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175 ☴▲(☉)☈ それぞれ帰宅も(閑話) (*)

**********

  ☴ 視点

**********


 何事も無く、しかし、誰も居なくなった宮本家に帰宅はできた。

 私は、とりあえず私達だけに結界を張って一眠りすることに決めていた。



 そして目覚めてから、改めて色々と確認する。


 そこで初めて、自分の頭に包帯が巻かれてあったことに気付いた。


 最初は永瀬さんがやってくれたのだと思っていたものの、数日経って痛みが引いたので外してみれば、その内側の隅に丁寧にも名前が書かれてあった。

 その名前を見て、そこで初めて、誰が私を治療してくれたのか、あの鬼面の2人組の正体は誰なのか、理解をした。


 だが、今となっては全てがもう遅い。

 こんな状況でも無事に学校が始まったら、学校でこれを返しながら謝ろうと思った。まぁ、厳しい状況ではあるが。


 だから、今は千尋が目覚めることだけを祈っていようと心に決めた。



 ただ、数日が経っても宮本家には誰も帰って来なかった。


 しかも、千尋は一向に目覚めることは無い。

 このまま目覚めないのではないかと思うほど、千尋は安らかな表情で静かに寝息を立てている。


 誰も居なくなった宮本家の庭に、韮の花がひっそりと咲いていた。

 本来の結界が張ってあった中には、もう誰の気配も感じられなかった。


 千尋の父上も、家族も、あれほど煩かった人間も、地縛霊も。

 その全てがどこにも居なかった。


 しかし、追尾出来るほどの魔力も、今はまだ回復出来ていない。



 何もしない、ただ眠るだけの1日1日が、ただただ長く感じられた。



**********

  ▲(☉) 視点

**********


 母親との約束通りに香穂里と共に家に帰って来たものの、案の定、数日が経った今も両親も姉も帰宅することは無かった。

 自分達が帰宅困難になることは解っていたのか、テーブルに置かれたままの手紙と財布がそれを証明している。


 それでも、事実を知った今でも、私達は前に進まなくてはいけなかった。


 だから母親の残した魔法石を利用して結界を張る。

 これで家は安泰。


「まずは、手帳を買おう!」


 そう言い出したのは香穂里だった。

 あまりに唐突過ぎて唖然としたものの、家に余りの手帳が残っていたことで、この件はあっさり解決。


「後は、非常食とか……あった方が良いよね?」

「……神様は食べなくてもあまりお腹は空かないみたいだが」


 と答えつつも、数日間食べていない自分のお腹が鳴く。


「た、食べることが癖になっているのかなぁ……」

「誤魔化そうとしても身体は正直だよねー」


 そう答えた香穂里のお腹も鳴っていた。



 少し大通りに出ただけで、その異様な光景は嫌でも目に入っていた。


 道路だけではなく店までもが不自然な円形に切り取られている。

 その切り取られた円は直径10メートルほどだったものの、覗き込んでも底は暗くて見えない。


 香穂里に支えられて頑張って覗き込んでも、底はまるで無限に続いているかのように真っ暗だった。


 そこに青い集団がやって来る。

 誰もが橙色のバッヂを着けていることから、何となく、黒い仮面系の集団ではなく警察の超能力班だとは悟れた。


 その警察は来たばかりだというのに、手際よく野次馬を退かし、次々に立入禁止の三角コーンやサインシックと呼ばれる立て看板を設置していく。


 その間にも、現実逃避した自殺者か、覗き込み過ぎた野次馬か、警官の警告も空しく2名ほどがその穴に落ちていっていた。


「この穴は、どうやって空いたのですか?」


 気になったから隅にいた警官の1人に訊ねてみた。

 警官は一瞬だけ目を丸くしていたものの、やがて答えが返って来る。


「昨晩から、あちらこちらにこんな穴が空いているらしくてね。その瞬間は誰も見ていないから、どうやって誰が空けているのか解らないようだよ。とりあえず、この穴の底に何があるのか、被害者は居ないか、国連が調査しているらしい」

「そうですか、ありがとうございます」


 何て丁寧に答えてから、香穂里と2人でその場から離れた。


「まだ、永瀬が言っていた1週間は経ってないよね?」


 香穂里の質問に頷きながらも、ほぼお菓子でいっぱいになったリュックの中から手帳を出して、今日の日付と時間、そしてどこに穴があったのかを記入しておく。

 そのついでに、悪夢から帰還した日を確認した。


「後3日はあるデショ」

「だよね」


 そう答えた香穂里はチラリと後方を振り返っていた。

 なので私も振り返ってみる。


 穴は警察によって守られた。

 このことで野次馬が次々と撤退し、警察は最初から決められていたのだろう交通整備や落ちた人間の目撃証言などの聴取に当たっている。


 そして私は、やけに暗いな、と思ってちらり空を見た。

 そこで気付く。


「核を奪われたことで属性神のバランスが……崩れて来ているのか? いや、それにしては徐々に魔力が戻って来ているし……奪われた核も戻って来ているような気がするし」


 香穂里は悩みながらもただ唸っていた。

 なので思い切り溜め息をつく。


「遠音は(核を)所持している、みたいなこと言っていたから可能性はあるかもしれないが、それだけで穴が空くほどの崩壊が進んでいる訳ではないと思う」

「というと?」

「別の理由があるのではないか、と」


 そう言いながらも、私は遥か上空を指した。

 香穂里がその指先を追い、やがて私が既に気付いていたモノを発見する。


 ギョッとした表情で香穂里が私を振り返った。


「あれは!」

「うん。遊園地で見た、人を食べる奴だよね?」


 しかし、それは凄く巨大化していた。

 まるで空飛ぶクジラのように優雅に空を泳いでいる。


 が、姿は灰色の雲と同じような色合いで、恐らくは一部が使えるという隠遁の術を応用している……気はする。集中すればしっかりと見えるものの、しなければただの雲のようにも思える。

