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188 ☈ 世界の加護

 宮本を預かって守護神と共に職員室へ向かった。


 今でも境界の中では1年か、それ以上も前なのか。

 去年に寿退社したはずの先生の机が残っていたり、運動会で使用されたはずの衣装などが残っていたりしていた。


 その隅にあるソファーに横たわらせ、特に寒い訳では無かったものの、そこに置いてあった毛布をかけてあげる。


『……変わったわね』


 守護神の一言に私は軽く目を閉じた。


 ――この人は嫌いだ。


 でも、()()()()()反抗的になっていた、この人の気持ちも今なら解る。


『そりゃまぁ、そうでしょうね。貴方が良く知る "永瀬 遠音" は堕転していることも、自分が神であったことも知らなかったですから』

『あら。私の正体――如月さんには黙っていてもらったはずだけど』

『教わってはいませんよ』


 そう答えつつ、私は守護神を振り返る。


 守護神は去年の教頭の席に座って煙草をふかしていた。

 灰皿には何本もの吸殻があることから、私らが来る前から既にここに居たことが窺える。(本来なら校内は禁煙のはずだが。)


『咲九は本当に何も、私には話していません。代わりに残してくれたのが咲九の手記だっただけです。手記には術がかけられていて、必要なければ見れないようになっているようです』

『普段通りに話してくれて構わないのに。貴方に敬語を使われると不気味だわ』

『一応、年上には敬語を使うって咲九から教わりましたからね』


 そう答えながらも、私は窓から校庭を眺めた。


 3人は話し合いながら互いの核の位置を探そうとしている。

 だけど、話し合っても出て来るようなものじゃない。


 しばらく時間がかかりそうだな、何て思いながらも守護神をチラリと見た。


『先生は――この学園に居る本の神を知っていますか?』

『宮本さんのことを調べに行くのね。でも、あれはなかなか会ってはくれないわよ。木属性を持っていたとしても、向こうから迎い入れてくれないと……』

『解っていますよ』


 答えてから守護神に失笑する。


 何もその空間に入れなくても会話する方法くらいはある。

 出向くのが面倒で、結界の主とはその方法で何度も話している。


『それでも、目覚めさせなければいけないので。本の神でも、そのくらいの理解はしていると思っています』

『……そうね』


 守護神は答えて私を見た。


『図書館の司書室の奥に今も入口があるはずよ。入口の鍵は、今の時間帯なら掛かっていないはずだから……応えてくれたら良いわね』

『えぇ、本当に。少しの間、宮本のこと、頼みます』


 私はそう言ってから職員室を後にして図書館に向かった。




 境界の学園は凄く静かだった。


 普段なら部外者に目を光らせた守衛室にも、図書館までの道中の廊下にも、今は誰も居ない。気配すらしない。人気が無い学校がこれほど不気味だとは思ってもいなかった。


 だが、今はいくつもの目的がある。

 その目的の為にも、今はあの3人に神器を手に入れてもらうことが最優先だった。


 だから、私は私の出来ることをする。

 それが先に進む最適な道だと思えるようになったから。



 図書館には鍵がかかっていなかった。

 そして、紗穂が言っていた通りに司書室の奥の扉を開く。

 そこには、小さな部屋があるだけだった。


 だが、今なら解る。


 私はゆっくりと目を閉じた。

 気配を掴み、それに話しかける。


 そこには何かが居た。

 その何かが、私を見ていることも解っている。


『お前が本の神か?』

『……君は雷神?』

『あぁ、そうだ。魔物の水神を救う為に、お前が持つ知識を分けて欲しい』


 その言葉には、しばらく間が空いた。


 本の神がどういう存在かは咲九の手記には書かれてあった。

 知識を口頭で分けることを極端に嫌っている理由もそこには書かれてあった。


 その代わり、本の神は境界に買い取り専用の本屋を作って、神々にも忘れ去られた古い歴史を記してくれている。

 だから紗穂の "境界の図書館" というのは、強ち間違いではないとは思う。


『……もしかして、"ぬい魔" のこと?』


 どうやら水神について調べていたのか、何かを手にしていることまでは窺い知れた。

 返答に困っていた訳ではないらしい。


 私は頷いてから答える。


『そうなんだ。同じ魔物の本の神なら何か知っていると思ったんだが……』

『確かに、今の僕も一種の魔物に近しい存在だけどね。でも、"ぬい魔" に関する情報は極端に少ない。そもそも、ぬいぐるみが下級だと知っていれば、肉体が最弱のぬいぐるみを、主人がわざわざ与えることは滅多にないからね』

