183 ☈(☴☉▲) 学園へ⑥
全員が揃うとこんなにも心強いのか、何て思いながらも、1人がやっと通れるくらいの細い結界道を使って進んでいた。
時折後ろを向くのは、私の前には風見と眠ったままの宮本しかいなかったためだが、そんな心配も他所に紗穂は未知なる出来事を楽しんでいるようだった。
神の核は、各々に初代の神の性格が残っている、と考えられているらしい。そのためか、例え属性が一致したとしても性格面で全く違うようであれば、違う者が何度核を飲み込んだとしても根付かないようになっているのではないか、とのこと。
それを聞いただけでは実感できなかったものの、紗穂を見ているとその説に納得する部分も多い。
天界での地神は、少なくても未知なる出来事、最新鋭のモノが好きだった。知識が好きだったのか、死神が持って来た地界からのお土産に真っ先に飛びつくのは地神だった。
本当は雷神にも、その雷神が持つ地界の知識にも地神は興味があったと思う。だが、警戒心からか近寄って来ることは一度も無かった。
そんなことを思い出している間に結界道から抜けていた。
見上げれば、確かに学校の麓に辿り着いたのだと、学校の独特な模様の石垣を見て実感する。
だが、学校はいつもの学校の姿を残して居なかった。
垣間見えた校舎の一部が黒く変色している。
視界の隅に2匹の子猫が見えた。
警戒していた子猫は私らの登場で安堵したのか、しかし、何も起きなかったとばかりに頭を横に振って見せてから異なる結界道へと姿を消した。
『遠音の情報は当たっていたのデショ……』
『間違いであって欲しいとオレも何度も思ったわ』
紗穂に言われ、そう答えた。
残る2人は唖然としているのか、見上げたまま固まってしまっている。
『おじちゃんの学園が……』
『……こんなことになるなんて……』
気合いを入れるために、私は自分の頬を叩いた。
その音で3人が私を注目してくれる。
『どこに何があるか解らないし、その鏡の使い方も解らないが……とりあえず、普通に登校してみるか』
その一言に3人は同意してくれる。
普段の登校ではエレベーターが使える。が、非常事態だからか動いてはいなかった。
それどころか、火の手はエレベーターにも回って来ていたのか、その入口の扉が少し焦げていた。
自分の電力で動かないかと考えていただけに、諦めて普段通りの山登りを開始したものの、不気味なほど人間の気配はしなかった。
その代わりに悪霊が多量に漂っている。
しかし、どれもただ漂うばかりで襲って来る様子は無い。
『……何で?』
不意に風見が呟いた。
『何で誰も襲って来ないの……?』
『薄気味悪いわよね』『不気味デショ』
ほぼ同時に岸間と紗穂が返答していた。
私はただ黙って周囲を見回す。
本当に悪霊は何もしてこなかった。
それに、気になることはまだある。
その気になることは、しばらくしてから3人の目にも見えて来たらしい。
ほぼ同時に気付いたのか、3人ともに警戒する足取りになっている。
『何で結界が残っているの?』
そう、学校に張られた結界は今もまだ残されていた。
石垣の下から見た私はすぐに気付いたものの、その理由までは解らなかった。
だからこうして結界に触れたくて学校の門までやって来た、というのが正しい。
しかし、巨大な門の前にある結界に触れても、いつもの学校の結界と変わりはなかった。
だが、ここは神社のような避難場所に指定されてはいない。
『とりあえず解るのは……守護神はまだどこかで生きている、ということだろうな』
そして私は悪森の中の悪霊を思い出していた。
悪森の中に入って来たばかりの悪霊はどれも弱々しく漂っているだけだった。それが共食いし、悪鬼となれば恐怖の対象にもなるが、中には改心して自縛霊になったり、自然に成仏したり、木霊という妖怪に近い状態に変化したりする者もいた。
とはいえ、ここの場合は、まだ共食いを見せていなかっただけなのかもしれないが。警戒しておくに越したことはないだろう。
『中……入ってみるか』
そう言いながらも、以前に咲九が行ったように微量の魔力を流し、門の錠を外してみせた。
岸間は目を丸くしていたものの、風見も紗穂も失笑しながらも納得したのか、私の後に続いてくれている。
学校内部、地上に見える建物の大半は、ほぼ原形を留めていなかった。唯一残っていたのは最初から崩壊している旧校舎だけで、授業を行っている校舎側は壊滅的な惨状だった。
校庭から覗き込んだ感じでは、下にある中央の建物と男子校側はあまり被害を受けていないようだった。が、そちらは強い結界の外側になるのであまり近付きたくは無い。
もっとも、例の霧の影響を受けない程度には結界で覆われていたが。
全員無言のまま校内の1階部分を回っていたら、体育館のある建物の裏で何かを見つけた風見が大きな溜め息をついていた。
「やっぱり、原因はココなのね」
そう言いながら風見が私らに見せて来たのは1本の太いホースだった。
それはギリギリ原形を留めていて、その先を辿ると損傷が尋常ではない、赤くて四角い鉄の箱に繋がっている。
「先に進めなかった過去に一度だけ、ここが原因の火災が起きたの」
風見は悲しそうに言ってから私を見る。
紗穂も言われてから過去を思い出したのか、少し悲しそうな顔をしていた。
「その日、永瀬さんはお休みだったわ。私が千尋に魔力を渡して何とか消したものの、その数日後に岸間さんがここで魔力暴走を引き起こして……結局、岸間さんに何があったのか解らないまま、私達は過去に戻された」
岸間は申し訳なさそうに頭を下げる。
「あの時は、ごめんなさい」
「そ、そういうつもりではなかったの! 岸間さんが謝ることではないわ!」
慌てた様子で風見が答えたものの、紗穂は何か事情を知っているらしく、しかし、言う気はなさそうな素振りをしていた。
が、その全貌を過去に聞かされて知っていた私は敢えて黙っていることにした。




