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182 ☉(☴▲☈) 学園へ⑤

 途中から、私らは何かに追われて走っていた。

 前を走る永瀬の気配を追うことに必死で、手を繋いで少し後ろを走る紗穂里を気遣いながらも、先の解らない道を進んでいる。


『攻撃してこないって言ってたじゃん!!』

『追って来てた奴ではない。だが、違う集団までは予測出来なかったんだ!』


 平然と答えた永瀬の気配が右に曲がる。

 足元が不安だったものの、そのあたりは永瀬が上手いこと走ってくれているのかもしれない。


 まだ穴には直面していなかった。


『すぐ近くに神社がある。そこに一旦避難しよう』

『へいへいほー!』


 答えながらも私は自分と紗穂里の足に炎を纏わせている。

 そして、少しだけ浮かせる術を使った。


 過去に一度使ったことがあったためか、紗穂里は驚くことも無く平然と走り続けてくれていた。




 しばらくして、本当に神社に辿り着いていた。

 私らが赤いその鳥居の中に入っただけで、結界の外側の靄の塊は停止してしまう。それ以上は追って来られないらしい。


「ふぅ」


 先に着いていた永瀬が私らの元に戻って来る。


「有名な神社があって助かった……」

「で? 何でアレ、追って来ない訳? あと、ここはどこ?」

「ここは久重神社デショ」


 そう答えたのは紗穂里だった。

 紗穂里は答えながらも周囲を見回して溜め息をついている。


「ってことは、あとちょっとで千尋の家があるはず……」

「だが、アレが邪魔をするんじゃぁ、ちょっとの距離ではなくなるな」


 永瀬は紗穂里に答えながらも靄の塊を見つめた。


 決して遠くに居る訳では無いのに、まるで見失ってしまったようにそのあたりを漂っている。

 が、それでも神社の鳥居から先には入っては来ない。


「さっき言っただろ? 避難場所がいくつかあるんだよ。この神社もその内の1ヶ所。あまり長居は出来ないが、この奥に行ったら、もしかしたら知り合いが居るという可能性はある」

「なるほどね」


 私は紗穂里の家族を思い描きながらも納得した。

 紗穂里が奥を見つめるその表情には哀愁が漂ってしまっている。


 きっと家族には会いたいのだろうな、何て思った。

 でも、紗穂里の家族がここに居るとは限らない。


「ここも含め……どうして千尋だけが、黒い仮面を避ける結界を張れるのか気になって仕方ないのだが」

「そうだな。休憩がてら、そろそろ話しておくか。ここなら近いからか、盗聴の危険も少ないだろうし」


 そう言った永瀬は地面に座り込み、腕を組んでしばらく居座る姿勢になっていた。


『風見にも聴こえるようにこっちで話す。質問は……あれば後でまとめて聞いてくれ』


 永瀬の一言目を聞いた紗穂里が私を見てから座った。

 なので私も座ることにする。


『世界が何度も輪廻していたことは、既に皆も理解したと思う』


 私と紗穂里は同時に頷いた。永瀬が続ける。


『それで、その輪廻を知って、誰もが善だと、良い奴だと考えた』


 それは私も思っていた。

 輪廻を起こしている者は、世界を崩壊させない為に世界を戻していたのだろう、と。


 だが、永瀬は頭を横に振る。


『それを悪と唱えた者が居た――それが雷神、つまりオレだ』


 その発言に紗穂里は目を丸くしていた。永瀬は続ける。


『雷神のことを属性神があまり良く知らなかったのは、雷神が5人目の属性神として認められたのが天界崩壊の約1年前だったから。しかも崩壊の原因は雷神の所為ではないかと疑われたからか、ほぼ味方も存在しなかった。

 その崩壊をした時に、唯一信用してくれていた音神が雷神を救ってくれたから、雷神だけは核を分離されずに済んだ。だから全ての記憶を持っていたという事実は間違いではなかったんだ。

 そして、以前の雷神たちは音神の住む神社に身を隠していた――事実を知ったオレを含めて、な』


『でも、確か白雲運河が雷神を殺して、運命の輪から外したって……』


 私の質問に永瀬は軽く頷く。


『輪廻の中には、確かにそういう記憶もあるな。それは、輪廻を "善" と、良いモノだと、過去の白雲運河が考えていたためだ。

 が、実際には違う。輪廻を起こしている奴は、ただ単純にオレらや四大神に復讐をしたいだけなんだ。

 ……それ以上は、まだ言えないみたいだな。

 天界でオレらが "悪" だと考えていたモノを、良く思い出して欲しい』


『天界……悪……』


 全く想像出来なかった。

 どうにもこればかりは思い出せそうにもないな、何て思いながらも雷神のことだけは思い出す。


 天界での炎神は雷神が気になっていたものの、他の2人が警戒していた為に近寄ることすら避けていた。

 が、本当は影で認めていた――女神と死神が認め、連れて来た存在だったから。あの時の女神も死神も、同じ属性神より尊敬に値する存在だったから。


『ちなみに、その輪廻を "悪" だと最初に認めてくれたのが如月家と宮本家だった。だから、各々がこの輪廻から脱却する方法を試行錯誤し、情報交換し合った結果に生まれたのが、この黒い仮面をも弾く特殊な結界、という訳らしい。今では色んな方法が編み出されているから、咲九でもどこの家がどの方法を取っているか、までは把握し切れていなかったみたいだが』