『その "ぬい魔" の延命に必要な条件を教えてくれないか。もしくは器を修復する方法。早くしないと、水神が危ないんだ』

『それは――本気で言っているの?』


 本の神の質問の意図が解らなかった。

 私は驚いて、頭を傾げる。


『本気なんだが……?』

『延命の術式も修復の方法も、使えるのは古代に滅びた帝国の血縁者だけで、その血縁者の血液が大量に必要になるよ』


 私はとんだ感違いをしていたらしい。


 どうやら魔物はその帝国とやらに関係しているらしい。

 しかも、必要なモノ――それをこの境界内で入手出来ないのであれば、ここに来た意味が失われてしまう。


『それは……どうにかならないのか?』

『研究成果として答えが出ているのはそれだけで、他の方法はまだ見出されていない、というのが現状。ただ、その帝国の黒魔術やその血を受け継いでいるのは岸間家だよ』


 本の神は本を見ながら答えていたのか、途端に本の神の視線を感じた。


 紗穂と出会っていた本の神だから、紗穂の血筋ことは知っていて当然だった。

 でも、恐らく術を引き継いでいるとしたら香穂の方だと思う。

 そのことを解った上で本の神は私を見たのだろう。


『他に必要なモノは、体となる器と、魔力を蓄える器と、魂……これは核で十分。あと、術者の他に契約者が必要。契約者は出来たら血縁関係がある方が成功しやすいらしい』


 それを手元に出していた手記に控えながらも、私はふと気になって本の神を見上げた。

 とはいっても、感じるだけで見える訳ではないが。


『やっぱり、属性神が居ないとこの世界は崩壊を迎えるのか?』

『そうだよ。そうでもなかったら、水神を救いたいという君の強い想いだけでは、タダで教えることはないね』

『なら、咲九が……閻魔が死んだ今、この世界は輪廻しない、ということで良いのか? それに、閻魔は転生できるのか?』


 本の神は即答しながら本を閉じたらしい。そんな音だけが聴こえた。


『彼女が死んでも世界が輪廻する可能性は高い。輪廻と彼女は無関係だから。問題は、彼女が死んだ場所にある。君は知っているはずだよ――この "世界の加護" のことを。その "外側" で死んだらどうなるのか――それは君の雷神の記憶が覚えているはずだけど』


 私の質問の意図を察してか、本の神はそう答えてくれた。


 世界は輪廻して、幾度も過去に戻った。

 だが、その中で命を落とす者も多かった。


 良く考えてみると、おかしいと気付けるはずだ。


 輪廻しているのであれば、死んだ者も生き返るはず。

 それなのに、私のばあちゃんのように生き返らない者は多い。


 私は過去の、雷神だった祖母の最後の記憶を思い返してみる。


 あの時、祖母が居たのはあの森の境界ではなく、森の結界の中だった。

 咲九が死んだのも、リュウ様が消えたのも、全てあの森の結界の中だった。


『まさか……』

『そう。"世界の加護から外れた場所" で死ねば、どんなに過去に戻れても、その者が二度と生き返ることはないよ。だから、過去に何度も閻魔は水神を封印し続けていたということ。現地で即座に封印しなければならないほど、水神は自力で "世界の加護の範囲内" に戻れないくらいに "日が浅い" 存在だから』


 やっと過去の行為を理解したあたりで、私は過酷な現実を知る。


『閻魔が生き返らないなら……この世界は、どうなる?』


 言いながらも、私は嫌な方向に想像していた。

 しかし、本の神は違ったらしい。


『世界のどこかで、新しい天帝か閻魔が誕生するだけだと思う。天帝も閻魔も、自力で自分の身だけなら輪廻する術は持っているらしいからね。当面の問題は、あの暴れ馬をどうするのか、それだけだと思うけど?』

『……そういうもの、なのか』


 そのような答えに、私はただ大きな溜め息をついていた。


こちらの本編を多めに投稿していく予定です。

編集が間に合わなかったらごめんなさい。


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