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170 ☈ 悪夢結界④

 宮本の兄貴のお陰か、今まで見ていた悪夢分、宮本自身が取り込んでいた瘴気も大分少なくなってはいた。

 だが、内側の精神的な部分までは治せない。


 私は独り必死に宮本の思念体を外に出そうとしていたものの、当の宮本はまるで少し前までの私のように、梃子でもそこを動こうとはしていないようだった。

 挙句に、こちらの思念体と悪夢の中の肉体が同化し始めてしまっている。


 そんな中、他の3人が追い駆けてくれていたことは、凄く助かっていた。


 何とか声は伝えられたものの、しかし、任せろと言っておきながら冷汗はかいている。


 ここで宮本を救えなかったら責任は大きい。

 それどころか、確実に未来は崩壊に向かうことになる。


『おい! いい加減、起きろ!』


 そう言って宮本の思念体に弱めの電撃を放つ。だが、宮本は兄貴に夢中で私に気付かない。


『くそったれが……』


 宮本の肉体の中に居るからか、私の思念体も宮本の肉体と同化は始まりつつあった。

 焦る気持ちとは裏腹に、宮本は兄貴と楽しそうに会話を繰り広げている。


『どうしたら……』

『君達は、千尋に何をしようとしているんだい?』


 不意にそんな声がしたかと思って振り返れば、思念体での兄貴が私の目の前に居た。

 余計に冷汗が噴き出してくる。


『……そこに眠る現実の宮本を、起こそうと思っている』


 思念体は "現実で生きている者" にしか現れないはずだった。所謂、幽体離脱みたいな現象。

 だから、現実にある肉体はそのまま放置されることが多かった。


 だが、何故かは解らないが、宮本の兄貴は私の目の前に思念体を送り込んでいる。


 もしかしたら、実の母親がぬいぐるみに宿った悪魔の魂――所謂、魔物だから出来ることなのかもしれない。


 そう思いながらも、私は正直に答える。


『ここは、オレらにとっては過去の悪夢の中。本来は現実に戻らなくてはならないのに、宮本がそれを拒んでしまっている。もしこれが長く続けば、現実の宮本は必ず堕転する』

『だから、死んだはずの俺が生きているのか!』


 気の抜けた返事をした兄貴はニタニタと笑っていた。


『やっと理解したよ……なるほど、俺が死んだ後、千尋は目覚めてしまうんだね』

『目覚める? 一体何の……』

『堕転した者から生まれた魔物の子供は必ず堕転する』


 急に真面目な表情になった兄貴はそう答えた。


『だから、千尋の堕転を止めることは出来ないんだ』

『そんな……』


 宮本の堕転を止めなければ、肉体と同化した思念体まで堕転する。

 まして現実でも既に堕転している宮本では、こちらでの堕転には耐え切れないだろうと考えていた。


 だからこそ、この肉体から引き抜かなければならないとばかり考えていた。


 本来であれば、あの3人のように輪廻の事実に気付ければ、自然と思念体として目を覚ます。そして過去の肉体から離れられるはずだった。

 が、宮本はまだ気付いていない。自然に気付かせる為には時間が必要だったが、もうその時間も残されてはいない。


『その代わりに、体内から瘴気を吐き出す方法と、無心になる方法、それから魔力暴走を起こさない為の魔力の封印を親から伝授される。ただし、封印は最終手段らしいんだ。封印してしまうと、体内に残った瘴気が悪に変化し、そこから悪神が生まれてしまう可能性があるから、と聞いているよ』


 そう答えた兄貴は千尋の思念体を覗き込んだ。

 千尋は兄貴の思念体の登場でもこちらには気付いてくれそうもない。


『でも、それを知っているのはお母さんだけなんだ。お父さんは、お母さんをただ永らえさせているだけでその事実は知らない。だから千尋が堕転する前、瘴気を半分くらい吸収してしまったら事実を教えると言っていたけど……現実では、それが間に合わなかったのかもしれないね』

『あぁ、だからお前は死ぬ直前に、宮本に水神のネックレスを渡して実家に急いで逃げろと言ったのか』

『そうだよ。それに彼女の狙いは俺ではなく、俺と仲良くする千尋だったからね。もし俺が全力で彼女を足止めしたとしても、彼女は俺を殺した後で千尋を追い駆けてしまう。千尋には、俺の知る事実は何も知らずに、自分のことだけを考えて生きて欲しい。それが俺の最後の願いなんだ』


 現実や事実は時に残酷だと思う。

 敢えて知らなくても良いことは、沢山あった。


 だが、その事実を知らずに生きろ、というのも時に残酷なこともある。


 その両方を知っているだけに、私は返答を悩んだ。

 だが、悩む時間はもう無かったらしい。


『……さて、そろそろ俺が死ぬ時間だ』

『ま、待ってくれ!』

『この後、千尋の本物の思念体は "魔界" に堕ちると思うよ』


 兄貴はそう言い残して勝手に消えた。


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