 ただ、穴と奴に関連がある可能性が高いとすれば。


「あれが地面ごと人間を食べたのかも」

「……まさか。でも、地面まで食べる理由になる?」

「この大通り、地下に電車が通っているのだよ」


 その一言で香穂里は目を丸くしていた。


 私達が野次馬から遠退いた側の少し先に駅があった。

 そして、それは私鉄ながら道路の地下を走っている。


 つまりは、その電車内の人間ごと食べようとした結果に地面ごと取り除いてしまったの()()()、と私は考えていた。だから、()()()は底が存在する。


 ――もっとも、私が好まない憶測でしかないが。



**********

  ☈ 視点

**********


「やっと先に進めたことは評価しましょうか」


 蓮は上から目線でそう言いながらも手早く周囲の荷物をリュックに詰めている。

 その光景を見ながらも、私は淹れてもらった紅茶を飲む。


 恐らくは、蓮の紅茶はこれが最後になるかもしれない。


「肝心なのは、姉さんの予知も、お兄さんの予知夢も無い、これからです」

「で? お前は一体何をしているんだ?」

「家出の準備ですかね」


 蓮がこちらを振り返って答えた。

 私は一瞬だけ固まったものの、すぐに大きな溜め息をつく。


 咲九は死んだ。

 だから何れ蓮が出て行くことは解っていた。


 それでも、今すぐではないだろうと思い込んでいただけに、寂しく思わないはずはなかった。


「……寂しいんですか?」

「そうかもな」

「神主さんが居るじゃないですか」

「まぁな。でも、お前じゃ無い」


 そう答えてから急に恥ずかしくなって、思わず蓮から顔を背けてしまう。


「お姉さんなら、もう独りでも大丈夫ですよ。属性神の仲間も、森の妖怪も居るんですから」

「しかし……」


「それに、リーダー格の水神が目覚めるまでは、代理のリーダーとして皆をまとめて上げて下さいね? まだ、過去の記憶に目覚めたばかりのヒヨコ3匹では……恐らくはまだ、全てを思い出した訳ではないでしょうし。少し早めに目覚め、しかも大元は姉さんが雷神の記憶を引き出していたことに加え、神器まで入手した。その神器を渡せるようにするために、姉さんは貴方を修行と称して、引き渡す為の条件をクリアさせていたんですよ。今の属性神の中で最も能力が高いのは、お姉さん以外にいませんよ?」


 蓮に怒涛のように言われずとも、咲九の修行の件は神器を受け取った時点で気付いてはいた。


 だが、確かに良く考えてみれば、咲九が記憶を引き出していたからこそ、私に核を渡して来た時点で、その今までの記憶全てが咲九から受継がれたことになる。

 これがもし、宮本のネックレスのようにモノを媒介したり、風見のように記憶を引き出す前に封印されていたりしたら、今の件を含めた豊富な知識を持つ私はここに居なかったと思う。


「……まぁ、オレはどう考えても、リーダー格ではないよなぁ。森のことを含めても」

「そんなことは知ってます」


 蓮はあっさりと肯定し、リュックの蓋を閉じた。そして荷物の重さを確かめるように浮かし、中の荷物を均している。


「あと、飴の食べ過ぎには注意しろって、お兄さん、言っていませんでしたっけ?」

「ぎくぅっ!!」

「擬音付きで答えてくれなくても、その足を見れば誰でも解りますよ」


 呆れた様子で蓮は答え、リュックを片側に背負う。

 それから、私の足元に何かを投げてよこしていた。


 足元を見て、それが何か解らないまでも、その球体を拾い上げてみる。


 確かに、足はあの禁術の所為で肉が完全に焼き削がれてしまっていた。

 風呂に入る度にその箇所から痛みを感じたものの、咲九から教わっていた、自分の中の瘴気をそこに全て集めることで多少は和らげてはいた。


 今は飴の食べ過ぎの代償で、禁術どころか神器ですらなかなか反応してくれない。


「これは?」

「姉さんが僕にくれた白い神器ですよ。残り1回くらいで、しかも完治までは出来ないでしょうけど、使わないよりは多少マシだと思いますよ。まぁ、緊急用の傷薬のようなモノです」

「そ、そんな貴重なモン……」

「それが使えなくなっても構わないですから、もう二度と無理はしないで下さいね」


 そう言った蓮はウィンクすると、歩いてさっさと奥の方へと行ってしまう。

 見送りする為、その後を慌てて追った。


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