173 ☉(☴▲) 悪夢からの帰還
目を閉じた一瞬で現実に戻って来られたらしい私は、恐らくは誰よりも先に目を覚まし、現状をすぐに把握していた。
謎の声ならぬ、現実で私らを守り続けていた声の主が、目の前に居る。
「大丈夫か?」
「何とか、ね。他はまだ?」
「見りゃ解るだろ」
永瀬にとってはきっとただの労いの言葉だったが、それでも今の私のとっては嬉しく感じた。
しかし、永瀬が先程から外ばかりを気にしている。
そして、戻りつつあった魔力のおかげで、私もその嫌な気配に気付いた。
しかし、身体の中に核が無い分、魔力を使うには少し心許無かった。
「いや、お前らは何もしなくて良い」
解っていたかのように永瀬は答え、こちらをやっと振り返ってくれた。
そして、私は何となく悟る。
「如月は、やっぱり死んだの?」
「あぁ。少し前のニュースだと、お前も死んだことにされていたが……」
「それはお互い様、でしょ」
そう言ってやりながらも、前ほど永瀬に対する執着心が無いことに気付いた。
もしかしたら、如月の思考などが永瀬に引き継がれている為かも知れない。
しかし、それ以上に、永瀬がどこか遠い存在になってしまった気がしてならなかった。
「全てを覚えている雷神――それは、遠音のことで間違いないか?」
ほぼ同時に風見と紗穂里が目を覚ましたらしい。
振り返ると、紗穂里が目を擦りながら永瀬を見てそう訊ねていた。
永瀬は2人を見て頷き返す。
「ただ、そのことを思い出したのは咲九が死んでからだ。アイツ、オレが堕転しないように雷神の核の一部を、記憶の方を持っていやがった」
「やっぱり、如月さんが死神なのね」
何故かは解らないが、どこか悲しそうに風見が呟いていた。
が、それには永瀬が頭を横に振っている。
「 "元" 死神だった、が正しいらしい」
「なるほど、通りで強いはずだわ」
私は呆れて答えてから、千尋を見た。
2人も千尋を見るが、未だに目覚めそうにもない。
「恐らくは、夢の続きを見ているのだと思う」
これには永瀬が答えた。
私は疑問を返す。
「私らは目覚めたのに?」
「悪夢ではなくなったからな」
永瀬は答えてくれたが、目線では外側を覗き込む。
嫌な気配は近付いてきつつあった。
「もっとも、その夢の続きの内容は、本来なら記憶に残らないらしいけどな。詳しくはオレも知らないが……」
「夢の内容は本人に聞いてはいけないと、千尋の祖父に言われたわ」
風見は私らにそう言った。
永瀬が振り返って風見を見る。
「良い夢は他人に話したらいけない、とは良く聞く話しだな」
「なるほど」
それだけで理解出来たのは風見だけだとは思う。
紗穂里も私も、思わず首を傾げていた。
「さて、外には黒い仮面の集団が居る訳だが」
永瀬はそう言って再度外を覗き見てしまう。
もっとも、言われなくとも2人も気付いてはいたらしい。
思わず失笑を返していた。
「狙いは、オレの中にある雷神の核だろう。だからオレが引き付ける間に、上手いこと逃げて欲しい。まぁ、属性神の核を持たないアンタらが狙われるとは思わないが……念の為って奴だ」
「遠音はどうするのデショ?」
「引き付け終えたら、そのまま引き摺って帰るだけだな。帰るのは咲九が居た森で……まぁ、事情は諸々あるが……今話す余裕は正直、無いな」
「まぁ、そうね」
そう答えながらも、こちらに向かって来る嫌な気配は、今はまだ遠くに居ることを確認する。
下の階層に数十体も居るものの、私でも全員を相手できそうなレベルの雑魚ばかり。
私らを捕獲した鬼面の気配は1つもない。
そして遠くに居るのは鬼面よりも強烈な瘴気を放っている。
つまりはあれが死神を名乗る偽りの死神様か、などと思いながらも風見を見た。
「風見は、千尋を背負って(千尋の)家に帰れそう?」
「多分、大丈夫」
「手伝う?」
「多分、平気」
私の次に発言した紗穂里の質問にも不安そうな返事をしつつ、狭い中ながらも、早くも千尋を背負う準備を始めていた。
それと外とを交互に見ていた永瀬は、全員の準備と心構えが整ったことを悟ると口を開く。
「宮本が暴走しそうになったら、風見。お前が宮本の両手を握って落ち着かせてやれ。それだけで大分違うはずだから」
名前を呼ばれて永瀬を見た風見は、理解してからしっかりと頷いていた。
それを見た永瀬は、そこから出る体勢になる。
永瀬の足から、何故か血が出ていることに気付いた。
「1週間後のこの時間くらいに何かが起こるらしい。それを集合の合図にしよう。場所まではまだ解らないから、時が来たらオレからテレパシーで声をかける」
そう言った永瀬はそのまま宙へと飛び出していた。
慌てて、すぐ近くに居た私が下を覗き込む。
すると、何故かかなり狭くなっていた足場から更に飛んだ永瀬が、足に魔力を集めて飛び回る姿が確認できた。魔力の帯が翼のようにも見える。
安堵して、私は柱の中に戻る。
柱の中に居る私らの足場の中央には人1人通れるくらいの穴が空いていて、そこから展望台らしき床が見えている。
展望台の中は既に客すら居ないのか、人の気配は全く感じられなかった。




