それでも、岸間の血であれば可能性は高くなる、ということだろう。

 確かに大きな賭けになるが、岸間であれば、何とか頑張ってくれそうな気はしている。


『問題は、魔力暴走と "もう1人の人格"』

『そうね。あれに飲まれてしまうと自分ではどうしようもなくなるから……』

『そう言えば、守護神も堕転含め、経験者でしたね』

『過去に、だけどね。貴方も経験したの?』


 その記憶はしっかりと覚えていただけに、私は失笑してしまう。


 堕転した者は二度と転生しない。

 その代償なのか、堕転した能力者は神様と同じくらいの寿命が与えられ、代わりに欲望だけに囚われてしまう人格、つまり "もう1人の自分" を持つことになる。

 二重人格のようなその人格の記憶は自身の記憶の中にも残されるだけに、他者を殺めてしまったり、酷いと食してしまったり、で耐え切れずに自殺する者も多かった。


 その人格が現れている間を "夢心モード" と海外で呼ばれていたことから、咲九はその逆となるような "無心モード" なる術を編み出し、欲望を抑制する方法を色んな能力者に伝授した。

 それのお陰か、堕転していても結界の主のように "堕転と付き合いながら生き続ける者" が現れた。また天界生まれだが堕転した山神のように、"世界の加護" に囚われず、呪術の効果を受けない存在が天界での事実を、この世界の事実を伝授し続けていた。


『堕転は誰もが経験しているの。それを()()()()()()() が遠音達のように未来に残される者の大きな課題ね』


 そんな咲九の言葉が蘇る。


 ちなみに "無心モード" は色んな方法があるらしく、何かに没頭することや、何かに依存することでも効果があるらしい。また、その上位の "賢者モード" なる術をリュウ様が生み出したらしいが、それは咲九でも知らない、と言っていた。

 そして本来、邪神などが扱う "神毒" は天界に住む者を堕転させない為の漢方で、一時的に魔力を停止、強制放出させることで体内に溜まった体質とは異なる魔力をリセットすることが目的だったらしい。


『二度と思い出したくもないですね』


 そう答えながらも校庭に出る。


 3人が時計台の地下に辿り着いたのか、魔力が少し強くなっていた気がした。


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