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177 ☈ 当たった予言

 あれから6日目の夜中に、うとうとと縁側で横になっていた私は狛犬のアコに叩き起こされていた。

 アコの両脇には2匹の子猫が不安そうな顔をして座っている。


「どうした……?」

『この子達が、あたしの神社に来たの』


 そう言ったアコは2匹の子猫の背を擦った。

 すると、1匹がニャーと鳴いてから答える。


『リーダーに言われて、巫女様の学園に居た者です』


 そのリーダーというのが蓮だと理解するまで時間がかかったものの、気付いた私は目を丸くさせた。

 そして慌てて上半身を起こす。


『学園の女子校側が、炎上しました』

『どういう……ことだよ?』

『警報が鳴って、周囲に居た者を引き連れて、何とか山から下りました。しかし、その間に黒い仮面の者によって仲間を失い……残されたのは、我ら2匹だけでした』


 答えた子猫は申し訳なさそうに下を向く。

 もう1匹もどこか悲しそうに鳴いた。


『結界道も出入口も、全てを黒い仮面の者によって破壊されました。だから今、学園に直接行ける近道はありません。しかし、その学園自体、外壁くらいしか……』

『そう言われて、ウーちんに様子を見に行かせているわ』


 アコはそう答えて私を真っ直ぐに見つめた。


 狛犬には相方ならぬ弟が居る。その相方がウーちんと呼ばれた弟だった。

 街慣れしているウーちんなら信用出来るし、何事も無いだろうと思いながらも少しだけ心配になる。


黒い仮面(やつら)は、どうして学園を狙ったんだ……?』

『解らない。でも、蓮君が学園に彼らを置いていたということは、それなりの理由があったのだと思う』

『理由……』

『でも、それを調べるのは、遠音さんの役目でしょ?』


 いつの間にそんな役目にされたんだ!と内心でツッコミを入れつつも、今ではもう信頼を寄せつつあるアコに言われてしまってはどうしようもなかった。


『ちなみに、お前らは何で学園に向かわされたのか、心当たりないのか?』


 子猫に訊ねてみた。

 が、2匹の子猫は頭を横に振っている。


『そうか……』

『ただ、学園に住んでいた者の話しだと、学園には守護神が居たそうです』


 その単語に不思議に感じて、思わず頭を傾げた。


『守護神? この悪森みたいに、境界が存在する所に住むのが守護神なんだろ?』

『えぇ。ですから、学園に住んでいた者は皆、学園には境界が存在しているのだと信じていました。そして、実際に境界を見たことがあると話す大先輩も過去には存在していたようです』


 不意に、咲九がかなり昔に話しをしていた内容を思い出していた。


 咲九はワザと穴の先の扉を壊した、そう言っていた。

 大会の魔力暴走の所為で、その穴から悪霊が湧いて来て大変な騒ぎになっていたが、その大元がその扉にあるとも言っていた。

 学園の秘密はそこの奥にある、とも咲九は言っていなかったか。


『……なるほど、ね』


 思わず、私は唇を舌で舐めていた。

 それを見ていた子猫が恐怖に思ったのだろう、アコの後ろに逃げ隠れている。

 しかし、当のアコは失笑していた。


『やっぱり、何だかんだあっても遠音さんはここの巫女様だねぇ』

『まぁな。咲九に鍛え上げられただけは、あるんじゃねぇの?』

『ううん。その唇を舐める行動、前の巫女様も、その前の巫女様もやっていたから』


 そこか?!とは思いながらも、私は失笑を返すだけにしておいた。


 もっとも、咲九と長い間一緒に居たのだから咲九の癖が移っていてもおかしくは無かったし、咲九と前の巫女ももしかしたら同じような感じで癖が移った可能性もある。

 それをどうこう、言うつもりは無かった。


 それに、白雲運河の予想は1週間後の日中とは言っていたものの、時間帯に差異はあれど、何かが起きたことは当たったことになる。

 そして、黒い仮面の次なる狙いは学園の中にある、ということまでは理解した。


 もしかしたら、日中にでも黒い仮面が学園の結界内に侵入するのかもしれない。

 が、そこから先は私が調べてみるしかない。


『お前らには悪いが、少し休んだら一度学園に戻って様子を見ていて欲しい。時間としては、昼の12時くらいまで。その間に、どんなことでも良い。少しでも変化があったら教えて欲しい。中は危ないだろうから、外側からで良いぞ。もちろん、危険を感じたら逃げ帰って来い。命まで賭ける必要はないからな』


 調べるのに時間がかかる可能性があったので、先に2匹に動いて欲しい内容を言った。

 もっとも、12時まで、というのは3人と合流する分の時間を逆算して言っている。


『あと、アコには申し訳ないが、また数日ほど外に出ることになるから、森のことを皆に頼みたい。伝えてもらえるか?』

『解った。結界の主さんにもそう伝えておくよ!』


 アコが元気良く飛び跳ねてそう答えてくれた。


『あと、お前らも今までありがとうな』


 そう言ったのは2匹の子猫に対してだった。

 子猫は驚いて私をじっと見つめている。


『学園に戻りたければ、全てが解決したら戻ってもらっても構わない。ただ、しばらくここに居るならば、家族やこの森の仲間と共に覚悟して森を守って欲しい』

『リーダーが立ち去られた今、巫女様の命令が第一です。それに、この森を守ることは、自分の家を守ることにもなります。全力で守らせて頂きます!』


 説明していた子猫とは、また別の子猫がしっかりした口調でそう答えてくれた。

 そして2匹の子猫は暗い森の中に姿を消す。


 その姿は、どこか嬉しそうだった。


『やっと森に戻って来れたんだもん。嬉しいよねぇ』


 アコはそう言って2匹を見送ってから私を振り返る。


『じゃ、あたしも戻るね』

『おうよ』


 そう言ったアコも暗い森の中へと消えてしまっていた。




 しばらく静寂が訪れる。




 森の中は相変わらず静かだった。

 真夏とは違い、虫の鳴き声がすっかり寂しいモノへと変化している。


 時折、周囲に何者かの気配があったものの、それは決してこちらを注視するようなこともなく去って行く。

 中には私の視線に驚いてか、慌てた様子で去る者もいた。


「さて、と」


 私は独り呟いて、そんな森に背中を向ける。


 あの学園の中にある "何か"。

 それを黒い仮面ならぬ、里の主が狙う理由。

 心当たりが全く無い訳ではなかった。


 咲九は前に言っていた――天界にあっても、地界にあってもヤバイモノは境界に封印し(しまっ)ていた、と。

 そしてそれは、雷神の記憶の中にあった、咲九がこの簪ならぬ雷神の神器の条件をクリアした場所に繋がる。

 即ち、あるのは属性神の神器だろう。


 しかし、この答えが正しいという確証はまだ無い。


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