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165 ▲(☴☉) 一度きりのやり直し①

 目覚めると、そこは病院の中だった。


 ベッドに寝ているはずの香穂里が、何故か目を覚まして私を見つめている。

 同時に目覚めたのだろう、香穂里も困惑の表情だった。


 しかも、私達には何故か肉体が存在していた。

 過去の記憶もはっきりと持っている。


「どういうこと?!」


 私の一言に香穂里が失笑する。


「一度しかチャンスは無い……それが、こういうことなんじゃない?」

「まさか過ぎて言葉にならないデショ……」


 唖然とする私に対して、香穂里は早くもその身体を起こしていた。


 そこにカナコが普通にやって来る。


「目を覚ましたの?!」


 面倒だなぁ、と感じたのは私だけでは無かったらしい。

 香穂里は私に目で同感だ、と言いながらもカナコを見つめた。


 カナコは嬉しそうに寄って来る。


「ねぇ、遊ぼうよ!!」


 内心 "キター!!" と思いながらも、ここで断ったらどうなるのかを少し想像して、私は香穂里に頷いてから答える。


「良いよ。でも、香穂里の負担にならないくらいので、且つ短いので良いかな?」

「解った!」


 そう答えたカナコは少しだけ悩んだかと思えば、すぐに右側を指した。

 が、恐らくはその方向に行こうと合図したのだと解り、私達は頷き合ってから向かうことにした。



 カナコが指した方向は、過去に千尋と共に来たことのある風見さんの部屋だったらしい。

 少しだけ入れば、そこには風見さんがベッドの隅に座っているところだった。


 風見さんは目を丸くして私達を見つめている。


 カナコの背後で頷いて見せれば、風見さんはなるほど、という納得の表情を返してくれた。


「ふうちゃん、尋雪お兄ちゃんのお部屋に、一緒に行って遊ぼうよ!」

「解った」


 ふうちゃん、と呼ばれた風見さんは頷いて立ち上がる。



 そして4人になった私達は、更にその隣の部屋に向かった。

 そこに居たのは男の子が1人だけで、他には誰も居ない。


「お兄ちゃん、遊びに来ちゃった!」


 元気良くカナコが言えば、その男の子・尋雪が笑っている。

 立ち上がって窓の外を見ていたらしい。


「さっき別れたばかりだろう? そんなに遊び足りなかったのかい?」


 そんな尋雪の優しい言葉が返って来る。

 カナコは嬉しそうに尋雪に近寄り、そのままベッドの上にダイブした。


 尋雪は失笑しながらも、本人は椅子に座る。

 そして、私達に目配せする。


 その瞬間、私は目を丸くした――尋雪のオーラに瘴気が混ざっていることに。

 その瘴気はかなり濃く、はっきり言ってしまえば気持ち悪かった。


 が、そんなことお構いなしにカナコが私達を近くに呼ぶ。


『無理はしなくて良いよ』


 不意に尋雪の声が頭に響いた。

 その声は先程とは異なり、オーラよりも更に気持ち悪かった。


 香穂里は吐き気を催したのか、口を押さえている。


「カナコ、あまり新しい子を俺に近付けようとしないでおくれよ。新しい子が俺のオーラで緊張しちゃうだろ?」

「えー!? だって、皆で遊びたいもん!!」


「うえぇぇぇ」


 タイミング良く香穂里が吐いた。

 それを見ていたカナコがビックリして上半身を起こす。


 私と風見さんは同時に香穂里を心配し、2人で香穂里を守る様に挟んでいた。


『そうなる、よね』


 解っていたかのように尋雪は悲しそうな表情をする。


『このオーラは生まれた時からの持病みたいなモノ。この命、もう長くはない。だから、わざとここに入院出来るように複雑な骨折をしたんだ』


 返答しようにも、私達は誰もテレパシーを使えなかった。

 だから、ただただ黙って聞くしかない。


「瘴気を絶つ能力者を探しているんだ。何か知っていたら、今度教えてくれないか?


 カナコはあんまりお友達に無茶させたらダメだよ?

 俺が遊んであげるから、皆には帰ってもらっても良いよね?」


 尋雪はそう言ってから目で部屋から出るように合図した。

 なので、頷いて答えながらも香穂里を支えて部屋を後にする。


 そして、真っ先に風見さんが小声で話し出す。


「過去には、あんなには瘴気、保持していなかったはずなのだけど……」

「遊ぶ時は、自力で抑え込んでいたのかもしれない」


 次なる吐き気を堪えたらしい香穂里はそう答えていた。


「部屋に入るまで、瘴気は一切、感じられなかったから……」

「何が原因なんデショ」


 私の問いに2人は頭を横に振った。

 風見さんは溜め息をつく。


「瘴気を絶つ能力者……思い付くのは、如月さんしか居ないのだけど……」

「この夢の中に居たとしても、どうやってそこまで向かうの?」


 香穂里のツッコミに風見さんは頷き返した。

 解っていたから溜め息をついていたらしい。


「そもそも、ここは一体、どんな世界なのよ……」

『悪夢の中』


 不意にそんな言葉が頭に響いた。

 あの瘴気混じりの尋雪の声では無いので周囲を見回す。


 返答しようとした風見さんがまた溜め息をついている。

 そういう私も、思わず返答しようとして察した。


「テレパシー……使えないのって、不便ね」


 風見さんの一言に私達は同時に頷き返していた。


「ここが悪夢の中なら、どうして肉体があるのよ?」

『肉体があるようで無い、が正しい』


 こちらの声は直接相手に聴こえているらしく、相手はそのように答えてくれていた。

 なので訊ね返す。


「どういうこと?」

『自分ら以外を触れば解る』


 そう言われて私が近くにあった壁に触れれば、私の手は壁を通り越して外に突き出していた。

 外にある手が風に吹かれていることを感じる。


「肉体に見えるだけで、触れたら通り抜けてしまうのか!」

「となると、建物の床も抜けてしまうはずじゃ……」

『それは、お前らが持つ微量の魔力のお陰でそこに立てているだけだ』

「だから魔力が上手く使えない、ということね」


 風見さんの言葉に返事は無かった。つまり、それが正解らしい。


『肉体が完全にある訳じゃないから、本当に最低限のことしか出来ない』

「そうみたいね。結界は凄く薄いモノなら張れるみたいだから、すぐに解ったわ」


 風見さんは答えながらも、私達の周囲を指した。


 良く見れば、確かに私達を囲うように風見さんの結界がある。気付けなかったのは、あまりにも薄かったため。

 突いただけで壊れそうと思ったのは香穂里も同じなのか、香穂里が結界にわざと触れようとしていたので、私がその手を風見さんの代わりに叩いておいた。


「つまり、私達の姿が見えるのは最低限の関係者だけということよね?」


 返事は無かったが、つまりはそういうことなのだろう。


 今も私達の脇を看護師が通り過ぎているが、私達を見るどころか、風見さんにぶつかって来そうな勢いで歩いていた。

 風見さんは間一髪で避けてしまっていたものの、恐らくはぶつかっても通り抜けて行ってしまうのだろうと思われた。


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