『じゃぁ、その方法を使えば霧を弾けるのデショ?』


 紗穂里の質問に永瀬は頭を横に振った。


『その方法がどれも結構難しくてだな……オレでは無理だ。そもそも、咲九でも "動かなければ使える" 程度だったし』

『確かに、遊園地の時も千尋は決して動かなかったわね』


 思い出しながら答えれば、紗穂里が唸りを上げていた。


『うーん。じゃぁ、霧を散らしながら進むしか……』

『それが難しくなってきたのでしょう?』


 不意に風見がそう答えたらしい。アンクを通じて私にも聴こえて来る。


『この靄は特殊な術で組んである代わりに、指示は単調なモノしか与えられないの。そういう点では私の、風見家が扱える式と同じね。でも、塊となって時間が経つほど人間以上に堅くなる性質。だから散らすことが難しくなってきた……そういうことでしょう?』

『まぁ、そういうことだな』

『もしくは、永瀬さんの魔力が無くなってきているか』


 厳しい一言ではあったものの、どこか吹っ切れたように永瀬が両手を後ろに着く。


『その通りだよ。ここまで来るのに、どれだけ魔力を使ったか解らん。もっと言えば、先週お前らを助けるのに魔力全て使い切っちまって、まだ完全に魔力が戻った訳じゃないんだわ。だから正直言うと、キツイ』


 疲れの蓄積は体力も魔力も同じ。寝ることで一気に取れる。


『……あまり眠れていなかったのね』


 風見の一言で永瀬が溜め息をつく。


『仕方ねぇだろ。オレだってあんま解ってる訳じゃないんだし。

 そもそも、これまでの輪廻では一同に介した "悪夢結界" までに属性神の誰かが堕転し、結果的に世界は輪廻しちまってたんだ。お前らも悪夢で見させられていただろ? 今後の未来なんて予知できる訳がない。

 今日の早朝のことだって、どっかの白雲運河が気まぐれに情報提供してくれたから事前に解っていただけ。

 色んな情報だけじゃない、オレは知識も足りないってのに……知らないことが怖くてしょうがないんだよ!』


 ぶっちゃけた永瀬はしかし、奴当たっていたことに気付いたのか、大きな溜め息をついて冷静さを取り戻そうとしたらしい。


『宮本の目覚めない原因も良くは解らねぇし……ホント、何でこんなことになっちまってるんだろうって、そう思うよ。オレはただ、普通の生活を送りたかっただけなのに……』


 最後の一言を聞いてハッとした。


 そう言われてみれば、天界に来たばかりの雷神はいつも溜め息をついては、天界から地界を眺められるスポットから外を見つめているばかりだった。

 その数日後には、仕事も何もしなかったことを女神に咎められていた気がする。

 ちなみに、死神がこっそりと雷神を地界に連れ出している事は知っていたものの、そのことは秘密にしてくれと死神に頼まれた気がした。


 きっと、雷神は永瀬になっても同じ気持ちだったのかもしれない。

 普通の平穏な暮らしを送りたかった。

 その想いが強かったから、超能力者と関わりを持とうと思わなかったのかもしれない。


『私がそっちに向かうわ』


 不意に風見から返答があった。

 永瀬は目覚めたようにガバッと体を起こしている。


『宮本はどうするんだよ?!』

『もちろん、背負って行くわ』

『それは無理がありそうな……』

『このくらい、平気。風の力で向かうから』

『ジェット噴射デショ!』


 興奮した様子で紗穂里は答えていた。

 確かに、悪夢から脱却した時の別れ際にその光景は見たものの……今は興奮する所じゃないと思う。


 さり気なくツッコミを行動で示していたら永瀬が答える。


『じゃぁ、申し訳ないが……そうしてくれ』

『それに、学校に行くのでしょう?』


 ほぼ同時に風見から返答があった。

 永瀬は頷くが、風見には伝わっているか解らない。


『確かその久重神社から学校の近くまでの、細い結界道があったと思う。今も残っていれば、それを使って近くまでは向かえると思うわ』

『なるほどね。そこから学校の境界に入れたら最高だが……』

『それは無理』


 そう答えた風見の声が近くに感じられ、私らはほぼ同時に上空を見上げていた。


 流石はジェット噴射……風見はすぐ真上の空中に留まっていたが、足元の風を弱くして、私らの近くにゆっくりと降りて来る。

 上空も既に結界の中なのか、風見が引っ張って来たと思われる塊が結界の外側に溜まっているのが解った。


『最初から、アンタに来てもらえば良かったのか……』


 永瀬は失笑しながら言ったものの、風見は頭を横に振って否定している。


『私も完全には魔力が戻っている訳ではないし、その魔力も自由に扱える訳ではないから……ここまで来てもらえたから合流できただけ。ずっと独りで、曜日の感覚も無くて……いつ襲われるか不安だったわ』

『でも、これでやっと先に進めるのデショ?』


 紗穂里は答えながら飛び跳ねて立ち上がった。

 そして私と永瀬に手を伸ばす。


「 "さあ! ボクら人類の未来の為に進もうじゃないか!!" 」


 風見は首を傾げていたものの、私と永瀬は思わず失笑を返してしまっていた。


「それ、閻魔転生の地神分岐で、地神の死亡ルートの方の第一声じゃなかったっけ?」


 永瀬が私に訊ねてきたので頷き返せば、紗穂里は少し泣きそうな顔をしていたような気がした。


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