180 ▲(☉☈) 学園へ③
遠音が予想以上に知識を詰め込んでいたことに驚きながらも、遠音が言う通りに家を出て、3人で喋りながら仲良く道を歩いて進んでいる。
遠音曰く、あの穴の上は高層ビルくらいの高さのある上空を飛ばないと、穴から出続ける靄の気流によって引き摺りこまれて危険らしい。
雷神の遠音も炎神の香穂里も、恐らくは術で空を飛べたものの、私は "足場を作りつつ跳ぶ" が正しいのでそうもいかない。
遠音はそのことも解っていたのか、普通の道を進むことになっていた。
「……しかし、何で普通に歩いているはずなのに本物の人間が誰も居ないわけ?」
不意に香穂里が遠音に訊ねた。
遠音は靄の塊を散らしながら答える。
「大半が既に特殊な結界内やシェルターに避難しているからだよ。ちなみに、国の政策だから、今頃は紗穂の両親もそっちに避難しているんだと思う。……まぁ、もしくは、黒い仮面の連中に仲間にされたか、人蝕の繭に食われたか」
理解して、安堵した。
それならば、帰宅出来ないのも仕方ない。
母親がそれを知っていてメモを残したことにも納得ができる。
ということは、この間まで街中に居た人は様子見していて避難しなかった、又はギリギリまで応じなかった人達だったのかもしれない。
もっとも、流石にこの異様な靄が相手なら避難してくれるだろう、とは思う。
それよりも、遠音が言った単語が気にかかる。
「ジンショクの繭?」
私の質問に遠音は空を指していた。
見上げても靄の影響で良く解らなかったものの、確かに何かが影を作っているのか、さっきよりも若干暗くは感じる。
しかし、それだけで私達は同時に失笑していた。
「あぁ、あの人食いの……」「そんな名前だったのデショ?」
「ちなみに言っておくと、この幻術の中で普通に動けるのは神様くらいしかいないらしい。どんな超能力者でも、この幻に惑わされて穴に落ちたり、崖から落ちたりする、とか。まぁ、聞いた話だから事実はどうかまでは知らん」
「それってつまり、黒い仮面もあまり動けないってこと?」
「そういうこと」
香穂里の質問に答えた遠音は、先程からチラチラと私達の後方を確認しているようだった。
気配には気付いていた。
恐らくは、何かが後を付けて来ているのだろうとは思う。
だけど、私にはよく解らなかった。
『攻撃してくることは、まぁ無いだろうが……念の為に警戒しているってのが正しい』
遠音は後方の存在を私達にそう説明してくれていた。
「ところで、道、こっちで合ってるのデショ?」
遠音はかなりの方向音痴だったことを思い出しつつ訊ねる。
成形されつつあった塊を散らした遠音は、しばし悩んだ後で答えてくれた。
「多分な。とりあえずは前に調べた宮本の家に向かってる、はずだ」
「はずって……」
「方向的には当たってるとは思うが……」
と言った矢先に遠音が立ち止まった。
後ろに居た私達も、もちろん立ち止まる。
良く見れば、遠音の一歩先には穴が空いていた。
遠音が(かなり寒いのに)汗を掻いていたのか、上着の長袖で拭っている。
「こういうことがあると、方向感覚が狂わされる可能性は、全く無いとは言えないよな……」
「深いのか、浅いのかも解らないね……」
香穂里が遠音の脇から穴を覗き込んで答えたものの、恐らくはこの靄の所為でそれすらも解らなくされていた。
しかも、家を出た時よりもかなり濃くなってきている。
しばらく、3人の間に沈黙が流れた。
「……迷子にならん内に、連絡しておくか」
口火を切った遠音は徐に簪を外していた。




